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デートの予定の建て方〈陽菜語り〉
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デートの定義とは。
多分世のカップルが常々思っている案件ではないだろうか。
彼氏又は彼女が居るだけでデートという脳みそが幸せな人もいれば、ちゃんとした場所、そう例えば遊園地や水族館等々の場所に踏み入れてこそデートだという人。
私は前者だ。
彼がいればどこでも楽しい。
いちいち可愛い動作を入れてくるあたりが本当にたまらない。
だがどうやら彼方君は後者らしい。
というか、私は場所よりも「麻井さん」呼びを直して欲しい。
年上感が拭えない上に距離を感じる。
それにやはり、彼氏なのだからこちらも堂々と「彼方」と下の名で呼んでカップルだと認識させたい。
まぁ、姉弟と間違われるのは目に見えているから敢えて「彼方君」と呼ぶことにしよう。
でもカルタに君を付けるなんて変な感じ。
思わず一人で笑みを零す。
そうだ。それはそうと、以前カフェの窓際から彼方君が二人で帰っているのを見た。美·····少女?少年?正直性別の区別が曖昧だった。まぁ、彼方君に限って浮気はありえないけど。
なぜ言いきれるか?簡単な話。
嘘をつけないから。
だけど感情はそれとは別で、ジリジリと焦がれるように痛い。カルタの表情で幸せそうに、楽しそうに笑っている。それが堪らなく胸を締付ける。
知っててなぜ「別れて」と言ったか?それこそ単純な話だ。
慌てふためく姿が可愛いから。
私の言葉で、仕草で、初々しい反応をするのがたまらなく好きだから。
だけど、カルタはタラシだった。
無自覚タラシ。今の彼とは正反対と言っていいかもしれない。
女の子に対して人一倍優しくて天使の笑みを向けるものだから、勘違いする女の子が続出。そのうちの一人であった私は、持ち前の強気でカルタを問い詰めて·····いや、つい。ノリ?ノリなのかな?
引っぱたいちゃって、その、ねぇ。だって、
「え、俺そんなにチャラチャラしてるかな?まぁでも女の子って可愛いしね」
そう言ってのけた。
あれだよね。優しくされたら期待するよね。ほんとに虚しかった。ついつい手を出しちゃって、カルタにすごく驚かれた。
ああ。それと比べると、なんて女子の理想そのものの男子だろう。
昔が一夫多妻制だったかなんだか知らないけど、昔も今も好きな人は独り占めしたいに決まってる。昔と違うのはそれを許容するかしないかだけの違いだろう。
ちなみに私の前世も側室がいるのは普通だった。
女は子供を作るのが仕事、というのが普通の時代。
私はカルタを引っぱたいた後はもう話せないと思った。
女が男に手を出すなんて有り得ない。
周りの人は皆そう言うから。
それ以上に気まずいというのもあったのだけど。
だけどカルタは身軽に私の元へ足を運んできた。
「ねえ、俺、君のこと好きみたい」
開口一番そう言った。
思わず目を細めたわ。
「それ何人に言ったの?軽々しくそういうこと言わないで。もう関わらないで」
私はそう言って彼を突き放した。
だってまだ好きだから。ていうか元々身分的にキツかったのよね。
だから仮にもし好きになってくれたのだとしても、諦めて貰う他なかった。
だけど彼は初めて怒った。
「俺は一緒にいたい人は自分で決める」
思わず泣いてしまった。
泣くつもりなんてなかったのに。
いつもふにゃふにゃと笑ってばかりいる彼が、初めて真剣な表情で言ってくれた。
そんな彼の言葉に甘えた私は、また彼と時を過ごすことが出来た。
でも、死に目には会えなかった。
知ってはいたけど。
最後に会った時彼は言った。「生まれ変わったら見つける」って。それが今の私を支えている全て。
でも彼は私に気づいてない。前世の記憶などないだろう。私だけが覚えている。私だけが知っている。
なんて寂しいことだろう。
想い出を語り合うことも出来ない。また会えたねと笑いあうことも出来ない。
私だけが昔の彼を重ねて現世を見れない。
一人にしないでよ。
不意に泣きたくなってしまう。
彼を「カルタ」でなく「彼方」として接したいのに。
ついつい昔と全く同じ態度で接してしまって、反応のちょっとした違いにガッカリしている自分がいる。
嫌だな。
こんな自分、嫌。
だから精一杯偽りの仮面を被って、私は私を演じる。
とは言うものの、彼を利用していることに変わりはない。罪悪感は拭えない。
だから、彼がもし私以外に好きな人が出来たなら、その時は──。
「麻井さん、行きたいところある?」
一瞬、呼吸を忘れた。
「··········君の行きたいところに行きたいな」
慌てて笑顔を向ける。
ああ、やっぱり。頭抱えて困ってる。
本当に可愛い。
行きたいところある?
あるよ。向日葵畑。ねえ、それ以前は私から言っていたんだよ。
どこかに行こうよ、と。
私たちの思い出の場所で、二人だけの秘密基地。
君はそんなこと覚えてないでしょう。知らないでしょう。
それでいいよ、やっぱり。
前世に囚われるのは、私だけでいいんだよ。
全てが嘘ではない、と思いたい。
ゆっくりと彼方君自身を見ることができるようになっていると、進歩していると、そう思いたい。
いつか、カルタのことはキレイさっぱり忘れられる日が来るのかな。
·····うん。わからない。
だから、彼方君。生まれ変わりを知らない君が、前世に囚われたまま現世を生きてる私を、夢中にさせて。
なんて、勝手なことは重々承知だけど。
「陽菜さんでいい?」
なんて、可愛いことを言う君を手放す気なんてもうサラサラない。
さて、どうしたものか。
私は彼を誰かに譲ることは出来そうにないかもしれない。
それが果たして、彼方君に対して思っているのか、カルタを失いたくないのか。
二股掛けてるみたいだな。
でも、そうだな。
少なくとも、初めて会った日よりは好きになっているかな。
いつか、彼方君に「好きだよ」と言いたい。
初めて告白した時のような濁りが、一切無い言葉を彼に言ってみたい。
そう決意して、私は席を立った。
うん。大丈夫。
楽しみという言葉に、嘘は無かったようだ。
不思議と足が軽くなった感じになる。
何より、変化を喜べることが嬉しかった。
多分世のカップルが常々思っている案件ではないだろうか。
彼氏又は彼女が居るだけでデートという脳みそが幸せな人もいれば、ちゃんとした場所、そう例えば遊園地や水族館等々の場所に踏み入れてこそデートだという人。
私は前者だ。
彼がいればどこでも楽しい。
いちいち可愛い動作を入れてくるあたりが本当にたまらない。
だがどうやら彼方君は後者らしい。
というか、私は場所よりも「麻井さん」呼びを直して欲しい。
年上感が拭えない上に距離を感じる。
それにやはり、彼氏なのだからこちらも堂々と「彼方」と下の名で呼んでカップルだと認識させたい。
まぁ、姉弟と間違われるのは目に見えているから敢えて「彼方君」と呼ぶことにしよう。
でもカルタに君を付けるなんて変な感じ。
思わず一人で笑みを零す。
そうだ。それはそうと、以前カフェの窓際から彼方君が二人で帰っているのを見た。美·····少女?少年?正直性別の区別が曖昧だった。まぁ、彼方君に限って浮気はありえないけど。
なぜ言いきれるか?簡単な話。
嘘をつけないから。
だけど感情はそれとは別で、ジリジリと焦がれるように痛い。カルタの表情で幸せそうに、楽しそうに笑っている。それが堪らなく胸を締付ける。
知っててなぜ「別れて」と言ったか?それこそ単純な話だ。
慌てふためく姿が可愛いから。
私の言葉で、仕草で、初々しい反応をするのがたまらなく好きだから。
だけど、カルタはタラシだった。
無自覚タラシ。今の彼とは正反対と言っていいかもしれない。
女の子に対して人一倍優しくて天使の笑みを向けるものだから、勘違いする女の子が続出。そのうちの一人であった私は、持ち前の強気でカルタを問い詰めて·····いや、つい。ノリ?ノリなのかな?
引っぱたいちゃって、その、ねぇ。だって、
「え、俺そんなにチャラチャラしてるかな?まぁでも女の子って可愛いしね」
そう言ってのけた。
あれだよね。優しくされたら期待するよね。ほんとに虚しかった。ついつい手を出しちゃって、カルタにすごく驚かれた。
ああ。それと比べると、なんて女子の理想そのものの男子だろう。
昔が一夫多妻制だったかなんだか知らないけど、昔も今も好きな人は独り占めしたいに決まってる。昔と違うのはそれを許容するかしないかだけの違いだろう。
ちなみに私の前世も側室がいるのは普通だった。
女は子供を作るのが仕事、というのが普通の時代。
私はカルタを引っぱたいた後はもう話せないと思った。
女が男に手を出すなんて有り得ない。
周りの人は皆そう言うから。
それ以上に気まずいというのもあったのだけど。
だけどカルタは身軽に私の元へ足を運んできた。
「ねえ、俺、君のこと好きみたい」
開口一番そう言った。
思わず目を細めたわ。
「それ何人に言ったの?軽々しくそういうこと言わないで。もう関わらないで」
私はそう言って彼を突き放した。
だってまだ好きだから。ていうか元々身分的にキツかったのよね。
だから仮にもし好きになってくれたのだとしても、諦めて貰う他なかった。
だけど彼は初めて怒った。
「俺は一緒にいたい人は自分で決める」
思わず泣いてしまった。
泣くつもりなんてなかったのに。
いつもふにゃふにゃと笑ってばかりいる彼が、初めて真剣な表情で言ってくれた。
そんな彼の言葉に甘えた私は、また彼と時を過ごすことが出来た。
でも、死に目には会えなかった。
知ってはいたけど。
最後に会った時彼は言った。「生まれ変わったら見つける」って。それが今の私を支えている全て。
でも彼は私に気づいてない。前世の記憶などないだろう。私だけが覚えている。私だけが知っている。
なんて寂しいことだろう。
想い出を語り合うことも出来ない。また会えたねと笑いあうことも出来ない。
私だけが昔の彼を重ねて現世を見れない。
一人にしないでよ。
不意に泣きたくなってしまう。
彼を「カルタ」でなく「彼方」として接したいのに。
ついつい昔と全く同じ態度で接してしまって、反応のちょっとした違いにガッカリしている自分がいる。
嫌だな。
こんな自分、嫌。
だから精一杯偽りの仮面を被って、私は私を演じる。
とは言うものの、彼を利用していることに変わりはない。罪悪感は拭えない。
だから、彼がもし私以外に好きな人が出来たなら、その時は──。
「麻井さん、行きたいところある?」
一瞬、呼吸を忘れた。
「··········君の行きたいところに行きたいな」
慌てて笑顔を向ける。
ああ、やっぱり。頭抱えて困ってる。
本当に可愛い。
行きたいところある?
あるよ。向日葵畑。ねえ、それ以前は私から言っていたんだよ。
どこかに行こうよ、と。
私たちの思い出の場所で、二人だけの秘密基地。
君はそんなこと覚えてないでしょう。知らないでしょう。
それでいいよ、やっぱり。
前世に囚われるのは、私だけでいいんだよ。
全てが嘘ではない、と思いたい。
ゆっくりと彼方君自身を見ることができるようになっていると、進歩していると、そう思いたい。
いつか、カルタのことはキレイさっぱり忘れられる日が来るのかな。
·····うん。わからない。
だから、彼方君。生まれ変わりを知らない君が、前世に囚われたまま現世を生きてる私を、夢中にさせて。
なんて、勝手なことは重々承知だけど。
「陽菜さんでいい?」
なんて、可愛いことを言う君を手放す気なんてもうサラサラない。
さて、どうしたものか。
私は彼を誰かに譲ることは出来そうにないかもしれない。
それが果たして、彼方君に対して思っているのか、カルタを失いたくないのか。
二股掛けてるみたいだな。
でも、そうだな。
少なくとも、初めて会った日よりは好きになっているかな。
いつか、彼方君に「好きだよ」と言いたい。
初めて告白した時のような濁りが、一切無い言葉を彼に言ってみたい。
そう決意して、私は席を立った。
うん。大丈夫。
楽しみという言葉に、嘘は無かったようだ。
不思議と足が軽くなった感じになる。
何より、変化を喜べることが嬉しかった。
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