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王女、交流する。

36.

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「……あ、あの、ごめんなさい……」

 自身のせいで引き起こした非常事態である可能性を知り、カトレアは責任の一端を感じて謝罪する。

 その様子をグレンは眉間にシワを寄せて横目で見やり、直ぐにリオウへと顔を向けた。

「……ヒエンとナクタが心配や。リオウ、ヒエンたちの所への転移は使えるか?」

「……それが……今日は予定よりも多く使い過ぎたノデ、人数と距離を考えても確実に飛べるのは、恐らく全員であと一回……デスね……」

「……ようは脱出分一発勝負てか」

「そうなりマスね……」

「……おもろいやないかぃ」

 グレンはニヤリと笑うと髪を巻いていた布を再びギリリと巻き直し、パンと両の拳を打ちつける。

「せやったらヒエンとナクタを拾って、リオウの転移で外に出る。その手筈でいくで。えぇな」

「わかりマシた」

「リオウ、お前は俺を踏み捨ててでも2人んとこ辿りつきや。俺がとちっとろうが捨て置け」

 そう言いながら、グレンは部屋内にあった荷物から物品や武器、装具などを身につけはじめる。

「必要以上にあれもこれもと思うなよ。ええな、あの2人を任せたで」

「グレンさん……」

「ち、ちょっと待って!」

 会話に割り込むカトレアに、2人の視線が集中する。

「……何や。悪いが嬢ちゃんを守る約束は出来へんで。とはいえ安心し、置いて行きはせん。死にたなかったら死ぬ気でついてき。一緒には連れてったるわ」

 ジロリと睨むグレンの射るような視線に気圧されながら、けれどカトレアはその翠の瞳で真っ直ぐに朱色の瞳を見返す。

「守ってもらおうとは思ってない。魔法は使えないけど、私も剣でなら戦える。……あなたたち、戦える人があまりいないんじゃないの?それなら、協力させて」

 ヒエンは魔物と戦えないと自分で言っていたし、助けに行く前提で話しを進めているナクタと言う人物。そしてカトレアを追うために、わざわざグレンを別行動で連れて来たリオウに、これまでの会話の流れを加味して、カトレアは提言する。

 言いながら、カトレアははらりと縛られた振りをしていた両手を左右に軽く開いて見せた。

「……縄はどうしたんや。まぁまぁ固く縛ったはずやで」

「パル。出てきて」

「あん?」

「カ、カトレアぁ……」

 ぴょーんとグレンを迂回するようにパルが物陰から飛び出す。その口にはカトレアの剣を鞘ごと咥えており、カトレアに近寄るとその手へと手渡した。

「そいつか?飼っとる言うとった変なんは」

「この子はパル。精霊の友だち。私と一緒にいてくれてる」

「……今日は終いしまとか言うとらんかったか?」

「……ごめんなさい、そこだけ嘘。パルとは契約とかそう言う関係でなくて、純粋に友だちだから、回数とかの制限はないの。でも、すごく頼りになる子よ」

「か、カトレアぁ……。この人怒ってるしぃ、魔物の気配すごいしぃ……っ……馬鹿正直に言えばいいってもんじゃないよぉ……っ⁉︎」

 オロオロとするパルを尻目に、カトレアは真っ直ぐにグレンを翠の瞳で見つめる。

 しばしそんな1人と1匹を無言で眺めていたグレンは、剣呑な表情を崩さないままに口を開く。

「その変な動物の言う通りやで。馬鹿正直におればえぇ言う問題やない」

 ガシャリと武器を鳴らしながら、グレンがカトレアへと近寄る。カトレアとパルを眉間にシワを寄せて見下ろすグレンは、ゆっくりと口を開く。

「えぇか、変な動きしよったら消し炭にしたるさかい、覚悟せぇよ」

「わかった。ありがとう、よろしくね」

 肩に乗せたパルを撫でながら、舌打ちして踵を返すグレンの背中に、カトレアはわずかに微笑んで声を掛けた。
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