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予期しない展開〈彼方語り〉
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彼女と手を繋いで家まで歩く。
心がふわっと軽いのに、心臓はドクドクしていてチグハグだ。
「ひ、陽菜さんて、普段は何の仕事してるんだっけ」
美人な彼女の彼氏が、陽菜さんと身長もそこまで変わらないし美形でもない、年の離れた似てない姉弟にしか見えない、パッとしないし頼りなさそうな奴。
今日会ったあの元カレは、きっとそんなことを思ったのだろう。
「えっとね、住居のデザイン。やりがいあるよ」
「デザインかぁ……俺は美術センス皆無だからなぁ。あ、姉さんとは気ぃ合うかも。俺の美術センスは全部姉さんがとってったから」
美術の成績で二がつかないのは、筆記テストがあるからだ。それほどまでに不器用で、センスの欠片もない。
「でも、彼方君は頭いいじゃない」
そんな俺に勉強を教えられる陽菜さんはもっと頭いいけど…………。
「あと、バレーかっこいい。美術なんて出来なくても、他にいっぱいできること多いんだからいいじゃない」
カッコイイ。
今日も生きてて良かったと思える瞬間だ。
陽菜さんは、土日にある大会はよく都合をつけて見に来てくれる。
少し恥ずかしいけど、格好いいと言われるのは嬉しい。あと差し入れの陽菜さんのクッキーと弁当が物凄く美味しい。
だけど一つだけ、言わせてもらおう。
かく言うあなたは、運動も勉強も美術もできて美人という……ズルくない?
神様は不公平だ…………。
「……顔がもっと良くて、身長もあればなぁ」
神に祈るような気持ちで空を仰ぐと、
「え、やだ」
と、まさかの一刀両断。
「え、普通……彼氏が格好いいほうがいいんじゃないの?」
意外な反応に、少し戸惑った。
「今のままで充分すぎるほどカッコイイし。……ただでさえモテてるのに、これ以上イケメンにならなくていい。私が妬いちゃう」
それめちゃくちゃ嬉しいんだけど!
顔がニタァ、と変になる。
「俺モテないよ。陽菜さんの方がモテ…………」
モテるでしょ、と言おうとしたけど、言葉が続かなかった。
手を、お互いの手首から指先までを握っていたのをスルリと外して、腕を組んできたのだ。
「ひ、陽菜さ……」
さっきよりも緊張が増す。
だって、すぐそこに綺麗な栗色の髪があって、いい匂いがふわっとするとか、反則でしょう!!
理性が吹っ飛びそうになる。
思い切り抱きしめたくなるのを必死に堪えた。
「君は」
ふと、陽菜さんが口を開く。
少し眉がつり上がっている。
だけど、そんな彼女も美しくて目を奪われる。
「君は、私だけにモテてればいいの」
かっわ…………!!
ちょ、それは、ずるい。
そんな可愛いこと言わないでくれ。
「……またそんなこと言って…………」
俺の心境も知らないで、可愛いことばっか言ってきて。心臓破裂させる気か。臓器を全滅させる気か。
「…………煽ったのは、陽菜さんだからね」
「え」
大きな瞳が、さらに大きく見開かれる。
ピタッと足を止めて、陽菜さんと見つめ合う。
多分俺の顔凄い変なことになってる。
絶対顔赤いし。
でも、陽菜さんの瞳、ホントに綺麗な色だなぁ。
吸い寄せられるように、顔を近づける。
陽菜さんは、なんか、ずっと目を開いてる。
「……陽菜さん。目、閉じて」
恥ずかしいから。そんなに見ないで。
「だって勿体ないもの」
あのさ!?
今滅茶苦茶至近距離なんだよ、わかってる!?
鼻先触れてるんだよ?なんでふつーに喋れるの!?
吐息が唇にかかって、なんかもう、凄いドキドキする。
パッと左手で陽菜さんの目を覆う。
「彼方く……」
艶のある赤い唇を、そっと塞ぐ。
小さなリップ音と共に顔を離す。
「……あの、彼方君。手、そろそろ離して」
「無理。今俺絶対ヤバいから」
いいから、と無理やり腕を剥がされる。
彼女の視界が露になる。
「外さないでよ…………」
顔が真っ赤なのを隠すように、俺はそっぽを向く。
陽菜さんは多分、じっと見てる。視線が痛い。
「…………彼方君」
陽菜さんが、俺の名前を呼ぶ。
そのことだけで、俺の身体はビリッとなる。
「大好き」
思わず、視線が彼女の方へ向かう。
だって絶対…………。
ああ、やっぱり。
すごくすごく、美しく綺麗に、だけど可愛い笑みを浮かべていた。
俺だけに、向けていてほしい顔。
コツコツと靴を鳴らして、陽菜さんが距離を詰めてくる。
「また、してよね」
にっこりと恥じらいなく言える彼女はやはり何枚も上手だ。
そう言ってまた、腕を組む。
彼女は一瞬下を向いた。
何だか、その仕草にドキッとした。
見たことあるような光景。
そんなわけ、ないのに。
ここは、広い大草原があるわけでも、向日葵の咲き乱れる畑もないというのに。
はっとした。
何を、考えていたのだろう。
草原?向日葵?
いつかの夢にでも出てきたことを、今思い出したのだろうか。
何でもないことのはずなのに、心臓が物凄く煩い。まぁ多分、陽菜さんと腕を組んでいるからなんだろうけど。
ドサッと、音がした。
思わず身体がビクッと跳ねる。
おそるおそる振り返ると、ああ。
なんて、お決まりの展開なのだろうか。
「…………姉さん」
姉さんは俺の本当の姉ではなく、隣の家に住む姉さんだ。ずっと、実の弟のように可愛がられてきた。
その姉さんが可愛らしいいつもの笑みを一切浮かべずにぼけっと突っ立っている。その傍らに、近所のスーパーの袋が横たわり、ネギと林檎が転がりでていた。
「……え、ちょ……彼方。まさか、あんたの言ってた彼女って…………」
わなわなと震える手で陽菜さんを指さす。
「あ、うん。…………彼女の、麻井陽菜さん」
「……ははっ。同姓同名かなぁぁ?嘘でしょー……」
何の話だ。
姉さんは額に手を当てて唸っている。
というか、ブツブツ呟いてて……なんというか、壊れてる。
「あの、陽菜さん。普段はこんな壊れてないんで……す、よ……」
笑って姉さんを指さしていたのだが、次第にその笑みが消えていくのを感じた。
陽菜さんも、呆然としていたのだ。
これは、まさか。
「…………千秋…………よね」
知り合いだったようです。
俺は、そんな二人を交互に見やってオロオロしていた。いや、正確には、どういう反応をしたらいいかわからなくて立ち竦んだ。
赤い夕日が沈む頃、烏が「アホー」と鳴いた。
心がふわっと軽いのに、心臓はドクドクしていてチグハグだ。
「ひ、陽菜さんて、普段は何の仕事してるんだっけ」
美人な彼女の彼氏が、陽菜さんと身長もそこまで変わらないし美形でもない、年の離れた似てない姉弟にしか見えない、パッとしないし頼りなさそうな奴。
今日会ったあの元カレは、きっとそんなことを思ったのだろう。
「えっとね、住居のデザイン。やりがいあるよ」
「デザインかぁ……俺は美術センス皆無だからなぁ。あ、姉さんとは気ぃ合うかも。俺の美術センスは全部姉さんがとってったから」
美術の成績で二がつかないのは、筆記テストがあるからだ。それほどまでに不器用で、センスの欠片もない。
「でも、彼方君は頭いいじゃない」
そんな俺に勉強を教えられる陽菜さんはもっと頭いいけど…………。
「あと、バレーかっこいい。美術なんて出来なくても、他にいっぱいできること多いんだからいいじゃない」
カッコイイ。
今日も生きてて良かったと思える瞬間だ。
陽菜さんは、土日にある大会はよく都合をつけて見に来てくれる。
少し恥ずかしいけど、格好いいと言われるのは嬉しい。あと差し入れの陽菜さんのクッキーと弁当が物凄く美味しい。
だけど一つだけ、言わせてもらおう。
かく言うあなたは、運動も勉強も美術もできて美人という……ズルくない?
神様は不公平だ…………。
「……顔がもっと良くて、身長もあればなぁ」
神に祈るような気持ちで空を仰ぐと、
「え、やだ」
と、まさかの一刀両断。
「え、普通……彼氏が格好いいほうがいいんじゃないの?」
意外な反応に、少し戸惑った。
「今のままで充分すぎるほどカッコイイし。……ただでさえモテてるのに、これ以上イケメンにならなくていい。私が妬いちゃう」
それめちゃくちゃ嬉しいんだけど!
顔がニタァ、と変になる。
「俺モテないよ。陽菜さんの方がモテ…………」
モテるでしょ、と言おうとしたけど、言葉が続かなかった。
手を、お互いの手首から指先までを握っていたのをスルリと外して、腕を組んできたのだ。
「ひ、陽菜さ……」
さっきよりも緊張が増す。
だって、すぐそこに綺麗な栗色の髪があって、いい匂いがふわっとするとか、反則でしょう!!
理性が吹っ飛びそうになる。
思い切り抱きしめたくなるのを必死に堪えた。
「君は」
ふと、陽菜さんが口を開く。
少し眉がつり上がっている。
だけど、そんな彼女も美しくて目を奪われる。
「君は、私だけにモテてればいいの」
かっわ…………!!
ちょ、それは、ずるい。
そんな可愛いこと言わないでくれ。
「……またそんなこと言って…………」
俺の心境も知らないで、可愛いことばっか言ってきて。心臓破裂させる気か。臓器を全滅させる気か。
「…………煽ったのは、陽菜さんだからね」
「え」
大きな瞳が、さらに大きく見開かれる。
ピタッと足を止めて、陽菜さんと見つめ合う。
多分俺の顔凄い変なことになってる。
絶対顔赤いし。
でも、陽菜さんの瞳、ホントに綺麗な色だなぁ。
吸い寄せられるように、顔を近づける。
陽菜さんは、なんか、ずっと目を開いてる。
「……陽菜さん。目、閉じて」
恥ずかしいから。そんなに見ないで。
「だって勿体ないもの」
あのさ!?
今滅茶苦茶至近距離なんだよ、わかってる!?
鼻先触れてるんだよ?なんでふつーに喋れるの!?
吐息が唇にかかって、なんかもう、凄いドキドキする。
パッと左手で陽菜さんの目を覆う。
「彼方く……」
艶のある赤い唇を、そっと塞ぐ。
小さなリップ音と共に顔を離す。
「……あの、彼方君。手、そろそろ離して」
「無理。今俺絶対ヤバいから」
いいから、と無理やり腕を剥がされる。
彼女の視界が露になる。
「外さないでよ…………」
顔が真っ赤なのを隠すように、俺はそっぽを向く。
陽菜さんは多分、じっと見てる。視線が痛い。
「…………彼方君」
陽菜さんが、俺の名前を呼ぶ。
そのことだけで、俺の身体はビリッとなる。
「大好き」
思わず、視線が彼女の方へ向かう。
だって絶対…………。
ああ、やっぱり。
すごくすごく、美しく綺麗に、だけど可愛い笑みを浮かべていた。
俺だけに、向けていてほしい顔。
コツコツと靴を鳴らして、陽菜さんが距離を詰めてくる。
「また、してよね」
にっこりと恥じらいなく言える彼女はやはり何枚も上手だ。
そう言ってまた、腕を組む。
彼女は一瞬下を向いた。
何だか、その仕草にドキッとした。
見たことあるような光景。
そんなわけ、ないのに。
ここは、広い大草原があるわけでも、向日葵の咲き乱れる畑もないというのに。
はっとした。
何を、考えていたのだろう。
草原?向日葵?
いつかの夢にでも出てきたことを、今思い出したのだろうか。
何でもないことのはずなのに、心臓が物凄く煩い。まぁ多分、陽菜さんと腕を組んでいるからなんだろうけど。
ドサッと、音がした。
思わず身体がビクッと跳ねる。
おそるおそる振り返ると、ああ。
なんて、お決まりの展開なのだろうか。
「…………姉さん」
姉さんは俺の本当の姉ではなく、隣の家に住む姉さんだ。ずっと、実の弟のように可愛がられてきた。
その姉さんが可愛らしいいつもの笑みを一切浮かべずにぼけっと突っ立っている。その傍らに、近所のスーパーの袋が横たわり、ネギと林檎が転がりでていた。
「……え、ちょ……彼方。まさか、あんたの言ってた彼女って…………」
わなわなと震える手で陽菜さんを指さす。
「あ、うん。…………彼女の、麻井陽菜さん」
「……ははっ。同姓同名かなぁぁ?嘘でしょー……」
何の話だ。
姉さんは額に手を当てて唸っている。
というか、ブツブツ呟いてて……なんというか、壊れてる。
「あの、陽菜さん。普段はこんな壊れてないんで……す、よ……」
笑って姉さんを指さしていたのだが、次第にその笑みが消えていくのを感じた。
陽菜さんも、呆然としていたのだ。
これは、まさか。
「…………千秋…………よね」
知り合いだったようです。
俺は、そんな二人を交互に見やってオロオロしていた。いや、正確には、どういう反応をしたらいいかわからなくて立ち竦んだ。
赤い夕日が沈む頃、烏が「アホー」と鳴いた。
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