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七章
救助要請<前>
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ドタドタと走る音で目を覚ます。
「あ、るりちゃんおはよ!ご飯できたよ」
春海がドアを勢いよく開けて入ってきた。
瑠璃の体が無意識に竦み上がる。
「ほらほら、顔洗ってきて!あ、場所わかんないか。ついてきて」
そんな瑠璃にお構いなしに春海は手を引く。
顔を洗い、リビングに通される。
慌ただしい春海のペースに呑まれ、恐怖を感じる隙もない。
リビングで智美が笑む。
「あら、おはよ。よく寝れたかしら?」
「え、あ、はい」
瑠璃は小さな声で答え、こくこくと小さく頷いた。
「座って座って」
せっかちな春海は、戸惑う瑠璃の肩に手を置き椅子に座らせ、目の前にパンケーキプレートと、食パンとスクランブルエッグが盛り付けられたプレートを置く。
瑠璃はきょとんと瞬き、春海を無言で見上げる。
春海は視線を交わすとにこりと微笑み「召し上がれ」と言った。
瑠璃は目の前に置かれた料理とフォークと春海、智美を見る。
二人はくすくすと笑う。
「食べていいのよ。それ、ハルがあなたの為に作ったんだから」
智美が笑顔で春海に「ねぇ」と同意を求める。
春海はこくりと頷き、
「早く食べて。冷めちゃう」
戸惑っている瑠璃を急かすように瑠璃の腹が鳴った。
かぁぁと白い頬に熱が集まる。
「ふふふふ。私の料理を食べたいってるりちゃん自身が言ってるのよ?さぁ、早く」
ズイとフォークを瑠璃に突き出す。
瑠璃はおそるおそるといった様子でフォークを受け取り、パンケーキに切れ目を入れる。ふわふわとした生地の上をメープルシロップと生クリームが溶け合って切れた隙間に流れていく。
ごくりと喉仏を鳴らした。
一口に切ったパンケーキを口に運ぶ。
優しい甘みが口いっぱいに広がる。
「──美味しい」
瑠璃は、頬を赤く染めながら笑った。
初めて見せた瑠璃の笑顔に、春海たちは顔を見合わせて顔口元をほころばせた。
瑠璃はパンケーキをペロリと平らげた。
「美味し、かった。ありがとう」
瑠璃が春海に頭を下げた。
春海はえへへ、と照れくさそうに笑う。
「ねぇ、また来てよ。今度は一緒に作ろ。私お菓子作りなら得意なんだよ」
そう言って瑠璃の手を取った。
「ねっ」
瑠璃に笑顔を向ける。
瑠璃は困惑したように「えと」と口ごもる。
「あら、いらっしゃいよ。色々お話も聞くわ。定期的に吐きだしていきましょ。あなたのお母さんも巻き込みたいし」
智美は笑顔で「またいらっしゃいね」と瑠璃の頭を撫でる。
撫でられることを素直に受け入れ、瑠璃は頬を真っ赤に染めて小さく頷いた。
「じゃあ、送ってくるわ」
智美はそう言いながらつま先でトントンと床を鳴らす。
「うん。瑠璃ちゃん、またね」
春海が手を振ると、瑠璃は少し躊躇したがはにかんだような笑みで手を振り返した。
「うふふ。行ってきます」
「うん。いってらっしゃい!」
ドアを閉め、智美は「さて」と瑠璃に向き直り笑顔で言った。
「頑張りましょうね、ルリちゃん」
春海に背を向けた瑠璃は唇を引き結び、重々しく頷いた。
歩いて五分、あの大きな家の前に着く。
心做しか瑠璃の顔色が良くない。
智美は慣れた手つきでインターホンを押す。
「──はい」
女の声だ。
「葛西です。瑠璃ちゃんをお連れしましたよ」
「少々お待ちください」
プツリと再び声が途切れる。
数秒後、ドアが開いた。
「先日はどうも」
智美は柔らかく微笑む。
「いえ。瑠璃、いらっしゃい」
暗い顔のまま瑠璃を呼ぶ。
だが瑠璃は動かない。
「瑠璃?」
異変に気づき、再度名を呼ぶ。
「ルリちゃん、うちの子とまだ遊び足りないみたいなの。今うちの子がお菓子を作っているのだけど、良かったらあなたもどうかしら」
智美がズイと身をのりだす。
「いえ、私は」
逆に女は一歩下がる。
「今、旦那さんは?」
中を伺うような仕草に女はむっとした表情をする。
「出張で、もうあと二ヶ月は帰ってこないですけど。旦那に用があるのですか?」
「瑠璃ちゃんを殺す気ですか?」
智美の発言に女は目を剥く。
「ここで話すのもなんですから、家へいらして。悪いようには致しません」
と瑠璃を促す。
瑠璃は少し戸惑っていたものの大人しくついて行く。
「え、瑠璃」
その様子に衝撃を受けたらしい。
女は呆然とその光景を眺めていた。
「今日は旦那さん居ないんでしょ?ならさっさとついてきて。あなたが踏み出さないと何も変わらないわ」
何時になく強い口調で女に語りかける。
女は「何も知らないくせに」と小さく声を漏らす。
その様は公園で倒れていた瑠璃と同じだった。
「助けるわ」
智美は瑠璃の手を握り、もう一方の手を女に向けて開いた。
智美の視線には熱が篭もり、何とも言えぬ迫力を醸し出していた。
ふと、女の頬を涙が伝う。
何なの。何もかも知った顔して。自信に充ちた目をして。
言いたいことが頭に思い浮かんでは消えていく。
視界がぐにゃぐにゃとしていて上手く定まらない。
そんな中、女は掠れる声で言った。
「助けて……っ」
ガラス玉のような瞳から目を逸らさずに、智美は力強い笑顔を向けた。
「あ、るりちゃんおはよ!ご飯できたよ」
春海がドアを勢いよく開けて入ってきた。
瑠璃の体が無意識に竦み上がる。
「ほらほら、顔洗ってきて!あ、場所わかんないか。ついてきて」
そんな瑠璃にお構いなしに春海は手を引く。
顔を洗い、リビングに通される。
慌ただしい春海のペースに呑まれ、恐怖を感じる隙もない。
リビングで智美が笑む。
「あら、おはよ。よく寝れたかしら?」
「え、あ、はい」
瑠璃は小さな声で答え、こくこくと小さく頷いた。
「座って座って」
せっかちな春海は、戸惑う瑠璃の肩に手を置き椅子に座らせ、目の前にパンケーキプレートと、食パンとスクランブルエッグが盛り付けられたプレートを置く。
瑠璃はきょとんと瞬き、春海を無言で見上げる。
春海は視線を交わすとにこりと微笑み「召し上がれ」と言った。
瑠璃は目の前に置かれた料理とフォークと春海、智美を見る。
二人はくすくすと笑う。
「食べていいのよ。それ、ハルがあなたの為に作ったんだから」
智美が笑顔で春海に「ねぇ」と同意を求める。
春海はこくりと頷き、
「早く食べて。冷めちゃう」
戸惑っている瑠璃を急かすように瑠璃の腹が鳴った。
かぁぁと白い頬に熱が集まる。
「ふふふふ。私の料理を食べたいってるりちゃん自身が言ってるのよ?さぁ、早く」
ズイとフォークを瑠璃に突き出す。
瑠璃はおそるおそるといった様子でフォークを受け取り、パンケーキに切れ目を入れる。ふわふわとした生地の上をメープルシロップと生クリームが溶け合って切れた隙間に流れていく。
ごくりと喉仏を鳴らした。
一口に切ったパンケーキを口に運ぶ。
優しい甘みが口いっぱいに広がる。
「──美味しい」
瑠璃は、頬を赤く染めながら笑った。
初めて見せた瑠璃の笑顔に、春海たちは顔を見合わせて顔口元をほころばせた。
瑠璃はパンケーキをペロリと平らげた。
「美味し、かった。ありがとう」
瑠璃が春海に頭を下げた。
春海はえへへ、と照れくさそうに笑う。
「ねぇ、また来てよ。今度は一緒に作ろ。私お菓子作りなら得意なんだよ」
そう言って瑠璃の手を取った。
「ねっ」
瑠璃に笑顔を向ける。
瑠璃は困惑したように「えと」と口ごもる。
「あら、いらっしゃいよ。色々お話も聞くわ。定期的に吐きだしていきましょ。あなたのお母さんも巻き込みたいし」
智美は笑顔で「またいらっしゃいね」と瑠璃の頭を撫でる。
撫でられることを素直に受け入れ、瑠璃は頬を真っ赤に染めて小さく頷いた。
「じゃあ、送ってくるわ」
智美はそう言いながらつま先でトントンと床を鳴らす。
「うん。瑠璃ちゃん、またね」
春海が手を振ると、瑠璃は少し躊躇したがはにかんだような笑みで手を振り返した。
「うふふ。行ってきます」
「うん。いってらっしゃい!」
ドアを閉め、智美は「さて」と瑠璃に向き直り笑顔で言った。
「頑張りましょうね、ルリちゃん」
春海に背を向けた瑠璃は唇を引き結び、重々しく頷いた。
歩いて五分、あの大きな家の前に着く。
心做しか瑠璃の顔色が良くない。
智美は慣れた手つきでインターホンを押す。
「──はい」
女の声だ。
「葛西です。瑠璃ちゃんをお連れしましたよ」
「少々お待ちください」
プツリと再び声が途切れる。
数秒後、ドアが開いた。
「先日はどうも」
智美は柔らかく微笑む。
「いえ。瑠璃、いらっしゃい」
暗い顔のまま瑠璃を呼ぶ。
だが瑠璃は動かない。
「瑠璃?」
異変に気づき、再度名を呼ぶ。
「ルリちゃん、うちの子とまだ遊び足りないみたいなの。今うちの子がお菓子を作っているのだけど、良かったらあなたもどうかしら」
智美がズイと身をのりだす。
「いえ、私は」
逆に女は一歩下がる。
「今、旦那さんは?」
中を伺うような仕草に女はむっとした表情をする。
「出張で、もうあと二ヶ月は帰ってこないですけど。旦那に用があるのですか?」
「瑠璃ちゃんを殺す気ですか?」
智美の発言に女は目を剥く。
「ここで話すのもなんですから、家へいらして。悪いようには致しません」
と瑠璃を促す。
瑠璃は少し戸惑っていたものの大人しくついて行く。
「え、瑠璃」
その様子に衝撃を受けたらしい。
女は呆然とその光景を眺めていた。
「今日は旦那さん居ないんでしょ?ならさっさとついてきて。あなたが踏み出さないと何も変わらないわ」
何時になく強い口調で女に語りかける。
女は「何も知らないくせに」と小さく声を漏らす。
その様は公園で倒れていた瑠璃と同じだった。
「助けるわ」
智美は瑠璃の手を握り、もう一方の手を女に向けて開いた。
智美の視線には熱が篭もり、何とも言えぬ迫力を醸し出していた。
ふと、女の頬を涙が伝う。
何なの。何もかも知った顔して。自信に充ちた目をして。
言いたいことが頭に思い浮かんでは消えていく。
視界がぐにゃぐにゃとしていて上手く定まらない。
そんな中、女は掠れる声で言った。
「助けて……っ」
ガラス玉のような瞳から目を逸らさずに、智美は力強い笑顔を向けた。
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