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四章
告白
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炭火は準備万全。
金網もいい温度だ。
「じゃあ、焼いていこう」
京介がトングを使って牛脂を滑らせる。
その上に下準備が成された牛タン、玉ねぎ、じゃがいもなどを網の上で焼いていく。
簡単な料理なのに、何故こんなにも美味くなるのか。
「いい色じゃない?」
「いや、肉はまだだ」
さっきの雰囲気はどこへやら、璃久も真理ももういつもと変わらない調子で話している。
「広翔君」
ちょっといいかな、と京介が笑顔で話しかけてきた。
広翔は口に含んだ牛タンをゴクッと呑んだ。
「は、はい」
二人は縁側に座った。
バーベキューを囲む人たちとは一定の距離が空く。
「澄香ちゃんと、仲が良いと聞いたんだ」
「え、はい。俺は、そう思いたいです」
頭を掻きながら言う広翔に、京介は穏やかに微笑みかける。
「僕が言えたことじゃないけど、あの子を見てやって」
広翔が意味を理解しかねていると、
「あの子は、僕たちが家族ではないと、どこかで線を引いているみたいだから。……それが駄目なわけじゃない。どこまで聞いたかわからないが、彼女は家族を嫌っていない。もしかしたら、いつかまた元通りになると信じているのかもしれないね。それも、駄目なことじゃあない。でも、その線引きで、僕たちがあの子に関われる領域は決まってしまっている気がするんだ。気づかないうちに、真理にも、澄香ちゃんにも、寂しい思いをさせている気がするんだ。……難しいね、家族というのは」
京介が言わんとすることが、何となくわかった。
「言える立場じゃあないけれど、澄香ちゃんに、寄り添ってあげてほしいんだ。きっとそれは、僕達じゃできないこともあるから」
他人任せだね、と京介は苦笑いを浮かべた。
「どうして、それを俺に」
以前、季実にした同じ質問を京介に投げかける。
京介は立ち上がり、また穏やかに笑った。
「直感、かな」
***
「広翔、肉なくなるぞ」
璃久が焼きおにぎりを頬張りながら言った。
「え、そんなに無いのか!?」
「まだあるわよー」
季実は食材がのった大皿を二枚分、網の上でジュワッと焼き始める。
「若い子はいーっぱい食べなさい」
ほらほら、と次々に肉が取り皿に盛られていく。
皆のお腹が満たされる頃には、米が五合分と、肉が四キロ分、野菜一キロが消え去っていた。
「じゃ、花火やろ、花火」
すっかり暗くなり、周りの顔の判別が苦しくなり始めた時、真理が花火セットを持ってきた。
「夏の風物詩だね」
胡桃が楽しそうに言う。
「じゃ、焚き火モードに切り替えよう」
京介はいそいそと焚火台を用意し、炭を移した。
穏やかな火を内側に籠らせ、赤い炎が上へ上へと舞う。
花火を各自渡され、それぞれ楽しむ。
「すげえ、色変わった」
花火をあまりしない広翔ははしゃいだ。
その様子を、澄香が隣でくすくすと笑いながら眺めていた。
ふと、澄香がスマホを取り出した。
『楽しいね』
と広翔のスマホにラインが届く。
「はい、とても楽しいです。誘ってくれてありがとうございました」
広翔が満面の笑みでそう言うと、澄香はまたカコカコと打ち始めた。
ピコン、と広翔のスマホが光る。
澄香は広翔から視線を逸らした。
『私も楽しかった』
続けて、別の文が送られてきた。
『好きです』
一瞬、頭の中が真っ白になった。
フリーズする広翔に、澄香はさらにメッセージを送る。
『私と、付き合ってください』
え、と澄香を見ると、彼女はスマホを口元に寄せ、頬を赤らめている。
花火の光か、頬の熱か。
「え、本当ですか?夢じゃなくて?」
広翔が瞬きを何度も繰り返す。
「お、俺でいいんですか」
ドクドクドクと血の巡りが速くなる。
澄香は照れ笑いを浮かべ、頷いた。
『好きになってくれて、ありがとう。諦めないでくれて、助けてくれて、支えてくれて、ありがとう。そんな優しい広翔君に、惹かれました』
澄香のメッセージに、
「……か、彼女?先輩が、彼女?」
と繰り返す。
「俺、なんか理由つけなくても会いに行っていいんですか」
真顔で尋ねる広翔がおかしくて、澄香は笑った。
広翔が一目惚れした、あの笑顔で。
金網もいい温度だ。
「じゃあ、焼いていこう」
京介がトングを使って牛脂を滑らせる。
その上に下準備が成された牛タン、玉ねぎ、じゃがいもなどを網の上で焼いていく。
簡単な料理なのに、何故こんなにも美味くなるのか。
「いい色じゃない?」
「いや、肉はまだだ」
さっきの雰囲気はどこへやら、璃久も真理ももういつもと変わらない調子で話している。
「広翔君」
ちょっといいかな、と京介が笑顔で話しかけてきた。
広翔は口に含んだ牛タンをゴクッと呑んだ。
「は、はい」
二人は縁側に座った。
バーベキューを囲む人たちとは一定の距離が空く。
「澄香ちゃんと、仲が良いと聞いたんだ」
「え、はい。俺は、そう思いたいです」
頭を掻きながら言う広翔に、京介は穏やかに微笑みかける。
「僕が言えたことじゃないけど、あの子を見てやって」
広翔が意味を理解しかねていると、
「あの子は、僕たちが家族ではないと、どこかで線を引いているみたいだから。……それが駄目なわけじゃない。どこまで聞いたかわからないが、彼女は家族を嫌っていない。もしかしたら、いつかまた元通りになると信じているのかもしれないね。それも、駄目なことじゃあない。でも、その線引きで、僕たちがあの子に関われる領域は決まってしまっている気がするんだ。気づかないうちに、真理にも、澄香ちゃんにも、寂しい思いをさせている気がするんだ。……難しいね、家族というのは」
京介が言わんとすることが、何となくわかった。
「言える立場じゃあないけれど、澄香ちゃんに、寄り添ってあげてほしいんだ。きっとそれは、僕達じゃできないこともあるから」
他人任せだね、と京介は苦笑いを浮かべた。
「どうして、それを俺に」
以前、季実にした同じ質問を京介に投げかける。
京介は立ち上がり、また穏やかに笑った。
「直感、かな」
***
「広翔、肉なくなるぞ」
璃久が焼きおにぎりを頬張りながら言った。
「え、そんなに無いのか!?」
「まだあるわよー」
季実は食材がのった大皿を二枚分、網の上でジュワッと焼き始める。
「若い子はいーっぱい食べなさい」
ほらほら、と次々に肉が取り皿に盛られていく。
皆のお腹が満たされる頃には、米が五合分と、肉が四キロ分、野菜一キロが消え去っていた。
「じゃ、花火やろ、花火」
すっかり暗くなり、周りの顔の判別が苦しくなり始めた時、真理が花火セットを持ってきた。
「夏の風物詩だね」
胡桃が楽しそうに言う。
「じゃ、焚き火モードに切り替えよう」
京介はいそいそと焚火台を用意し、炭を移した。
穏やかな火を内側に籠らせ、赤い炎が上へ上へと舞う。
花火を各自渡され、それぞれ楽しむ。
「すげえ、色変わった」
花火をあまりしない広翔ははしゃいだ。
その様子を、澄香が隣でくすくすと笑いながら眺めていた。
ふと、澄香がスマホを取り出した。
『楽しいね』
と広翔のスマホにラインが届く。
「はい、とても楽しいです。誘ってくれてありがとうございました」
広翔が満面の笑みでそう言うと、澄香はまたカコカコと打ち始めた。
ピコン、と広翔のスマホが光る。
澄香は広翔から視線を逸らした。
『私も楽しかった』
続けて、別の文が送られてきた。
『好きです』
一瞬、頭の中が真っ白になった。
フリーズする広翔に、澄香はさらにメッセージを送る。
『私と、付き合ってください』
え、と澄香を見ると、彼女はスマホを口元に寄せ、頬を赤らめている。
花火の光か、頬の熱か。
「え、本当ですか?夢じゃなくて?」
広翔が瞬きを何度も繰り返す。
「お、俺でいいんですか」
ドクドクドクと血の巡りが速くなる。
澄香は照れ笑いを浮かべ、頷いた。
『好きになってくれて、ありがとう。諦めないでくれて、助けてくれて、支えてくれて、ありがとう。そんな優しい広翔君に、惹かれました』
澄香のメッセージに、
「……か、彼女?先輩が、彼女?」
と繰り返す。
「俺、なんか理由つけなくても会いに行っていいんですか」
真顔で尋ねる広翔がおかしくて、澄香は笑った。
広翔が一目惚れした、あの笑顔で。
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