上 下
39 / 101
王女、共闘する。

38.

しおりを挟む
「用意はええか。そこを超えたら壁はないで」

「わかった」

 チャキリと音を立てて、グレンとカトレアはそれぞれに抜剣する。

 グレンの指す魔物との境界には、恐らく魔物除けの液体のようなものが巻かれているらしく、現状こちらに踏み入る気配はなかった。

 所々に照らされる松明の灯りに照らされ、魔物の影が不気味にうごめいている。

 カトレアたちの姿を目視した魔物たちは、更に躍起になって騒ぎ立ち、その勢いを見ると魔物除けの効力がいつまで持つかは怪しいものだった。

「……ひとまず炎で蹴散らしつつ、切り崩してくで」

「了解!」

 言うや否や、グレンは自身の左腕を突き出して魔物を睨みつける。腕の周囲に黒い炎が迸り出し、風もないのにグレンの髪や服が揺れた。

「……黒炎」

 呟きと共に突き出した手をグレンが握りしめた瞬間に、境界から1番近い先頭で蠢いていた犬型と大きな蜂のような魔物がけたたましい鳴き声をあげて黒い炎に包まれる。

「……突っ込めっ!」

 グレンの合図と共に、3人は走り出した。

 先頭を走るグレンは、未だ黒い炎に包まれて叫びを上げる2体の魔物の直前で軽々と地を蹴り、その勢いのままに蜂の魔物を蹴り飛ばす。

 蹴り飛ばされた蜂の魔物は炎を纏ったまま、その勢いのままに後続の魔物たちを巻き込んで盛大に押し倒れた。

 魔物たちの鳴き声が響き渡る中、カトレアは炎で動きが止まったままの獣型の魔物を、飛び越え様に切り倒す。

 そのままスピードを落とさず、坑道の通路で押し倒れている魔物を炎を避けて踏みつけながら、グレンとカトレアは更に奥の魔物へと斬りかかる。

 グレンは力技で、魔物を切るというよりは叩き潰していくようにまとめてなぎ倒していく。対するカトレアは小回りを利かせながら、的確に魔物の攻撃を避けつつ戦力を削いでいった。

 決して広くはない坑道で、押し寄せる魔物を相手にそれぞれのスタイルで器用に魔物に相対する。

「……嬢ちゃん!先陣任せてもええか!?」

「い、いけど何で……っ!?」

 大きな鎌をもつイタチのような獣型の魔物の鎌を、剣で弾き飛ばしながら、カトレアは視線を向けずにグレンへと返答を返す。

「もうちょい先に針だらけのでかいやつがおるっ!!あいつは攻撃うけると針を飛ばすやっかいなやつやけど、魔物に囲まれとる間に炎で針を周囲に飛ばしたるから、当たるようなへまするんやないで!」

「わかった……けど……っ!簡単に言わないでよ……ねぇっ!!」

 イタチの獣型の魔物を切り倒し、イソギンチャクのような触手を伸ばしてくる魔物に若干ひるみつつ、カトレアは休みなく剣をふるい続ける。

 弾力がある触手はやわらかく剣でうまく切ることができない一方で、攻撃の際には強度を増して地面にめり込むほどに変幻自在だった。

 カトレアは向かいくる触手を避けて、強度が増して固くなった瞬間の触手を叩き折ると、触手の魔物が声にならない声をあげる。

「黒炎!」

 カトレアよりわずかに後ろでグレンの声がするのと同時に、厚い魔物の壁のいくらか向こうで火の手が上がる。

 魔物の悲鳴と同時に、前方から勢いよく放たれる針の一本を視界に捉え、カトレアはすんでのところで体を右へとずらす。

 次の瞬間、魔物たちのけたたましい叫び声が一斉に坑道内を揺らした。グレンの目論見通り、針の魔物が炎に触発されて発射した針で、周囲にいた魔物が針による負傷の叫び声をあげているようだった。
しおりを挟む

処理中です...