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八章

真相

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「──ハッ」
 広翔が目を覚ますと、見慣れた天井が広がっている。
 脂汗をかき、息遣いが荒い。
 長い夢を見ているようだったが、と時計を見るとまだ午前三時四十分前を指していた。
 中途半端な時間に目が覚めてしまった。
 むくりと体を起こし、写真をじっと眺める。
 あの夢は何だったのだろうか。
 そもそも夢だったのだろうか。
 自分の妄想が作りだした幻想だったのか。


 とてもそうとは思えなかった。
 幼い頃の瑠璃は話せていた。
 だが、今は話せていない。
 父親から暴力を振るわれていた時期は話せていたのに、事件の後から話せなくなっている──……?
 どういうことだ。
 広翔は頭を抱える。
 全て憶測しかできない自分が悔しい。
 考えろ。考えろ。
 冷静になれ、と広翔は自分に言い聞かせる。
 澄香が季実に引き取られたのは中学生になった年。
 だけど今は望江の同級生。つまりは春海とも同級生ということだ。
 何が起きたんだ。
 中学生に なった・・・年··········?
 時計を見る。時刻は四時だ。もしかしたら起きているかもしれない。
 一縷の望みを抱いて、広翔は自転車の鍵を手に部屋を飛び出した。


***


 自転車を走らせながら、ラインで「真理」を探して電話をかける。
「もしもし」
 くぐもった声が電話口から聞こえた。
「尾田。先輩……澄香先輩が尾田たちに引き取られたのって、先輩は何歳になる年・・・・・・?」
 真理は欠伸混じりに、
「は?十四、だけど」
 と答える。
「じゃあ、先輩を引き取るまでは施設に入れられてた?」
「はぁぁ?朝から何なのよ。違うわ。すーちゃんのおばあちゃんとこにいたのよ。私あの人あんま好きじゃないのよね。ま、会ったのは引き取った当日だけなんだけどね」
 だからいきなりなんなのよ、と言う真理を無視して電話を切る。
 澄香が引き取られたのは十四になる年。
 つまりは事件が起きてからちょうど一年間、空白の時間があったのだ。
 そして真理が「澄香の祖母」と言っていたことから、自分の祖父母では無いということだ。指すところ、遠子が澄香を一年間預かっていたのだ。

 その一年で澄香は視力と声を失った。ついでに進級もできていない。
 ギリ、と唇を噛み締める。
 これらの内容からだと最悪な選択肢も頭に浮かぶ。
 父親の異常な速さの釈放。
 それができるのはおそらく遠子だろう。漫画やドラマだけの話であってほしいが。
 駅近くのパーキングに自転車を停め、財布とスマホを手に駅へと駆ける。
 ふと、広翔の速度が落ちる。
「なんでお前がここに」
 まだ人の少ない中、見知った人物を見つけることなど造作もなかった。
 改札前には、腕を組んだ璃久が立っていた。
 璃久は眉間に皺を寄せながら広翔に歩み寄る。
「おい広翔。なんで何も言わずに家飛び出したりしたんだ」
 憤怒の表情だ。
 広翔はうっと首を竦める。
「いや、悪い。でも、その……時間がないかもしれないんだ」
「どういうことだ」
 璃久が追及をやめる気配はなかった。
 広翔は降参して「コンビニ行こ。そこで話す」と歩き出す。
 璃久は黙ってついて行った。


「──は?まさかお前、その遠子って人のところに行こうとしてたのか?」
 璃久は呆れ返った顔を広翔に向ける。
 広翔はすっかり縮こまっている。
「こんな朝早くから強行突破でもする気か?この考え無しのど阿呆が」
 辛辣な璃久の言葉がぐさりと刺さる。
「それに檜木遠子っていやぁ会長だぞ。確か……キャンプ製品売ったり他にも色々してる所だそんな人相手に何ができるんだ。一度冷静になれ」
 正論にぐうの音も出ない。
 ただうめくだけだ。
「──だから、作戦立てるぞ」
 璃久の発案に広翔は耳を疑った。
「は?」
「だから、作戦もなしに突っ込むなって言ってんの。強行突破だとただの住居不法侵入だっての」
 冷静とは。
 いつも一歩引いて物事を考える璃久が警察に任せないという、かなり不思議な展開だ。
「警察に任せろって言うのかと思ってた」
 広翔が呟くと、璃久は重々しいため息をついた。
「お前の火事の時の警察ほど無能で無力で馬鹿馬鹿しいものはなかったよ」
 怒りを露わにする璃久に、改めて親友っていいなと思ってしまう。
「ちなみに、その先輩がいる保証は?」
「ない……が、居る。何とも言えないが、確信はある」
 と主張する広翔に、璃久はため息混じりに「そこは確実にしてほしいとこだがな」と呟く。
「穴のない作戦は無理だが、少しでも成功率あげることだけ考えろよ。わかったな」
 腹を括ったような真剣な表情の璃久に、広翔も殊勝に頷く。
 そして二人は澄香探索・奪還の作戦を立て始めた。
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