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運命を求めた契約〈陽菜語り〉
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彼方君は写真があまり好きではなかった。そのことを失念していた。ここまで追い詰められては、誤魔化して逃げることはできない。
それに一体なんの用があるというのだ。
目的が分からない今、彼の言うことに従うしかない。
仕方なく中へ招き入れ、水の入ったやかんをコンロにのせ、火を灯した。
中へ入った久留米君は、特に部屋をジロジロ見るようなことはせずにテーブルを向く椅子に腰をかけた。
「……もう一度聞きますね」
久留米君はそうことわり、
「本当に前世のこと、覚えていないんですか」
と再び問うてきた。
相手は私の正体を知っているから、ここまで問い詰めてくるのだ。名前も覚えられていたし。
私は観念して、大きな溜息を吐いた。
「……覚えてるわよ。…………新体制の王様」
「どうして隠そうとしたんですか?隠せてませんが」
嫌味に対してくすっと笑いながら言うところが、前世の奴にそっくりだ。
「前世なんてあやふやなものよ。証拠なんてない。人の記憶なんて、一番信用できないものでしょ。普通、こんな話をしたら頭おかしい奴としか思われないでしょう」
「だから俺から聞いたんじゃないですか。それとも、まだ気にしてるんですか?」
久留米君……いや、ジルド王の言葉に、私はやかんに触れようとした手を止めた。
「安心してください。今も昔も、あなたに興味は無いんですから。まして今は親友の彼女なんでしょ?手なんか出しませんよ」
どの口が言うのだ。
やかんを持ち上げ、市販のパックを入れたティーカップに湯を注ぐ。
「今手なんか出してきたら訴えるわよ」
冷ややかな視線を向けると、ジルド王は「だから出しませんて」と溜息を吐いた。
「……それに、前世の場合は承諾済みだったでしょう。あなたはさっさと死んでしまいましたけど。……っと、こんな話をするために来たんじゃないんです」
と、久留米君は苦い顔をした。
「今日来たのは、前世の記憶を持つ彼方の友人として伝えることがあったから来たんです」
ややこしい。
一体なんの話だというのだ。
そもそも彼方君の友人であることって関係あるのだろうか。前世の記憶があるから来た、でいいんじゃないの?
「……まず、あなたたちが再び出逢ったことについてです」
「……は?」
意図があるとでも言いたいのか。それとも不服だと言いたいのか。
脈絡のない、全くもって何を言いたいのか分からない切り出し方に、思わず眉をひそめる。
「これは、おそらく運命では無いんです」
「……じゃあ何なの。奇跡?」
「いいえ」
久留米君はそっと首を降った。
「呪いです」
彼の言葉に、ぐっと拳に力が篭もる。
「……なに、呪いって」
「前世の呪いです。」
なんの抑揚もない声が腹立たしい。
「わけがわ…………え」
訳が分からない。
何を言っているんだ、この男は。
私の表情に、彼は至って冷静に「思い当たりませんか」と言う。
彼は腕を組みなおし、
「前世には、今で言う宗教が国で定められていましたよね。……その中には、禁術と言われていたものもあった。それを知るものは数少ない。だけどあなたは知っていた。……兄が……いえ、彼方が教えでもしたんでしょうね。そしてそれを、あの方たちが実行してしまった」
責めているような口調ではない。だが威厳あるその声に、年下なのに身体がすくんだ。
だが。
「シオル殿とミザラ殿。彼らは禁忌を犯してしまった。あなたのために」
「……え、なに。なんのことを言っているの」
私は用意した茶を彼の前に置く手を止めた。
もう一つのティーカップを持つ手が震える。
「彼らはあなたの死後、儀式をしたんです。禁術の儀式を。そしてそれは成功してしまいました」
彼の言葉が、頭に入ってこない。
「あなたたちは、彼らの人生も、貴女方ご自身の人生も、捻じ曲げてしまったんです。……本来、人生は一度きりで、仮に生まれ変わろうが、前世など関係ない。それが教えでしたよね」
しん、と部屋に静寂が落ちる。
コト、と音を立てながら、彼がティーカップを口元に運ぶ。
多分、私の顔は真っ青だ。
「彼らは……前世の記憶を運び、なおかつ魂を転生させる。……上手くいく話なんて、聞いたことありませんでしたけど」
優しい友人を持ちましたね、と彼は紅茶を飲み干した。
「……で、もう一つ話がありまして……」
「はぁ……」
と、気の抜けた声を出す。
「なぜ俺たちは記憶を受け継いでいるのか。それと、なんで当事者のはずが好恵さんは覚えていないのか、ということです」
「……知らないわよ」
バッサリ切り捨てるように言うと、「まぁそうですよね」とあっさり頷く。
「貴方が死んだ後のことですので、知りようがないですよね」
彼はそう言うなり、
「話はそれだけです。それじゃ、お邪魔しました」
と立ち上がる。
玄関まで無言だった。
だが、私の方からそっと口を開いた。
「さようなら。……できればもう会いたくないわ」
そう冷ややかに言うと、久留米君は微笑んだ。
「安心してください。……俺もですから」
パタン、と扉が閉まる。
瞬間、勢いよく鍵をかける。
逸る心臓を抱えながら、私はうずくまった。
彼は前世の恋人の弟。
そして、前世での結婚相手。
彼の飲み干した茶器を横目に、深くため息を吐いた。
それに一体なんの用があるというのだ。
目的が分からない今、彼の言うことに従うしかない。
仕方なく中へ招き入れ、水の入ったやかんをコンロにのせ、火を灯した。
中へ入った久留米君は、特に部屋をジロジロ見るようなことはせずにテーブルを向く椅子に腰をかけた。
「……もう一度聞きますね」
久留米君はそうことわり、
「本当に前世のこと、覚えていないんですか」
と再び問うてきた。
相手は私の正体を知っているから、ここまで問い詰めてくるのだ。名前も覚えられていたし。
私は観念して、大きな溜息を吐いた。
「……覚えてるわよ。…………新体制の王様」
「どうして隠そうとしたんですか?隠せてませんが」
嫌味に対してくすっと笑いながら言うところが、前世の奴にそっくりだ。
「前世なんてあやふやなものよ。証拠なんてない。人の記憶なんて、一番信用できないものでしょ。普通、こんな話をしたら頭おかしい奴としか思われないでしょう」
「だから俺から聞いたんじゃないですか。それとも、まだ気にしてるんですか?」
久留米君……いや、ジルド王の言葉に、私はやかんに触れようとした手を止めた。
「安心してください。今も昔も、あなたに興味は無いんですから。まして今は親友の彼女なんでしょ?手なんか出しませんよ」
どの口が言うのだ。
やかんを持ち上げ、市販のパックを入れたティーカップに湯を注ぐ。
「今手なんか出してきたら訴えるわよ」
冷ややかな視線を向けると、ジルド王は「だから出しませんて」と溜息を吐いた。
「……それに、前世の場合は承諾済みだったでしょう。あなたはさっさと死んでしまいましたけど。……っと、こんな話をするために来たんじゃないんです」
と、久留米君は苦い顔をした。
「今日来たのは、前世の記憶を持つ彼方の友人として伝えることがあったから来たんです」
ややこしい。
一体なんの話だというのだ。
そもそも彼方君の友人であることって関係あるのだろうか。前世の記憶があるから来た、でいいんじゃないの?
「……まず、あなたたちが再び出逢ったことについてです」
「……は?」
意図があるとでも言いたいのか。それとも不服だと言いたいのか。
脈絡のない、全くもって何を言いたいのか分からない切り出し方に、思わず眉をひそめる。
「これは、おそらく運命では無いんです」
「……じゃあ何なの。奇跡?」
「いいえ」
久留米君はそっと首を降った。
「呪いです」
彼の言葉に、ぐっと拳に力が篭もる。
「……なに、呪いって」
「前世の呪いです。」
なんの抑揚もない声が腹立たしい。
「わけがわ…………え」
訳が分からない。
何を言っているんだ、この男は。
私の表情に、彼は至って冷静に「思い当たりませんか」と言う。
彼は腕を組みなおし、
「前世には、今で言う宗教が国で定められていましたよね。……その中には、禁術と言われていたものもあった。それを知るものは数少ない。だけどあなたは知っていた。……兄が……いえ、彼方が教えでもしたんでしょうね。そしてそれを、あの方たちが実行してしまった」
責めているような口調ではない。だが威厳あるその声に、年下なのに身体がすくんだ。
だが。
「シオル殿とミザラ殿。彼らは禁忌を犯してしまった。あなたのために」
「……え、なに。なんのことを言っているの」
私は用意した茶を彼の前に置く手を止めた。
もう一つのティーカップを持つ手が震える。
「彼らはあなたの死後、儀式をしたんです。禁術の儀式を。そしてそれは成功してしまいました」
彼の言葉が、頭に入ってこない。
「あなたたちは、彼らの人生も、貴女方ご自身の人生も、捻じ曲げてしまったんです。……本来、人生は一度きりで、仮に生まれ変わろうが、前世など関係ない。それが教えでしたよね」
しん、と部屋に静寂が落ちる。
コト、と音を立てながら、彼がティーカップを口元に運ぶ。
多分、私の顔は真っ青だ。
「彼らは……前世の記憶を運び、なおかつ魂を転生させる。……上手くいく話なんて、聞いたことありませんでしたけど」
優しい友人を持ちましたね、と彼は紅茶を飲み干した。
「……で、もう一つ話がありまして……」
「はぁ……」
と、気の抜けた声を出す。
「なぜ俺たちは記憶を受け継いでいるのか。それと、なんで当事者のはずが好恵さんは覚えていないのか、ということです」
「……知らないわよ」
バッサリ切り捨てるように言うと、「まぁそうですよね」とあっさり頷く。
「貴方が死んだ後のことですので、知りようがないですよね」
彼はそう言うなり、
「話はそれだけです。それじゃ、お邪魔しました」
と立ち上がる。
玄関まで無言だった。
だが、私の方からそっと口を開いた。
「さようなら。……できればもう会いたくないわ」
そう冷ややかに言うと、久留米君は微笑んだ。
「安心してください。……俺もですから」
パタン、と扉が閉まる。
瞬間、勢いよく鍵をかける。
逸る心臓を抱えながら、私はうずくまった。
彼は前世の恋人の弟。
そして、前世での結婚相手。
彼の飲み干した茶器を横目に、深くため息を吐いた。
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