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2.お兄様はどちらでしょう?
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「ご機嫌麗しゅうございます、レオ様。お飲み物をお出しするのが遅くなってしまい申し訳ございません」
「やぁ、こんにちは、リーゼちゃん。今日も本当に愛らしいね。ホントに毎日でも会いたいよ」
「冗談は寝てから言えよ。毎日毎日俺の顔で見飽きてるだろうが」
王子様のにっこりスマイルでリーゼをいつものように迎え入れてくれるレオの一方で、アッシュの嫌味ったらしい物言いを受けたリーゼは笑顔は貼り付けたままにぴたりと停止する。
今までは何てことのないお世辞と受け取っていたレオのその言葉は、裏を返せばリーゼと瓜二つとも言えるほどに似通っているアッシュへの想いが隠れたセリフであったのだとようやく合点がいった。
そして一方のアッシュについては、リーゼに掛けられた言葉への嫉妬混じりの照れ隠しと気づいてしまえば腹も立たない。
いやむしろ、いい。
どうして今まで気づかなかったのだろうとリーゼは自分を叩きたい衝動に駆られ、笑顔のままにふるふると小刻みにその身体を震わせた。
「……リ、リーゼちゃん?」
「おい、どうした。いつにも増して変だぞお前」
様子のおかしいリーゼに戸惑いながら様子を伺う2人に対して、リーゼは口元を押さえて顔を背ける。
どうしたことだろう。見慣れた2人であるはずなのに、2人を見るリーゼの胸のドキドキは収まりそうもない。
「な、何でもないんです……っ。少し胸のトキメキが収まらなくて……っ!」
「はぁ?」
「どうしたどうした」
様子のおかしいリーゼにも慣れたもの。小さな時から2人に遊んでもらうと言う全女性が羨む高待遇を過ごしたリーゼが、時折り謎の暴走をするのは2人にとってもよくあることだった。
ーーそれにしても、お2人が付き合っているとすれば、どちらかがこう……攻めと受け? ……になるはずですわよね? 普通に考えれば、気の強いお兄様が攻め……でしょうか……?
女学校で密かに流行っている、見目麗しい殿方同士の恋愛模様を描いた書籍のにわか知識を総動員して、リーゼはそろりとお茶菓子に興味を移している2人の様子を伺い見る。
「わぁ、僕の好きなマカロンじゃないか! さすがアッシュのお母さん、いつもわかってる!」
色とりどりのころんとした可愛いメレンゲ菓子は、最近巷でも爆売れ必至の高級菓子である。
レオに目がないロッテ伯爵夫人が、甘いものに目がないレオのためにウケの良いお茶菓子を日々せっせと探し回っていることをリーゼは知っている。
「レオは母さんのお気に入りだからな。いつも次はいつ来るんだ来るんだうるせぇうるせぇ」
「いやぁ本当に嬉しいなぁ。昔からロッテ家にはお世話になりっぱなしで良くしてもらって、僕はアッシュに出会えて本当に幸せ者だよ」
「…………っっ!!」
「……お前今日気持ち悪くないか? 何か変なもんでも食ったんじゃねーの?」
令嬢たちが卒倒しそうなセリフをさらりと吐くレオに対して、げんなりと顔を歪ませながらも照れ臭そうなアッシュに、1人別ベクトルで鼻息荒く興奮するリーゼ。
そんなリーゼを横目でチロリと確認したレオは、ふっと口元を緩める。
「あ、もちろんリーゼちゃんも食べるよね? 何味がいいかな? やっぱりいちご味?」
「えっ!! 頂いてもいいんですかっ!?」
「もちろんだよ、じゃぁ……」
そう言ってピンクの可愛いマカロンを細くて長い美しい指先で摘んだレオは、ゆっくりとリーゼの前に歩みを進めてその長身を屈めた。
「はい、あーん」
「んえっ!?」
至近距離でも尚美しいそのご尊顔に艶やかに目の前で微笑まれて、リーゼは口を引き攣らせてピシリとその身を強張らせた。
変な汗が吹き出して、とてもではないが口など開けられそうにない。
「れ、れ、れ、れ、レオ様っ!?? あっ、あのっ!! じ、自分で食べられますからっ!!」
「いやいや、僕とリーゼちゃんの仲じゃない」
ふふふと美しい笑顔で全く引く気のない指先がジリジリと唇に迫っているのがわかった。あらやだ爪先まで完璧だわと変な現実逃避に走るも現実は変わらない。
「おい、レオ!」
ほらほらアッシュお兄様が怒ってらっしゃいますわよ!? とパニック寸前の頭で様子を伺うも、有無を言わさないレオの雰囲気はそのままだった。
「うぐっ!!」
しばしの無言の攻防の末。根負けたリーゼがおずおずと口を開ければ、甘い味が口いっぱいに広がって至福を感じた。
「美味しい……っ」
言っても中々食べる機会も限られている類を見ない高級菓子に舌鼓を打つ。そんなリーゼに満足そうに微笑んだレオは、身を起こすと残りのマカロンへと寄って行く。
「おい、レオ。こんなチンチクリンでもそろそろいい年頃なんだから、リーゼの中の男ハードルをこれ以上無意味に上げんなよ! お前なんぞに慣れちまったら嫁に行けなくなっちまう」
「はいはい」
眉間に皺を寄せてよくわからない文句を垂れるアッシュに軽く返事をしながら、レオは黄緑も鮮やかなマカロンを再びその長い指先でつまみ取ると、今度はアッシュへと近寄って行く。
もぐもぐと口内の美味に気を取られているリーゼは、何の気なしにぼんやりとその一連の流れをスローモーションのように眺めていた。
「妬かない妬かない」
「うぐっ」
そう言って、まだ何事か口を開こうとしたアッシュの口へと黄緑色のマカロンを押し込んだレオは、ふふと笑う。
「アッシュはピスタチオ味が好きだもんね、ちゃんとわかってるよ」
「うぐえっほ!! ごほっ!!」
「ぶふっ!!!」
そこら辺の美女よりもよほど妖艶な微笑みでロッテ兄弟を魅了したレオは、怒涛の勢いで咳き込む2人にごめんごめんと笑いながら、マカロンを満足そうに頬張った。
咳き込みながらそんな光景を眺めたリーゼは確信する。
あ、これはお兄様が受けだわ。とーー。
「やぁ、こんにちは、リーゼちゃん。今日も本当に愛らしいね。ホントに毎日でも会いたいよ」
「冗談は寝てから言えよ。毎日毎日俺の顔で見飽きてるだろうが」
王子様のにっこりスマイルでリーゼをいつものように迎え入れてくれるレオの一方で、アッシュの嫌味ったらしい物言いを受けたリーゼは笑顔は貼り付けたままにぴたりと停止する。
今までは何てことのないお世辞と受け取っていたレオのその言葉は、裏を返せばリーゼと瓜二つとも言えるほどに似通っているアッシュへの想いが隠れたセリフであったのだとようやく合点がいった。
そして一方のアッシュについては、リーゼに掛けられた言葉への嫉妬混じりの照れ隠しと気づいてしまえば腹も立たない。
いやむしろ、いい。
どうして今まで気づかなかったのだろうとリーゼは自分を叩きたい衝動に駆られ、笑顔のままにふるふると小刻みにその身体を震わせた。
「……リ、リーゼちゃん?」
「おい、どうした。いつにも増して変だぞお前」
様子のおかしいリーゼに戸惑いながら様子を伺う2人に対して、リーゼは口元を押さえて顔を背ける。
どうしたことだろう。見慣れた2人であるはずなのに、2人を見るリーゼの胸のドキドキは収まりそうもない。
「な、何でもないんです……っ。少し胸のトキメキが収まらなくて……っ!」
「はぁ?」
「どうしたどうした」
様子のおかしいリーゼにも慣れたもの。小さな時から2人に遊んでもらうと言う全女性が羨む高待遇を過ごしたリーゼが、時折り謎の暴走をするのは2人にとってもよくあることだった。
ーーそれにしても、お2人が付き合っているとすれば、どちらかがこう……攻めと受け? ……になるはずですわよね? 普通に考えれば、気の強いお兄様が攻め……でしょうか……?
女学校で密かに流行っている、見目麗しい殿方同士の恋愛模様を描いた書籍のにわか知識を総動員して、リーゼはそろりとお茶菓子に興味を移している2人の様子を伺い見る。
「わぁ、僕の好きなマカロンじゃないか! さすがアッシュのお母さん、いつもわかってる!」
色とりどりのころんとした可愛いメレンゲ菓子は、最近巷でも爆売れ必至の高級菓子である。
レオに目がないロッテ伯爵夫人が、甘いものに目がないレオのためにウケの良いお茶菓子を日々せっせと探し回っていることをリーゼは知っている。
「レオは母さんのお気に入りだからな。いつも次はいつ来るんだ来るんだうるせぇうるせぇ」
「いやぁ本当に嬉しいなぁ。昔からロッテ家にはお世話になりっぱなしで良くしてもらって、僕はアッシュに出会えて本当に幸せ者だよ」
「…………っっ!!」
「……お前今日気持ち悪くないか? 何か変なもんでも食ったんじゃねーの?」
令嬢たちが卒倒しそうなセリフをさらりと吐くレオに対して、げんなりと顔を歪ませながらも照れ臭そうなアッシュに、1人別ベクトルで鼻息荒く興奮するリーゼ。
そんなリーゼを横目でチロリと確認したレオは、ふっと口元を緩める。
「あ、もちろんリーゼちゃんも食べるよね? 何味がいいかな? やっぱりいちご味?」
「えっ!! 頂いてもいいんですかっ!?」
「もちろんだよ、じゃぁ……」
そう言ってピンクの可愛いマカロンを細くて長い美しい指先で摘んだレオは、ゆっくりとリーゼの前に歩みを進めてその長身を屈めた。
「はい、あーん」
「んえっ!?」
至近距離でも尚美しいそのご尊顔に艶やかに目の前で微笑まれて、リーゼは口を引き攣らせてピシリとその身を強張らせた。
変な汗が吹き出して、とてもではないが口など開けられそうにない。
「れ、れ、れ、れ、レオ様っ!?? あっ、あのっ!! じ、自分で食べられますからっ!!」
「いやいや、僕とリーゼちゃんの仲じゃない」
ふふふと美しい笑顔で全く引く気のない指先がジリジリと唇に迫っているのがわかった。あらやだ爪先まで完璧だわと変な現実逃避に走るも現実は変わらない。
「おい、レオ!」
ほらほらアッシュお兄様が怒ってらっしゃいますわよ!? とパニック寸前の頭で様子を伺うも、有無を言わさないレオの雰囲気はそのままだった。
「うぐっ!!」
しばしの無言の攻防の末。根負けたリーゼがおずおずと口を開ければ、甘い味が口いっぱいに広がって至福を感じた。
「美味しい……っ」
言っても中々食べる機会も限られている類を見ない高級菓子に舌鼓を打つ。そんなリーゼに満足そうに微笑んだレオは、身を起こすと残りのマカロンへと寄って行く。
「おい、レオ。こんなチンチクリンでもそろそろいい年頃なんだから、リーゼの中の男ハードルをこれ以上無意味に上げんなよ! お前なんぞに慣れちまったら嫁に行けなくなっちまう」
「はいはい」
眉間に皺を寄せてよくわからない文句を垂れるアッシュに軽く返事をしながら、レオは黄緑も鮮やかなマカロンを再びその長い指先でつまみ取ると、今度はアッシュへと近寄って行く。
もぐもぐと口内の美味に気を取られているリーゼは、何の気なしにぼんやりとその一連の流れをスローモーションのように眺めていた。
「妬かない妬かない」
「うぐっ」
そう言って、まだ何事か口を開こうとしたアッシュの口へと黄緑色のマカロンを押し込んだレオは、ふふと笑う。
「アッシュはピスタチオ味が好きだもんね、ちゃんとわかってるよ」
「うぐえっほ!! ごほっ!!」
「ぶふっ!!!」
そこら辺の美女よりもよほど妖艶な微笑みでロッテ兄弟を魅了したレオは、怒涛の勢いで咳き込む2人にごめんごめんと笑いながら、マカロンを満足そうに頬張った。
咳き込みながらそんな光景を眺めたリーゼは確信する。
あ、これはお兄様が受けだわ。とーー。
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