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王女、再会する。

56.

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 坑道の入り口から少し離れ、森が少し開けた場所。リオウ、ヒエン、ナクタは身を潜めて坑道の入り口を眺めていた。

 坑道の入り口は未だ魔物に溢れ、中へ入ろうともがいている魔物の山が出来上がっている。

「おい、どうすんだよ⁉︎どうすればいい⁉︎」

「ヒ、ヒエン、落ち着いて……っ!」

 焦りのあまりリオウの襟口を揺さぶるヒエンにナクタが止めに入るも、動きの荒いヒエンが弱々しいナクタに抑えられるはずもなかった。

「直ぐに戻って、連れて来れるだろっ⁉︎」

「……今日の転移は先の脱出で終わりデス。わざわざ魔物だらけの広間を抜けてヒエンさん方を迎えに行ったのもそのためデス。……できたとしても、土だらけの坑道へ飛ぶのは危険デスから、入り口から入って直接合流するしかありマセン」

「…………っ!できないことばっか並べんじゃねーよっ!だいたい、何でさっき術を止めなかったんだよ!お前だってあの魔物見えてただろっ⁉︎」

「止められるタイミングではありませんデシタし、下手したら我々全員、まだ土の中デシたよ……?」

「……っ…………っ!」

 怒りのぶつけ先がないヒエンは、吠えるようにリオウに当たる。そんなヒエンを、ヒビの入った眼鏡の奥からリオウは無感情に見つめていた。

「ヒエン、リオウさんを責める所じゃないよ……っ!そもそも、リオウさんがいたから脱出できたんだよっ⁉︎」

「…………っ!……わかってる!わかってるけど……っ!」

「……ほら、謝って……?」

 ナクタに促され、ヒエンは握りしめていたリオウの襟元を離すと、消え入りそうな声で悪かったと零す。

 そんなヒエンをわずかに眉をひそめて見下ろすリオウは、言葉を発さずに何事かに考えを巡らせていた。

「カ、カトレアぁーっ⁉︎カトレアぁー⁉︎カトレアぁーっ!!!」

 一方で、連れ合いとはぐれたパルも尋常ではない焦りで叫びながら、空を忙しなくジタバタと飛び回っている。

 精霊と言えど好き勝手に移動ができる訳でもなく、ましてやあの魔物の山を縫ってカトレアの元に辿り着くことはパルでも不可能に近かった。

「どぉしよぉ⁉︎えぇ⁉︎どぉしよぉ⁉︎どぉしよぉぉぉおおぉぉっっっ⁉︎⁉︎」

 ぎゃーっと空で小躍りするパルはパニック状態で、その大きな栗色の丸い瞳からは焦りのためか涙が溢れ落ちている。

「よりによって、加護もぉ……っ!あの変な男に渡しちゃったしぃ……っ!そもそもあんな魔物だらけの場所にあんな男と2人だけなんてぇ……っ!」

「……あの、何かおかしくありまセンか?」

 あたかもこの世の終わりかの如く、泣いたり青くなったり打ちひしがれたり忙しいパルを眺めつつ、リオウは徐ろに口を開いた。
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