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出会ったのは、きっと。〈陽菜語り〉
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まさか、昔の友人同士でデキていたなんて。
鍋を食べ終え、好恵のパジャマを身にまとった私は、彼方君の部屋で一人ぼんやりとしていた。
あの二人は、前世では、私の近所に住む妹のような存在だったシオルと、カルタに仕えていた近衛兵の一人で、黒髪イケメンだったミザラだった。
二人は傍から見てもお似合いの恋人だった。
シオルは好恵に生まれ変わり、ミザラは性別も変わって千秋になっていた。
高校で話しかけられた時は、本当に驚いた。まるで、あの頃に戻ったかのようで。あの二人が、生きていたときのようで。
あの二人は、結局結婚はできなかった。正確に言えば、婚約はしていたのだが、婚礼の儀を行うことができなかったのだ。
ミザラが、殺されてしまったからだった。
戦争だったから、仕方の無いことと言えばそうなのだが。終わり方も、切ないものだった。
ミザラは腹を剣で貫かれていた。かなりの重症ではあったが、まだかろうじて生きていた。
彼は、重い足を引きずってシオルに逢いに行った。
戦火が上がる街の中、大怪我している体を叱咤して、彼は愛する人の元へと急いだ。
ようやっと、彼女の家の傍まで着いた時だ。
シオルが、敵兵に捕まっていた。
長い三つ編みをぐっと強引に捕まれ、服を破かれていた。
ミザラは、言いようのない怒りを覚えた。
すぐにその敵兵を斬りつけ、荒い息のままシオルを見下ろした。
シオルの大きな瞳から、大粒の涙がボロボロと零れ落ちた。
ミザラは、無言で彼女を強く抱きしめた。
「……っザラさ……っ!ミザラ様ッ!ううぅ……っく、うぇ、うぅっ」
シオルの泣きじゃくった声と、元からあった重症の傷による意識の低下のためか、ミザラは、敵兵がもう三人居たことに気がつかなかった。
ミザラは後ろから刺され、シオルは悲鳴を上げた。
だが、彼は事切れなかった。
最後の力を振り絞り、彼は立った。
立って、愛する者を守った。
三人を斬り、ミザラはその場に崩れ落ちるようにして倒れた。
「ミザラ様ッ!死んじゃいや……っ嫌です……!!」
シオルの真っ赤な頬に触れ、彼はふっと優しく微笑んだ。
「……愛している、シオル。たとえ、生まれ変わろうと……お前……だけ、を…………」
そっとシオルを抱き寄せ、赤い唇に口づけを落とした。
「私も………!私だって!あなた以外、他に何も……っミザラ様ぁぁぁ」
シオルは泣き叫び続けた。
その声が渇れるまで、ずっと。
ミザラは、穏やかに眠っているかのような表情で人生に終わりを告げたらしい。
戦争が終わった時、シオルは声が出せなくなっていた。
その理由をそれとなく聞いたら、さっきのミザラが死ぬまでのことを話してくれたのだ。
彼女は、話し終えた最後に「ちょっとだけ嬉しいわ」と笑った。
「彼だけに、私の声を全て捧げることができたんですもの」
地面にそう書いた彼女は、本当に幸せそうで、私には眩しく映ったんだ。
彼方君のベッドに頭をもたげ、私は知らないうちに笑みを零していたらしい。
「陽菜さん、嬉しそう」
と、彼方君にあの可愛い笑顔で言われた。
「てっきり、もっと驚くかと思ったよ」
と、温かい紅茶を注ぎながら彼方君は言う。
「驚いたわよ?でも……うん、そうね。運命ってあるのかも」
「え?そういう話なの?」
こっちの意図が分からずに、そのまま受け止めて困惑する。
本当、そういうところが可愛い。
「うーん……そうだなぁ……運命……運命かぁ」
彼方君はブツブツと呟いている。
「どうかした?」
と、覗き込むと、彼はふいと頬を顔を逸らした。
「いや……一目惚れって、よく言うじゃないですか」
「よく、かは分からないけど……言うわね」
首肯すると、彼方君は頭を搔いた。
「その……それってもしかしたら、運命感じたのかもなぁ、なんて」
彼方君の言葉に、目が見開かれていくのがわかる。
おそるおそる、声が震えないように気をつけながら口を開く。
「……彼方君も、一目惚れ?」
「ふぇっ!?」
彼は顔を一気に赤くして後ずさった。
じっと見つめて、答えてくれるのを待つ。
彼方君は視線を逸らしながら、
「ひ、……陽菜さんこそ……ひ、一目惚れは無理だろうけど、その……こう、惹かれる所ってありました……?」
自信なさげに喋る彼方君に、「君は、バカ」と溜息混じりに言った。
「惹かれる所がなかったら、私から告白なんてしないわよ。なんなら、私が好きなところ順に挙げてこうか?まず声でしょ?それから優しいところ、私を見つけてすぐパッて顔輝かせるところでしょ?それから箸の持ち方も好き。あと勉強に集中してる時の顔もすごく好き。まだあるよ?他には……」
「わ、わかった!わかりました!すみませんでした!もう勘弁して……っ」
首まで真っ赤にする彼方君見てると、ついつい弄りたくなっちゃうんだもの。
紅茶を啜ると、穏やかな匂いが鼻腔をすっと抜ける。
まぁ、いいか。
今、彼にこんなに好かれているんだから。
運命だのなんだのは、私が作ればいい話だ。
そう思いながら目を伏せると、「……ですよ」彼方君がゴニョリと何か言った。
ん?と首を傾げてみせると、彼方君は目をちょっと吊り上げながら「だから!」と怒り口調で少し大きな声を出した。
「初めて会った時に、初めて会った気がしないなって思ったんです!なんていうか、ずっと前から探していた人を見つけたような……っでもそれ、俺絶対ヤバい奴って思われるじゃないですか。だから……あまり言いたくなかったんです!おやすみなさいっ!!」
そう言い捨て、彼方君は部屋のドアをバタンと閉めて出て行ってしまった。
私は、しばらくポカンとしていた。
けれど、次第に涙が溢れて止まらなくなってしまった。
──ずっと前から探していた人を見つけたような……っ
こんな、こんなにも胸が今苦しい。
嬉しくて、幸せで、……反則だよ。
その日、私はいつの間にか泣き疲れて眠ってしまった。
外はすっかり落ち着いて、綺麗な星空が広がっていたそうだ。
鍋を食べ終え、好恵のパジャマを身にまとった私は、彼方君の部屋で一人ぼんやりとしていた。
あの二人は、前世では、私の近所に住む妹のような存在だったシオルと、カルタに仕えていた近衛兵の一人で、黒髪イケメンだったミザラだった。
二人は傍から見てもお似合いの恋人だった。
シオルは好恵に生まれ変わり、ミザラは性別も変わって千秋になっていた。
高校で話しかけられた時は、本当に驚いた。まるで、あの頃に戻ったかのようで。あの二人が、生きていたときのようで。
あの二人は、結局結婚はできなかった。正確に言えば、婚約はしていたのだが、婚礼の儀を行うことができなかったのだ。
ミザラが、殺されてしまったからだった。
戦争だったから、仕方の無いことと言えばそうなのだが。終わり方も、切ないものだった。
ミザラは腹を剣で貫かれていた。かなりの重症ではあったが、まだかろうじて生きていた。
彼は、重い足を引きずってシオルに逢いに行った。
戦火が上がる街の中、大怪我している体を叱咤して、彼は愛する人の元へと急いだ。
ようやっと、彼女の家の傍まで着いた時だ。
シオルが、敵兵に捕まっていた。
長い三つ編みをぐっと強引に捕まれ、服を破かれていた。
ミザラは、言いようのない怒りを覚えた。
すぐにその敵兵を斬りつけ、荒い息のままシオルを見下ろした。
シオルの大きな瞳から、大粒の涙がボロボロと零れ落ちた。
ミザラは、無言で彼女を強く抱きしめた。
「……っザラさ……っ!ミザラ様ッ!ううぅ……っく、うぇ、うぅっ」
シオルの泣きじゃくった声と、元からあった重症の傷による意識の低下のためか、ミザラは、敵兵がもう三人居たことに気がつかなかった。
ミザラは後ろから刺され、シオルは悲鳴を上げた。
だが、彼は事切れなかった。
最後の力を振り絞り、彼は立った。
立って、愛する者を守った。
三人を斬り、ミザラはその場に崩れ落ちるようにして倒れた。
「ミザラ様ッ!死んじゃいや……っ嫌です……!!」
シオルの真っ赤な頬に触れ、彼はふっと優しく微笑んだ。
「……愛している、シオル。たとえ、生まれ変わろうと……お前……だけ、を…………」
そっとシオルを抱き寄せ、赤い唇に口づけを落とした。
「私も………!私だって!あなた以外、他に何も……っミザラ様ぁぁぁ」
シオルは泣き叫び続けた。
その声が渇れるまで、ずっと。
ミザラは、穏やかに眠っているかのような表情で人生に終わりを告げたらしい。
戦争が終わった時、シオルは声が出せなくなっていた。
その理由をそれとなく聞いたら、さっきのミザラが死ぬまでのことを話してくれたのだ。
彼女は、話し終えた最後に「ちょっとだけ嬉しいわ」と笑った。
「彼だけに、私の声を全て捧げることができたんですもの」
地面にそう書いた彼女は、本当に幸せそうで、私には眩しく映ったんだ。
彼方君のベッドに頭をもたげ、私は知らないうちに笑みを零していたらしい。
「陽菜さん、嬉しそう」
と、彼方君にあの可愛い笑顔で言われた。
「てっきり、もっと驚くかと思ったよ」
と、温かい紅茶を注ぎながら彼方君は言う。
「驚いたわよ?でも……うん、そうね。運命ってあるのかも」
「え?そういう話なの?」
こっちの意図が分からずに、そのまま受け止めて困惑する。
本当、そういうところが可愛い。
「うーん……そうだなぁ……運命……運命かぁ」
彼方君はブツブツと呟いている。
「どうかした?」
と、覗き込むと、彼はふいと頬を顔を逸らした。
「いや……一目惚れって、よく言うじゃないですか」
「よく、かは分からないけど……言うわね」
首肯すると、彼方君は頭を搔いた。
「その……それってもしかしたら、運命感じたのかもなぁ、なんて」
彼方君の言葉に、目が見開かれていくのがわかる。
おそるおそる、声が震えないように気をつけながら口を開く。
「……彼方君も、一目惚れ?」
「ふぇっ!?」
彼は顔を一気に赤くして後ずさった。
じっと見つめて、答えてくれるのを待つ。
彼方君は視線を逸らしながら、
「ひ、……陽菜さんこそ……ひ、一目惚れは無理だろうけど、その……こう、惹かれる所ってありました……?」
自信なさげに喋る彼方君に、「君は、バカ」と溜息混じりに言った。
「惹かれる所がなかったら、私から告白なんてしないわよ。なんなら、私が好きなところ順に挙げてこうか?まず声でしょ?それから優しいところ、私を見つけてすぐパッて顔輝かせるところでしょ?それから箸の持ち方も好き。あと勉強に集中してる時の顔もすごく好き。まだあるよ?他には……」
「わ、わかった!わかりました!すみませんでした!もう勘弁して……っ」
首まで真っ赤にする彼方君見てると、ついつい弄りたくなっちゃうんだもの。
紅茶を啜ると、穏やかな匂いが鼻腔をすっと抜ける。
まぁ、いいか。
今、彼にこんなに好かれているんだから。
運命だのなんだのは、私が作ればいい話だ。
そう思いながら目を伏せると、「……ですよ」彼方君がゴニョリと何か言った。
ん?と首を傾げてみせると、彼方君は目をちょっと吊り上げながら「だから!」と怒り口調で少し大きな声を出した。
「初めて会った時に、初めて会った気がしないなって思ったんです!なんていうか、ずっと前から探していた人を見つけたような……っでもそれ、俺絶対ヤバい奴って思われるじゃないですか。だから……あまり言いたくなかったんです!おやすみなさいっ!!」
そう言い捨て、彼方君は部屋のドアをバタンと閉めて出て行ってしまった。
私は、しばらくポカンとしていた。
けれど、次第に涙が溢れて止まらなくなってしまった。
──ずっと前から探していた人を見つけたような……っ
こんな、こんなにも胸が今苦しい。
嬉しくて、幸せで、……反則だよ。
その日、私はいつの間にか泣き疲れて眠ってしまった。
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