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王女、交流する。

31.

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 カトレアをグレンごしに覗き込んで指を指してくるヒエンの指摘を受けて、その場の視線がカトレアに集中する。

「……なんや、変なん飼っとるんか?嬢ちゃん。それでその余裕か?」

 剣を含んだ視線を向けて詰め寄られ、カトレアはパルに合図を送りながら口を開く。

「あの子は私の友だち。友だちになったのも……まぁ色々あってたまたまだし、精霊だからいつでも一緒にいられる訳じゃないから、呼べるのは今日はもうおしまい。私は精霊使いとか魔物使いとか、そういう希少な力は持ってないです。残念ですけど」

「精霊?…………そういうもんなんかいな?」

 カトレアの言葉を聞いてグレンはカトレアに聞き返しつつ、同時に視線でリオウとヒエンにも意見を聞く。

「……魔物じゃなくて精霊だとか、あの獣は自分で言ってたけど……。……この女の指示で、その獣がアタシを助けてくれたのは事実だよ……」

「精霊使いだとか魔物使いだとかはさっぱりデスね。そもそも精霊と呼ばれる存在にすら遭遇したこともないデスし。お嬢さんのお話が真実かも検討がつきまセン」

「……………………」

 むむむとグレンは眉間にしわを寄せる。ヒエンとリオウも自身が知り得る限りを口にしたが、そこにグレンも含めて有力な情報があるとはお世辞にも言えなかった。

 カトレアの真実とウソをない交ぜにした言葉の内容は、一般的には特殊過ぎて出回っている情報も少ない。真偽を知る術は、グレン一行に限らず簡単に見つけられるものではないものだった。

「奥の手使って逃げたらよかったやろ。なんで逃げんかったんや」

「さっきも言ったでしょ。今日はもうおしまい。魔物と相対してる時は非常事態だったし、ヒエンさんが私を助けてくれたから、助けるために使えるものは何でも使っただけ。奥の手なんだから、そういうものでしょう?」

「………………ほぉう?」

 カトレアの言葉にグレンは黙り、じっとその表情を見つめる。カトレアはその朱色の瞳を真っ向から翠の瞳で見つめ返す。

 しばし緊張感が漂う無言の時間が流れ、リオウとヒエンもその成り行きを黙って見つめていた。

「……まぁええわ。いざとなったらこっちもやりようはあるでな。変なことは考えるんやないで」

 しばしの後に、グレンは息を吐いてその赤髪をガシガシとかき、びしっとカトレアへ人差し指を突き立てる。

 その様子に、カトレアがホッと胸を撫で下ろすのも束の間、次の瞬間にはローブの首元をグレンに荒く掴まれていた。

「…………っ!?」

 思わず息を止めて目を見開くカトレアを、グレンは冷めた目をして見下ろす。

「とは言え、念のためや。身体検査は受けてもらうで」

 顔を寄せてニヤリと笑うグレンの言葉に、カトレアのこめかみに汗が伝った。
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