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王女、家出する。

10.

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「パル、服の下に隠れてて。私が合図するまで出て来ないでね」

「……はぃはぃ、わかったよぉ~。危ないことはしたらダメだからねぇ?」

 カトレアの言葉に、パルはささっとローブの下へ身を隠す。

 巡回の兵士かと、慌ててカトレアは座っていた麻袋の影に身を隠して息を殺し、暗がりの路地奥の様子を伺うと、間もなく声の主たちが現れた。

「ったく急になんなんだよ!まだ何も盗ってないのに早朝から兵士が湧き出してきてるぞ」

「よくはわかりませんが、明らかに何かを探している風デスね」

「せっかく苦労して忍び込んだのに動けないし!こんなんじゃ仕事ができないし!貝楼にもすぐ戻れないじゃないか!!あーイライラするっ!」

「まぁまぁ、少なくとも私たちを探している様子ではないみたいデスし、大人しくしていればそのうち静まりマスよ」

「何でそんな落ちついてるんだよ!さてはリオウが何かしたんじゃないだろうな!」

「ヒエンさんではないので、無鉄砲なコトは私はしませんヨ」

「喧嘩売ってんのか細目!」

「ヒエンさん。アナタ女の子なんデスから、もう少しおしとやかに――……」

 そこまで言って、言い合いを続けていた二人組の片方――ひらひらした和装のような服を身にまとい、変に片言な話し方をする片眼鏡の黒髪黒目、細目の長身男性――リオウは言葉を切らす。その細い瞳の奥は、物陰から顔を覗かせているカトレアをしっかりと捉えていた。

「おい、急に何黙り込んで――……」

 その隣を歩いている、リオウとは対照的な露出高めの服装のヒエンと呼ばれていた赤髪赤目の小柄な少女は、リオウの視線を追ってカトレアの姿に気づき――……

「どぅあっ!?」

「おいっ!!なんだこの女!!」

 目にも留まらない動きでカトレアが隠れていた横にある麻袋に飛び乗ったヒエンは、カトレアがまとっていたフードの首根っこをひっつかんでものすごい力で持ち上げる。

「ちょっ!?何するの!?」

「お前がそんなとこで人の話を盗み聞きしてるからだろうが!!」

 持ち上げられた勢いでフードがはだけ、金髪が揺れ動き、まくれたフードの陰から帯刀した剣が露わになる。その様を、リオウは静かに観察する。

「ちょっ!放して!!」

「どこから聞いてた」

「……え?」

「どこから聞いてたか聞いてる」

 フードを掴まれたままにカトレアがヒエンを見上げると、ひどく冷たい視線とかち合った。その表情に、カトレアの背筋に悪寒が走る。

 カトレアは、静かに腰に帯びている剣の位置を意識した――……。

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