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王女、再会する。

66.

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「え?王女……?」

 はい?と言うヒエンの呟きに答える者はおらず、気まずい時間が流れる中、カトレアはグレンを見返す。

「…………何の話し?」

「……嬢ちゃん、クランジスタ王国のカトレア第一王女サマやろ。最初は偽者か替え玉か変なやつか、まさか本物が1人でこないな所にふらふらとあり得へんやろう思うとった」

 ハァとため息を吐きながら、グレンは眉根を寄せる。

「……やのに、最年少王宮魔術師で有名な、クシュナ言う地味真面目までわざわざこんな所まで追いかけて来おって、更には魔法の同時詠唱の実演済み。あんなん使えるやつ世界中探したって数えるほどしかおらん。これまで全部ひっくるめて、嬢ちゃんは本物の可能性が高い結論に至ったわ」

「…………」

「……誤魔化そう思ったかてもう無駄やで。こちとら四方八方魔物から人間まで敵だらけな、魔力持ちの日陰者なんや。情報不足は命取りやからな」

 黙っているカトレアの腕を離さず、グレンは続ける。

「第一ちょいちょい切羽詰まる度にカトレア呼ばれとるしな……」

 ハッと息を吐いて視線を明後日に飛ばすグレンの言葉に、パルはバシッと自身の口を両手で押さえる。

「……まぁ、それなら話しは早いわ。腕を離して」

 しばし黙って聞いていたカトレアは、一息吐いてグレンを見上げる。

「え?マジかよ?ホントに?王女……サマ?え?ガチで?」

「…………」

 え?え?え?とグレンに肩を貸したままにオロオロと挙動不審になるヒエンと、言葉を失った様子のリオウを傍目に、パルは口を押さえたままにオロオロと目を泳がせる。

「早く」

 いくらか温度が下がったように錯覚させるカトレアの纏う空気を無視して、グレンは眉根を寄せたままに動かない。

「……ホンマもんの王女サマなら、尚更この手は離せんな。万が一王女サマが死のうもんなら俺らはや。地味真面目がに辿り着いた以上、俺らの情報は少なからず伝わっとるはず。嬢ちゃんがどういうつもりかは知らんが、死人に口なしやからな。どう足掻いた所で嬢ちゃんが死んでもうたら、俺らは王族殺しの大罪人を逃れられん」

 グレンの言葉を聞いて、ヒエンはごくりと生唾を飲み込み、リオウは場の状況を静観する。

 そんな中カトレアはすっと視線をパルへと移し、静かに口を開く。

「……それなら、パルがいるから大丈夫」

「えぇっ⁉︎ボクぅっ⁉︎」

 明らかにギョッとするパルを無視して、カトレアは言葉を続ける。

「パルは精霊だから、精霊の特性として嘘がつけない。パルの存在は国でも認知されているし、万が一があれば証人として、そこら辺の人間よりはよほど信頼されると思う」

 だから離して。と続けるカトレアの後ろで、パルはいやいやいやいや!と頭を抱えながらひどく頭を振り続けている。

 そんな様子を眺め、グレンは再び苛立ったように眉間にシワを寄せた。

「…………もう外に出られたんやで?着の身着のまま逃げ出した一文なしの盗賊が、リスクしかない金ヅルの王女サマを、みすみす目の前で逃す訳ないやろ」
 
 ギリっと握られた腕を見下ろし、カトレアは静かに剣のあるグレンの瞳を真っ直ぐに見返した。
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