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馴れ初め〈彼方語り〉
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「ねぇ、付き合って」
美人な女性は形の良い唇を動かした。
一瞬頭が真っ白になる。いや、一瞬じゃない。多分一分くらいはボケっとした間抜けな表情で彼女をまじまじと見ていたのではないだろうか。
可愛らしい顔立ちの彼女は、俺の行きつけのカフェの常連客だ。ちなみに、行きつけになったのは彼女が通っているのを知ったからという訳では無い。その理由も無くはないが、そのカフェは人がそこまで多くない上にケーキセットが他のカフェより少し安いのだ。
理由としては、経営しているのが老人夫婦で利益を求めていないから、そして相場がよく分からなかったが受け継いだ店だから経営出来ればいいや、ということらしい。
なんともいい加減な経営者である。
貯蓄が沢山あり、老後の生活をただ楽しむことのできる夫婦だから成し得る芸当である。
話がズレてしまった。俺の名前は市野塚彼方。ほんの先週高校生になった、いわゆるDKである。家族構成は妹一人に姉一人、父と母。それからもう百·····何年生きているかわからないひいばぁちゃんとで暮らしている。父親はIT起業の職員、母親は料理教室の先生兼小説家である。食を題とした小説なのだが人気らしい。
要は、別段特別な家というわけではないのだ。ましてひときわ素晴らしい容姿をもちあわせたわけでもない。
そんな奴が、カフェ美人(カフェで優雅に過ごしている美人を勝手に呼んでいる)と有名な彼女から告白されたのだ。驚かない奴など居まい。
知り合って話すようになったきっかけは、以前カフェに通う彼女と相席になったことがあったことだろう。(そしてそれがなければ高嶺の花の存在の扱いで終わるか、ストーカー化していたかもしれない。)
珍しく席がいっぱいだった時、彼女から声をかけてくれたのだ。「良かったら相席どうですか」と。
あの笑顔、あの美声、忘れるわけがない。
その日のうちに死ぬのではと何回も思った。
そしてその次の日も相席するようになった。なぜか?満席だったからだ。
彼女は見た目よりずっと大人だった。てっきり女子大生くらいかと思っていたのだが、二十五歳のバリバリの社会人だった。
そこで少し落ち込んだ。当時中学生だった俺などが相手にされるわけがないと知っていたからだ。
だが、逆にそれを利用することにした。
中学生という名目を使い、勉強を教えてもらったり雑談したりと相席するのを習慣化することに成功した。
彼女は彼氏はいないと言っていたし、話すくらい別にいいだろうと開き直った。
良い雰囲気というより、姉弟のような雰囲気だったと思う。
でもそれで良かった。
ただ一緒に居たかっただけだから。
中学を卒業し、早生まれな俺は行先のカフェのオーナーにバイトとして雇ってもらえないかと頼み、晴れて従業員となった。
制服を彼女に見せると、「かっこいいね」と笑顔で言ってくれた。サラリと誉めるから照れる。
仕事にも慣れ、初任給を出されたので彼女をデートに誘った。いや、デートとは言ってない。「いつも話とか聞いてくれたから、お礼がしたい」と言ったのだ。
知ってる。自分がどれほどチキンなのかよく知ってる。
だけど誘えたことを褒めて欲しい。自分としては頑張ったのだ。
デート(?)を終えて、彼女から今日のお礼にとレストランに誘われた。なんとも言えない気持ちになった。お礼にお礼を返されてしまうという··········。
「うーん·····お礼っていうのは建前で、ただ君ともう少し居たいだけなんだけど、ダメ?」
その聞き方はずるい。
俺は無言で頷いた。
レストランはパスタとピザが有名な所らしかった。
どちらも好物だ。
席につき、俺はマルゲリータ、彼女はペペロンチーノを頼んだ。
料理が運ばれてくると、彼女はくるくるとパスタを巻き、ずいと差し出してきた。
「美味しいんだよ、ここのパスタ。一口どうぞ」
え、ちょ。美味しそうなのは見てわかるけど、タイム。
「あーん」じゃん!これ!
戸惑っていると、彼女は微笑を浮かべて「どうぞ」と勧めてくる。
好意を無下にできない。カップルぽい。という理由でパスタを食べる。美味い。
もぐもぐと咀嚼していると、彼女は嬉しそうにニコニコしている。あーーその顔大好き。
食べ終わってデザートをつついていると、彼女から冒頭の言葉を投げかけられたのだ。
思わずフォークを落としそうになったわ。
「やだ?」
悲しそうな表情を向けてくる。
「やじゃないっ」
思わず口走った。
もうちょっとスマートに答えたかった。
「お、俺·····まだ高校生なったばかりだけど、いいの?」
不安に思っていたことを直球で彼女に言った。
「好きになるのに年齢は関係ないよ」
サラッと好きって言ってくれたァァ!
頬に熱が集中する。
「君を絶対幸せにするね」
サラッと言われたァァァ!
それ、俺が言うセリフなのでは!?ていうか言いたかったんだけど!?
四月四日、そうしてチキンな俺に年上美人の彼女が出来た。
美人な女性は形の良い唇を動かした。
一瞬頭が真っ白になる。いや、一瞬じゃない。多分一分くらいはボケっとした間抜けな表情で彼女をまじまじと見ていたのではないだろうか。
可愛らしい顔立ちの彼女は、俺の行きつけのカフェの常連客だ。ちなみに、行きつけになったのは彼女が通っているのを知ったからという訳では無い。その理由も無くはないが、そのカフェは人がそこまで多くない上にケーキセットが他のカフェより少し安いのだ。
理由としては、経営しているのが老人夫婦で利益を求めていないから、そして相場がよく分からなかったが受け継いだ店だから経営出来ればいいや、ということらしい。
なんともいい加減な経営者である。
貯蓄が沢山あり、老後の生活をただ楽しむことのできる夫婦だから成し得る芸当である。
話がズレてしまった。俺の名前は市野塚彼方。ほんの先週高校生になった、いわゆるDKである。家族構成は妹一人に姉一人、父と母。それからもう百·····何年生きているかわからないひいばぁちゃんとで暮らしている。父親はIT起業の職員、母親は料理教室の先生兼小説家である。食を題とした小説なのだが人気らしい。
要は、別段特別な家というわけではないのだ。ましてひときわ素晴らしい容姿をもちあわせたわけでもない。
そんな奴が、カフェ美人(カフェで優雅に過ごしている美人を勝手に呼んでいる)と有名な彼女から告白されたのだ。驚かない奴など居まい。
知り合って話すようになったきっかけは、以前カフェに通う彼女と相席になったことがあったことだろう。(そしてそれがなければ高嶺の花の存在の扱いで終わるか、ストーカー化していたかもしれない。)
珍しく席がいっぱいだった時、彼女から声をかけてくれたのだ。「良かったら相席どうですか」と。
あの笑顔、あの美声、忘れるわけがない。
その日のうちに死ぬのではと何回も思った。
そしてその次の日も相席するようになった。なぜか?満席だったからだ。
彼女は見た目よりずっと大人だった。てっきり女子大生くらいかと思っていたのだが、二十五歳のバリバリの社会人だった。
そこで少し落ち込んだ。当時中学生だった俺などが相手にされるわけがないと知っていたからだ。
だが、逆にそれを利用することにした。
中学生という名目を使い、勉強を教えてもらったり雑談したりと相席するのを習慣化することに成功した。
彼女は彼氏はいないと言っていたし、話すくらい別にいいだろうと開き直った。
良い雰囲気というより、姉弟のような雰囲気だったと思う。
でもそれで良かった。
ただ一緒に居たかっただけだから。
中学を卒業し、早生まれな俺は行先のカフェのオーナーにバイトとして雇ってもらえないかと頼み、晴れて従業員となった。
制服を彼女に見せると、「かっこいいね」と笑顔で言ってくれた。サラリと誉めるから照れる。
仕事にも慣れ、初任給を出されたので彼女をデートに誘った。いや、デートとは言ってない。「いつも話とか聞いてくれたから、お礼がしたい」と言ったのだ。
知ってる。自分がどれほどチキンなのかよく知ってる。
だけど誘えたことを褒めて欲しい。自分としては頑張ったのだ。
デート(?)を終えて、彼女から今日のお礼にとレストランに誘われた。なんとも言えない気持ちになった。お礼にお礼を返されてしまうという··········。
「うーん·····お礼っていうのは建前で、ただ君ともう少し居たいだけなんだけど、ダメ?」
その聞き方はずるい。
俺は無言で頷いた。
レストランはパスタとピザが有名な所らしかった。
どちらも好物だ。
席につき、俺はマルゲリータ、彼女はペペロンチーノを頼んだ。
料理が運ばれてくると、彼女はくるくるとパスタを巻き、ずいと差し出してきた。
「美味しいんだよ、ここのパスタ。一口どうぞ」
え、ちょ。美味しそうなのは見てわかるけど、タイム。
「あーん」じゃん!これ!
戸惑っていると、彼女は微笑を浮かべて「どうぞ」と勧めてくる。
好意を無下にできない。カップルぽい。という理由でパスタを食べる。美味い。
もぐもぐと咀嚼していると、彼女は嬉しそうにニコニコしている。あーーその顔大好き。
食べ終わってデザートをつついていると、彼女から冒頭の言葉を投げかけられたのだ。
思わずフォークを落としそうになったわ。
「やだ?」
悲しそうな表情を向けてくる。
「やじゃないっ」
思わず口走った。
もうちょっとスマートに答えたかった。
「お、俺·····まだ高校生なったばかりだけど、いいの?」
不安に思っていたことを直球で彼女に言った。
「好きになるのに年齢は関係ないよ」
サラッと好きって言ってくれたァァ!
頬に熱が集中する。
「君を絶対幸せにするね」
サラッと言われたァァァ!
それ、俺が言うセリフなのでは!?ていうか言いたかったんだけど!?
四月四日、そうしてチキンな俺に年上美人の彼女が出来た。
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