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王女、家出する。

5.

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「……カトレア様。あなたのその思いついたら即行動は時として本当に宜しくないと思いますよ……。一国の王女が王宮に勤める者が利用する浴場……ましてや男湯の周りをウロつくなんてはしたなーー……」

「あぁ、もう、わかってるってば!ごめんって!」

 まだまだまだまだ続きそうなクシュナの小言を強制終了させ、カトレアはクシュナの自室に向けて手を引っ張って歩く。話をするにも、浴場の前ではどちらにせよできない。

「ほんっとにあなたは昔からお転婆と言うか手に負えないと言うか、突拍子もないと言うか、何なんですか!レミリア様はあんなに大人しくて素直な王女様然としていらっしゃるのに!」

「あー……はいはい、ごめんって。私が確かに悪うございました」

「その態度ですよ、その態度!」

「しつこいなぁ……」

「なんですか、人がせっかく心配して急いで出てきてみれば!」

 ぷりぷりと怒るクシュナの手を引くカトレアはぴたりと足を止めて振り返り、クシュナを見上げる。

「なっ、なんですか……っ」

 急に静かになって見上げてくるカトレアに虚をつかれ、クシュナは後退る。

「……心配してくれたんだ」

「そっ、そりゃぁどっかの王子の発言があった今日の今日ですから……っ」

「……ありがとね」

「もう10年くらいの付き合いですから、兄妹みたいなものです……っ」

 へへっと笑うカトレアの笑顔が、それでもどこか元気がないことにどうしても気づいてしまい、クシュナはバツが悪そうに視線をずらす。

「ーーで、話ってなんですか」

「クシュナーーが、前に話していたのを聞いちゃったんだけど……。……私の魔力は眠っているだけだって」

 話し出したカトレアの言葉に、クシュナはピクリと反応する。

「……」

「本当にそうなら、それをどうにかする方法を知らない?」

「……それを知って、どうするつもりですか」

 静かに尋ねるクシュナに、カトレアはその翠の瞳を一切逸らさずに口を開く。

「可能性があるなら、できることは全部する」

「…………」

 束の間の沈黙が続き、クシュナはハァとため息を吐いた。

「……なんとかなったとして、その先はわかってますか?カトレア様がコーネイル国の王子と婚約するだけですよ。現状は何も変わりません」

「そんなことない。私が嫁げば、レミリアには時間ができるし、王位継承権はレミリアに移る。お父様は、何だかんだで優しいから、相手によってはレミリアの好きな人を考慮してくれるはず。一緒じゃない」

 まるで自分に言い聞かせるように、カトレアは呟く。握りしめたカトレアの拳は、一切力を緩めない。

 カトレアの真っ直ぐに向けられる視線から逃れられず、クシュナは今日何度目かもわからないため息を長く吐き出す。

 握り締めるカトレアの手をほぐすように開かせ、クシュナは口を開いた。

「……精霊王に、会うことができれば……どうにかなる可能性もあるかも知れません」

「……精霊王……?」

 クシュナの言葉に、カトレアは繰り返し呟いた。

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