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王女、共闘する。

47.

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 カトレアは、こちらを見つめる三対の目を見返していた。

 坑道の通路からその全貌を見せた魔物は、広間に溢れる魔物の中でも異質さを放っている。

 角を生やした獅子の頭と胴体に、蛇の頭の尻尾。更に、どういった構造であるのか胴体の背中からは山羊の頭が生え、翼も持っているようだった。

 その体躯は大きく、坑道から出た姿は軽く見上げるほどのサイズがある。

 獅子と山羊と蛇の頭が、それぞれカトレアを睨みつけて威嚇し、臨戦体勢に入っていた。

「ち、ちょっとぉ!コイツやばいよぉ!早く逃げてぇ⁉︎」

 横でパルが騒ぐが、カトレアが魔物から視線を逸らすことも、場を移動することも叶わない雰囲気だった。わずかな変化で、一足飛びに取って食われそうな空気しかない。

 本能か、経験か、カトレアは自身の身体が警鐘を鳴らしているのを感じた。

 イヤな汗が、カトレアの背中を伝う。

「せっかく目ぇが6つもあるんや。おんなじ方ばっか見とるとーー」

 先ほど自身が火をつけた植物型の魔物を、蔦を持ってブンブンと振り回すグレンに、カトレアは目を丸くする。

「ケガするで!」

 言うが否やグレンが放った植物型の魔物は、3つ頭の魔物を巻き込んで押し倒れる。

「グ、グレンさんっ⁉︎」

 魔物の鳴き声が響く中、ギョッとするカトレアをよそに、グレンはそばにいたリオウの首根っこを引っ掴んで前へと押し出す。

「ぼやぼやすんな!早よ通路へ走れ!」

「え、あ、わ、わかった!」

 グレンの声に、弾かれるようにカトレアは走り出す。走り出してから、カトレアは自身の身体がいかに緊張で強張っていたかを自覚する。

 横目で見る3つ頭の魔物は、炎のついた植物の魔物に絡まれてもがいていた。

 一目散に坑道の通路へと走り込んだカトレアとリオウは、通路の先を確認した後に広間を振り返る。

 2人の瞳に映ったグレンは、周囲を気にしながら魔物を避けつつこちらに走り込んで来る最中だった。

「グレンさんーーっ!」

 手を伸ばそうとしたカトレアを遮るように、目前に山羊の頭が飛び出して視界を遮られる。

 身体中の毛が逆立つような、恐ろしい声と表情で涎を撒き散らしながら鳴く山羊の頭に、カトレアは反射的に飛び退いて身構えた。

「グレンさん!グレンさんっ⁉︎」

 山羊の頭の向こうにいるはずのグレンへと、カトレアが呼びかける。

「グレンさん!」

 山羊は未だ視界を塞ぎ、口をガチンガチンと開閉しながらこちらを威嚇しているようだった。

「グレンさん!」

 カトレアの返答のない呼びかけが、坑道の通路に虚しく響いた。
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