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王女、再会する。

64.

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「カっ……カト……っ!カトレア様ーーっ!!!」

「嬢ちゃん!!!」

 瞬間的に頭に血が昇った状態のクシュナは、叫びながら制御ギリギリの魔法を暴発に近い勢いで編み込んでいく。

「ちょ……っ⁉︎」

「うわあああぁぁぁっ⁉︎」

 クシュナを中心に取り巻く魔法の圧力で、パルは叫びながらクルクルと吹き飛ばされ、ヒエンは思わず顔を両腕で覆って圧に耐えるのが精一杯だった。

 グレンは頭上高く浮かぶカトレアを見上げて束の間逡巡する。

ーー俺の炎は精度が悪い上に、そもそもあない近いんは巻き込む可能性が……っ!

「おい、そこの男!死んでもその人に傷一つ負わすなよ!!」

「は、はぁっ⁉︎何でお前なんぞに……って人の話し聞かんかいどあほう!!」

 急に怒鳴りつけるように命令してくるクシュナは、けれど言いっぱなしでグレンを全く見ずに魔法をカトレアとソレに向けて放つ。

 クシュナから発された魔法の行方を目で追い、グレンは自身の頭上に浮かぶカトレアたちを見上げた。

 放たれた魔法は真っ直ぐに空を切り、2人に到達した瞬間に眩い光を放ちながら花火のように四方へ弾け飛ぶ。

「ギャウッ……ッ⁉︎」

 弾け飛んだ光に堪らず、ソレは動物のように素早い反射神経で叫び声を上げながら小さく丸まってカトレアから飛び退る。

「……っ!」

 当然のように戻ってきた重力に従い、カトレアの身体が支えを失って落下を始め、思わずその身体を硬くしたカトレアの瞳は見上げているグレンの瞳と交錯した。

「嬢ちゃん……っ!」

「…………っ!」

 グレンはほぼカトレアたちの下にいたとは言え、動かないその身体が細かな位置調整を邪魔をしていた。

「クッソ、あの地味真面目……っ!全然真面目ちゃうやないかい……っ!」

 ギリっと奥歯を噛み締めて、グレンは急降下するカトレアの下に滑り込むべく、痛む身体を無視して半ばヤケクソでカトレアの落下予測地点へと飛び込む。

「グ……ッ!グレンさっ!」

 ずっざざざぁぁぁっ!っと受け身も取らずに盛大な砂煙を上げてスライディングするグレン。

 その背中にちょこんと座ったカトレアは、焦ったように倒れたままのグレンを揺さぶる。

「グレンさん!大丈夫⁉︎」

「……………………なんで勢いなくなってんねん……」

 地面に臥したままに、グレンから低い声が発せられる。

「あ、多分クシュナが風の魔法を同時に……」

「……同時て何やねん……」

「えっと、クシュナの特技と言いますか、魔法の同時詠唱、同時発動が彼の持ち味でして……」

 光の魔法を発動するのと同時に、風の魔法の発動用意も整えていたクシュナは、カトレアの落下速度を風の魔法によって受け止めていた。

 そうとは知らぬグレンは、クシュナの言葉を間に受けて全力で飛び込んだ結果となり、地面に倒れ臥したままにわなわなとその身体を震わし、砂利をガリガリと掴み取って握りしめる。

「……なんやそのチート能力は……っ!聞いたことないで……っ⁉︎……地味真面目なだけあるっちゅぅことかいな…………っ⁉︎ひとまずあの地味真面目は…………いつか絶対に泣かしたる……っ!」

 ガバっとやっと身体を起こし、怒りと羞恥と痛みに顔を真っ赤にしながら目を吊り上げるグレンに、カトレアはアワアワと慌てる。

 ギリギリと歯ぎしりをするグレンの目の前に手が差し出され、グレンは眉根を寄せながらその手の主を見上げた。

 溢れる金髪を片手で押さえながら、目の前で腰を折ってかがむカトレアは、少し困ったような顔をしながら口を開く。

「助けてくれてありがとう、グレンさん」

「……別になんもしとらん」

「クシュナも実際にどうなるかわからなかっただろうから、グレンさんがいてくれて思い切りできたんだと思う」

 しばし差し出された手を眺め、チッと舌打ちをして、グレンはそっぽを向きながらカトレアの手を取り身体を起こす。

 照れ臭いのかバツが悪いのか視線を合わせないグレンの高い鼻先や顎は、先のスライディングで赤く擦り剥けていた。
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