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目を引く、惹かれる

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 初めて彼を見かけたのは、小学校に上がってすぐのこと。小学校入学に合わせて、私はこの「るぽーと」と呼ばれるマンションに越してきた。
 小さくこじんまりした、もっとハッキリ言ってしまえばボロいアパートから移り住むこととなった「るぽーと」の部屋は、お姫様が住んでいるかのように綺麗なところだった。本当なら、そう思えていたはずなのだ。
 けれど保育園が一緒の友だちは居なくなってしまうわけだからそこに関して私は拗ねていて、その一点だけが気に入らないのに、すべてが気に入らないものに思えてしまっていた。だから「ここは嫌!前のお家がいい!」なんて廊下で騒いで。

 そのときだった。

 がするりと横を通ったのだ。
 まるで何事もなかったかのように、無言で、一瞥もせずに。子どもの騒ぎ声っていうのは小さな声ではない。そこそこ響くはずなのだ。けれどそれに見向きもせず、彼は隣の部屋の扉を開け──閉めた。
 その光景に、両親はぽかんと呆気にとられた。私も同様だった。子どもというのは、えてして泣いたり大声を出したりして人の注意を引こうとする生き物だ。だからの行動は私からしたら面白くなく、むしろ不満でしかない──はずだった。
 だがどうしたことか、そのとき私が考えていたのは不平不満ではなく、彼の迷いない足取りと横顔のことだった。
 端正な顔立ちというわけではない。そのとき好きだったアニメの主人公になど似ても似つかなかった。

 いやいや、なんだこれは。
 この、妙な、じわじわした感覚は。

 戸惑う私の前に、彼はまたひょっこり現れた。閉まったはずのドアが再度開き、迷いなどないと体現しているかのようなキビキビした足取りで彼は私の前に立ち──、
「これ、よかったらどうぞ」
 と紫の花を一輪、くれたのだ。
 後から知ったのだが、その花はパンジーで、ベランダのプランターから無断でとってきてしまったらしく、花を育てていた母親から軽く怒られてしまったのだとか。土がついていたのはそのためだったらしい。それはともかく。

 この瞬間、いろんな種類の喜の感情がどぱっと湧いた。

 そしたら、ふわっとした浮遊感がして、ぎゅっと食道あたりの管を握られたかのような錯覚に陥った。もちろん物理的な痛みはなかった。そんなことになったら救急車を呼ぶ羽目になる。
 けれどどうしようもなく胸がきゅうっと締め付けられて、鼓動が早くなって顔が赤くなって。

 落ちてしまったのだ。私は出会って数秒の男の子に、恋をした。惹かれたら一瞬で、「好き」になってしまった。友人とは違う、敬愛なんて持ち合わせてない。ませた子どもは、7歳になる三月前に恋をした。相手は隣人らしい男の子。

 ここから、私の10年にわたるのろいの物語が幕を開けた。
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