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断罪
しおりを挟むなんと、目が覚めると、カンナさんとミミナさんの私室です。まだお二人は寝ているご様子。
さて、まずは…この散らかった、酒瓶やお菓子を片付けることにしましょう。
昨日、ミミナさんはあのお話の後、『私もお酒飲む!』と言って、お菓子やおつまみなんかをつまみながら、かなりの量のお酒を飲んでいました。ミミナさんはかなりお酒に強かったようで、カンナさん秘蔵のお酒は数分でなくなってしまいました。ミミナさんは、新しい酒瓶を開けると、私も飲むように勧められました。ちびちびと飲んでいたのですが、気付けば微睡に…。私はお酒に弱かったようです。
一通り片付け終わりましたので、お二人を起こすことにします。
「カンナさーん!ミミナさーん!朝ですよー!」
「んぁあ…エンジュ、おはよ…」
カンナさんは寝起きが良いようですが、ミミナさんは…
「ミ、ミミナさーん…」
「…ぁあ?」
「ヒィッ」
「あー気をつけなさい、ミミナは相当寝起き悪いから。特にお酒飲んだ日は…って、私の秘蔵のお酒!空じゃない!!!ミミナ…ミミナの仕業ね…!ミミナ!起きなさい!!!!起きなさああいいいぃ!」
カンナさんはミミナさんに馬乗りになり、無理やり腕を掴んで起き上がらせようとしますが、無念、それでもミミナさんは起きません…。
「…っく、こうなったら“アレ”するしかないわね」
「アレ…?」
「必殺!ドレインキスーー~ー!!!!」
「んぐぐぐぐごごごご!!!!お姉ちゃん!!」
「フフン、起きないアンタが悪いのよ!」
「あの、ドレインキスとは…?」
「その名の通りよ!アタシのキスで、魔力を吸い取るの!魔力を吸われるのって、相当な痛みを伴うから、ミミナが起きなくて、どうしようもない時だけこの技を使うことにしているのだけれど…あぁなんて優しいお姉様!」
「嘘!この間も間違えてお菓子食べちゃった次の日の朝、それ使ってきたじゃん!!」
「なあに?これでも出力は抑えているのだけれど?文句がお有りなのかしら?ミ・ミ・ナ?」
「ごめんなさいもうしませんありがとうございます優しいお姉様」
「ふふふ、お二人って、本当に仲がいいんですね」
「あんた、あっちの世界では兄妹とかはいなかったの?」
「いえ、いませんでした。もしかしたら居たのかもしれませんが、知っている限りでは兄弟はいません!」
「…?そうなのね、じゃあアタシたちがあんたの姉妹になってあげるわよ!ねえ!ミミナ!」
ミミナさん…良いのでしょうか。
「うん、良いと思う。カンナを一人で御するのは、本当に骨のいる仕事だったから…」
「何よ!私の事、スレイブニルだとでも言いたい訳!?」
「いえいえ、そんな滅相な…じゃあこれからよろしくね、エンジュちゃん」
「話を逸らさないで頂戴!!ということはあんたは末妹になるってこと?」
「そう…ですね。嬉しいです!私、2人の妹になれて!」
「ちょ、ちょっとアンタ、何泣いてんのよ!大袈裟ねえ…」
「サキュバス2人の姉に、落ち人の妹って、なんだか面白いね」
「フフ、そうね。姉妹になったからには、あんたも全力で綺麗になってもらうわよ!」
「えっえっ、そ、そんな…」
「そうと決まればさっそくメルティ様に有給申請出しに行かなきゃ!ミミナ!少しの間そいつを逃さないよう見張っとくのよ!」
「了解!」
颯爽とカンナさんは部屋から飛び出していってしまいました。
私はミミナさんに、切り出します。
「…ミミナさん」
「なあに?」
「本当に、良いんですか?私が、お二人の、妹になって…私、人間、だし…」
「んー、なんかね、エンジュちゃんからは人間の匂いがしないっていうのと、それに、落ち人だし。この国の人間ではないでしょ?だから、いいかなって。でも一番は…あの子に似てるところが、ちょっとあるから、かな。」
あの子…昨日話していた、エルフの子の事です。
「あの子とエンジュちゃんを重ねてるようで、ごめんね。でもなんか、エンジュちゃんのこと見てると、すごく、すごくね、不安になるの…。なんでなのかな。分からないんだけど、側に置いておかなきゃって、そう思う。もうあの子の時と同じように、気付く間もなく喪うなんて事、したくないの…」
ミミナさんが、震える体を両の腕で抱きしめます。
「でもきっと、カンナも、お姉ちゃんもそう思っているんだと思う。ごめんね、こんな、不甲斐ないお姉ちゃんたちで。それでも、妹で、いてくれる…?」
不安そうな瞳で見つめられます。カンナさんが、ミミナさんが許してくれるのなら、
「はい!是非、妹でいさせてください!」
突如、扉が大きな音を立てて開きます。
「もうカンナ!扉は足で開けないでってあれほど…」
「有給申請通ったわよー!!!さあて、まずはなにをしようかしら!まずはこの長ったらしくて野暮ったい髪の毛かしらね!」
それは、あ・の・人・に、伸ばすよう言いつけられた髪。
『ロリはやっぱりロングだよなー』
ジャキン、ジャキンと、髪が切り落とされていきます。
髪が切り落とされるたび、私は、私の汚い外皮が、削ぎ落とされるような感覚を覚えました。
「カンナ、この髪…なんか染まってるみたいだけど、素の色に戻す?」
「そうね、美しさに誤魔化しはいらないの。素材を活かしてこそが美しさなのよ」
それは、あ・の・人・に染髪された色。
『白髪ロリって最高じゃね?オッドアイだったらもっと最高なんだけどなー』
ミミナさんが何かの魔法を唱えると、私の髪は上から下へと、徐々に色を変えていきます。
「アンタ、白髪だと思ってたけど、黒髪だったのね!綺麗じゃない」
「うん!素敵!魔族に黒髪ってほとんど居ないし、新鮮…ていうか黒髪って、久々に見た」
ミミナさんの魔法の残滓が空に瞬く星のようにキラキラと輝きます。
それは、私の穢れを、その光で払い落としてくれるようで。
「うーん、長いのをあんまり切っちゃうのももったいない気がするし、ミディアムらへんにしておこうかしら」
「うんうん、それがいいと思う!」
ジャキン、ジャキン、ジャキン
髪が、切り落とされます。
醜悪が、切り落とされます。
神様、私の穢れは、いつになったらなくなるのでしょうか。
永遠に、この身体に染み付いているのでしょうか。
私はいつになれば、この優しき人たちに、何の気も無く触れられるようになるのでしょうか。
私は段々、強欲になっていきます。幸福を、求めてしまいます。私は懺悔を、告解を、しなければいけないのに。罪は贖わなければなりません。私の罪とは…何?
「出来たー!!」
「フフン、まあいい出来じゃない?そりゃあ私の妹なんだから当然なのだけれど?」
「うんうん、綺麗!すっごく綺麗になったよー!」
ミミナさんが鏡を持ってきて下さります。私はそれを見て、また堪えきれず泣きました。今までの私はバラバラにされて、小さな箱に詰められて。新しく生まれ変わった私の奥深くに、箱が埋められた、そんな感覚でした。決して穢れが無くなる事はないでしょう。だけれど、それでも、私は救われたような、心持ちになったのでした。
「ありがとうございます、お二人共、本当に…」
「なんか堅苦しいよー!姉妹なんだし、お姉ちゃんとか、名前でよんでよ!」
「そうね、姉妹なのですからね。私の事はカンナお姉様とお呼びなさい!」
「はい、カンナお姉様、ミミナお姉ちゃん」
「っほ、本当にお姉様って呼んでるしー!!!カンナ、こういうウブな子を揶揄わないでよ!!」
「オーッホッホ!そうよ、カンナお姉様でいいのよ!オーッホッホッホ」
楽しい時間は、いつまでも続きました。
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