甘瀬の声は夏を呼ぶ

木風 麦

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 クラスメイトという言葉でしか、甘瀬夏呼を言い表せない。そんな関係だった。
 小麦色に染められた髪がよく似合う、クラスの人気者。それが甘瀬夏呼だ。人当たりもよく成績は上の方。誰も彼女を嫌わない、完璧に近い人間だった。
 それを突きつけられる度に、おれはよく美人薄命という言葉を思い出しては薄ら笑っていたのだが、あるときを境にそれを笑えなくなった。

 体育祭の練習が始まる六月頃。
 おれが通う学校の体育祭はなぜか夏休み直前にある。学期末テストを終えたその次の週にはテストが返され、その直後に体育祭という慌ただしい期間が待っている。この悪習慣はやめた方が生徒と教師のためだと思うのだが、なぜか一向に改善される気配はない。
 さて、その六月頃。おれは練習しなくてもいい個人種目にエントリーしたため、他の生徒より比較的
放課後練習をしなくていいという位置にいた。
 さて帰ろう、としたとき、窓の外で応援団が声出しをしている姿が見えた。案の定、団長は甘瀬がやるらしい。楽しそうに笑う団員たちを見ると、バカバカしいと思うと同時に、あそこまで楽しめるのが羨ましいとも思う。
 じっと見すぎたのか、なぜか甘瀬と目が合った。
 おれがいたのは二階の教室だ。回避できずにまとともに甘瀬をじっと見てしまった。

──あれ、顔青い……?

 半袖から覗く白い腕のように、彼女の顔の肌も白い。だがどこか青白いというか、健康には見えなかった。
 多少気にはなったが、無視をすることにした。

「……いや、あの……大丈夫じゃなさそうだけど、熱中症?」

 下駄箱の方まで降りると、例の彼女が壁に寄りかかるようにして座っていた。明らかにさっきより悪化している。
 放置することはできず、声をかけた。
「おー、君か。さっき目ェあったよね?やっぱり具合悪いの気づかれてたんだ……じゃあ、ちょっと保健室まで運んでくれる?」

 こんなときでも、彼女は笑顔だった。
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