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王女、家出する。
15.
しおりを挟むーーこの声……さっきの……っ⁉︎
急いで周囲を見渡すカトレアの視界に、あの目立ちそうな赤い髪と吊った赤い瞳は映らない。
”どこ見てんだ、トロイな“
ーーえ、どこ……っ⁉︎
尚もキョロキョロと腕を引かれながら見渡す内に、ヒエンの声は肉声ではなく頭の中に直接響いていることにカトレアは気づく。
”上だ、上“
その声と同時にカトレアが顔を上げると、何の変哲もないよく見る小鳥が1羽、空中で羽ばたきながらひと所に留まってカトレアを見下ろしていた。
“そう、その鳥。外に出たいなら鳥について来い。ただし、その男はいい具合に撒いとけよ”
鳥からヒエンの声が聞こえるや否や、鳥はツイと空中を滑るように移動しだす。
移動する鳥を目で追いながらも、カトレアの脳内はぐるぐるとまとまらない思考が渦巻いていた。
ーー相手は盗賊。パルがいるとはいえ、あえて危険を犯す価値があるの?城に帰れば、お父様が私の家出に考え直して協力をしてくれるかも知れない。無理に外へ出ても、パルと二人で本当に精霊王に会えるの?今まで魔法ができなかったのに、使えるようになる方法があるの?方法があったとしても、その方法を試させて貰えるの?精霊王に会えば本当に魔法は使えるの?私は――……
「――……咬んで」
「……は……?」
「なるべく軽く咬むからぁ、怒らないでねぇ?」
カトレアの呟きにクシュナが振り返るのと、カトレアのローブの下からスルリとパルが滑り出してチロリと舌を出し、カトレアの腕を掴むクシュナの腕にその小さな鋭い牙を突き立てるのはほぼ同時だった。
「い……っ!」
痛烈な痛みに、クシュナは思わず掴んでいた腕を放して振り上げる。その腕に振り上げられるように振り回されたパルは、反動のままに小さな体躯が投げ出されるも、空中でくるんと器用に向きを変えるとクシュナの上方でゆるりと浮かぶ。
「パルっ!お前っ!」
「すぐ追いかけてきてねぇ」
「は……?」
パルをにらみつけようとしたクシュナは、パルの珍しく困った顔とその視線を辿り、ハッとして周囲を見回す。
先ほどまで確かに掴んでいたはずのカトレアの腕の感触はすでになく、その姿すらも人ごみに紛れようとしていることに血の気が引く。
「ちょ……っ!おいパ……っ!」
文句を言おうとした小さな獣の姿はすでにそこにはなく、クシュナはぐぬぬと文句を引っ込めてクソっ!!と吐き捨てる。
周囲に行きかう人々のビクリとした視線を集めつつもそれを気にする余裕はない。
クシュナはカトレアの姿を、人の流れに逆らいながら追いかけるほかなかった。
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