5 / 32
出掛けた先〈陽菜語り〉
しおりを挟む
ちょっと意外だった。
楽しみにしていたデート。訪れた場所は動物園。
らしいと言えば、らしい·····のか?
動物園は実はあまり得意ではない。
昔の記憶があると、どうしてもその時期のことと混同したりしてしまう。つまり、貧乏でいつもお腹がすいている生活と混同し、そこらを歩いてる鳩が美味しそうに見えたりする。
動物園なんて食べ物の宝庫だ。
流石にこの年齢になるとそんなことを口に出したりはしないけど。
小学生の遠足ときに動物園に行ったのだ。うさぎの触れ合いコーナーに連れていかれた時、私はうさぎをひょいと捕まえて、「美味しそう」と言った。
かわいそうだよ、とみんな言うけど、私からすればご馳走なのだ。価値観の違いが浮き彫りになる。
そんなふうに見てるからか、私は動物から好かれない。
ショックじゃない、わけではないけど、仕方ないと思えてしまうのも精神年齢が異常に長いからかな。
「あさ·····陽菜さん。あっちにペンギンいるって」
すぐさまワクワクしたような彼の表情を見るのが今日の目的になる。
目を小さな子供みたいにキラキラ輝かせて本当に可愛い。
じっと見てるのがバレたのか、彼方君が頬を赤らめながら「え、何··········?」と少し後ずさる。
「んー?いや··········愛しいなぁと」
素直な感想を口にすると、ほら。
顔真っ赤にしながら言葉を模索してる。
思わず笑いがこみ上げてくる。
やっぱり楽しい。彼方君が一緒に居ればどこだって。
私が言ってたこと、間違ってなかったみたいだ。
「じゃあ行こうか」
そう言ってさり気なく手を繋ぐ。
だって恋人らしいことなんてまだ一つもやってないし。
これくらい、いいよね?
ただでさえ年が離れて姉と弟みたいに見えてしまうんだから、少しは恋人なんだってことを自覚したい。
実感が欲しい。目に見える絆みたいなものが無いから。
ペンギンコーナーに行くと、小さい子たちがキャッキャとはしゃいでいる。
「鳥なのに飛べない鳥がいるらしいよ」
向日葵が鮮やかに咲くのを一望できる秘密基地で、二人の落ち合う場所。そこで彼は色々なことを教えてくれた。
海という塩がいっぱい含まれた水が、私たちに把握できないほど遠くまで広がっていること。その一方で、砂が一面に敷かれて黄色い絨毯になる所もあるとか。
そして、ある日彼はペンギンについて教えてくれた。
白と黒の模様で、愛らしい姿をしているんだとか。
「なんだか、俺と似てるんだよね」
切なく笑った彼の横顔を見て、思わず「何でよ」と聞き返す。
「俺は、好きなように生きることを許されない立場だから。飛ぶことを許されない鳥と、似てるだろう?」
全てを諦めたように言うものだから、私は思い切り怒りたかった。カルタらしくないって。
でも出来なかった。
その自由を掴むのが、どれだけ大変なことか、不可能に近いことか、わかっていたから。
「·····陽菜さん?」
気遣うような眼差しに、思わずはっと意識を覚醒させる。
「大丈夫?具合悪い?」
心配そうに覗き込む彼方君に慌てて笑顔を向ける。
「大丈夫!ちょっとぼーっとしてただけだから」
「それって大丈夫なの·····?」
なおも心配そうな表情をする彼方君の横を、一匹のペンギンがスイッと通り過ぎた。
「··········かわいいねぇ」
誤魔化すようにガラスに近寄る。
「ペンギンって、何か似てる気がする」
え、と固まった。
「··········飛べないのが、決まってるみたいにさ。··········歳も変えられないからなぁ」
聞こえないように呟いたつもりなんだろうけど、丸聞こえだよ·····。
今度は不可能に近い、じゃなくて、不可能、な所が同じなのね。何でそう、毎回記憶と重なることばかりを言うのだろう。私は少し怒りにも似た感情が湧くのを感じた。
だって、似てるとこさえなければ··········私はこんなに悩まなくても良いのに、なんて考えてしまう。
そうだね、なんて相槌は打ちたくなかった。
「··········平均寿命って、男の人の方が短いんだよね。」
すっとガラスから離れて、彼方君の手を再びとる。
「男の人が年下の方が、一緒に居られる時間が長いよね」
出会って七年ではい、さよなら。なんてことにはもうしたくない。今度は私が先に死にたい。
まぁ、その前に別れたらそんなことすら考える意味が無くなるわけなのだけど。
物騒なことを考えていた時だった。
「··········陽菜?」
彼方君よりも低い声が私の名を呼んだ。
声のするほうを振り返ると、職場の同僚が驚いた顔してそこに居た。
楽しみにしていたデート。訪れた場所は動物園。
らしいと言えば、らしい·····のか?
動物園は実はあまり得意ではない。
昔の記憶があると、どうしてもその時期のことと混同したりしてしまう。つまり、貧乏でいつもお腹がすいている生活と混同し、そこらを歩いてる鳩が美味しそうに見えたりする。
動物園なんて食べ物の宝庫だ。
流石にこの年齢になるとそんなことを口に出したりはしないけど。
小学生の遠足ときに動物園に行ったのだ。うさぎの触れ合いコーナーに連れていかれた時、私はうさぎをひょいと捕まえて、「美味しそう」と言った。
かわいそうだよ、とみんな言うけど、私からすればご馳走なのだ。価値観の違いが浮き彫りになる。
そんなふうに見てるからか、私は動物から好かれない。
ショックじゃない、わけではないけど、仕方ないと思えてしまうのも精神年齢が異常に長いからかな。
「あさ·····陽菜さん。あっちにペンギンいるって」
すぐさまワクワクしたような彼の表情を見るのが今日の目的になる。
目を小さな子供みたいにキラキラ輝かせて本当に可愛い。
じっと見てるのがバレたのか、彼方君が頬を赤らめながら「え、何··········?」と少し後ずさる。
「んー?いや··········愛しいなぁと」
素直な感想を口にすると、ほら。
顔真っ赤にしながら言葉を模索してる。
思わず笑いがこみ上げてくる。
やっぱり楽しい。彼方君が一緒に居ればどこだって。
私が言ってたこと、間違ってなかったみたいだ。
「じゃあ行こうか」
そう言ってさり気なく手を繋ぐ。
だって恋人らしいことなんてまだ一つもやってないし。
これくらい、いいよね?
ただでさえ年が離れて姉と弟みたいに見えてしまうんだから、少しは恋人なんだってことを自覚したい。
実感が欲しい。目に見える絆みたいなものが無いから。
ペンギンコーナーに行くと、小さい子たちがキャッキャとはしゃいでいる。
「鳥なのに飛べない鳥がいるらしいよ」
向日葵が鮮やかに咲くのを一望できる秘密基地で、二人の落ち合う場所。そこで彼は色々なことを教えてくれた。
海という塩がいっぱい含まれた水が、私たちに把握できないほど遠くまで広がっていること。その一方で、砂が一面に敷かれて黄色い絨毯になる所もあるとか。
そして、ある日彼はペンギンについて教えてくれた。
白と黒の模様で、愛らしい姿をしているんだとか。
「なんだか、俺と似てるんだよね」
切なく笑った彼の横顔を見て、思わず「何でよ」と聞き返す。
「俺は、好きなように生きることを許されない立場だから。飛ぶことを許されない鳥と、似てるだろう?」
全てを諦めたように言うものだから、私は思い切り怒りたかった。カルタらしくないって。
でも出来なかった。
その自由を掴むのが、どれだけ大変なことか、不可能に近いことか、わかっていたから。
「·····陽菜さん?」
気遣うような眼差しに、思わずはっと意識を覚醒させる。
「大丈夫?具合悪い?」
心配そうに覗き込む彼方君に慌てて笑顔を向ける。
「大丈夫!ちょっとぼーっとしてただけだから」
「それって大丈夫なの·····?」
なおも心配そうな表情をする彼方君の横を、一匹のペンギンがスイッと通り過ぎた。
「··········かわいいねぇ」
誤魔化すようにガラスに近寄る。
「ペンギンって、何か似てる気がする」
え、と固まった。
「··········飛べないのが、決まってるみたいにさ。··········歳も変えられないからなぁ」
聞こえないように呟いたつもりなんだろうけど、丸聞こえだよ·····。
今度は不可能に近い、じゃなくて、不可能、な所が同じなのね。何でそう、毎回記憶と重なることばかりを言うのだろう。私は少し怒りにも似た感情が湧くのを感じた。
だって、似てるとこさえなければ··········私はこんなに悩まなくても良いのに、なんて考えてしまう。
そうだね、なんて相槌は打ちたくなかった。
「··········平均寿命って、男の人の方が短いんだよね。」
すっとガラスから離れて、彼方君の手を再びとる。
「男の人が年下の方が、一緒に居られる時間が長いよね」
出会って七年ではい、さよなら。なんてことにはもうしたくない。今度は私が先に死にたい。
まぁ、その前に別れたらそんなことすら考える意味が無くなるわけなのだけど。
物騒なことを考えていた時だった。
「··········陽菜?」
彼方君よりも低い声が私の名を呼んだ。
声のするほうを振り返ると、職場の同僚が驚いた顔してそこに居た。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語
六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。



甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる