146 / 149
story .06 *** 落ちゆく夢と渇きし未詳の地
scene .1 古の転送陣
しおりを挟む
「エルラは皆の寿命が見えちゃうんだなぁ」
「そうなの! わたしは何歳で結婚する?」
そんな気の抜けた会話をしながら、一行は洞窟の中を進んでいた。
作りを見る限りかなり古く、使われなくなって数十年は経っているのか内部はかなり痛みが進んでいた。だが、そこはさすが魔術大国。木材や紐などの朽ちゆく自然物は魔術によって補填されるよう設計されており、更にはヒトに反応して洞窟内の気温と湿度が快適に保たれるように魔術がかけられていた。お陰で今現在も安心して歩を進めることができているという訳だ。
「それは分からないんじゃ」
「そうですね、わかりかねます」
「あっそっ、そうよね! 寿命とは関係ないものね」
期待の眼差しから一転して赤面したロロに、エルラは朗らかに笑う。
ロルフに対しては何かと棘のある対応をするエルラであるが、他の者とのやり取りをを見ている限りおっとりとして人当たりの良い性格の様に見える。昨日の件を考えるに、シャルロッテを獣人化したのがロルフであることに何か懸念点があるのだろう。だが、そのことを他の者に話そうとしない事を考えると、公言出来ることでもないと考えられる。
「まぁ、そうだよな」そんな風に思いながら、ロルフは腕の中で眠るシャルロッテを見る。元々シャルロッテはただの動物だった、そんな言葉を誰が信じるのだろうか。
「んーと……エルラのスリーサイズの話、する?」
「ら、ランテ!」
と、洞窟に入ってからここまでずっと会話を仕切っていたランテの話題のネタがついに切れたらしい。エルラの自慢話、という名の話題が。
「冗談だって!」そう言うランテに、少し頬を染めたしなめるような対応をした後、エルラがんんっと小さく咳払いをした。
「そろそろ着きますよ」
するとその言葉の通り、前方に鉄格子で出来た扉が見えてきた。扉の先は部屋のようになっているらしい。壁際には使われなくなった道具が入っているのであろう木箱などが置かれており、その上に乱雑に布が掛けられているのが見える。中央には――
「これは古く昔、商業、観光用に使われていた独用陣です。荷物の搬入や旅行など、当国に入国を許可された者が一人ずつ自らの血を以ってこの陣を使い我が国へ入国したと聞きます」
エルラが本来ドアノブがついているであろう位置を指でトントンと触れると、扉はキィイという甲高い音を響かせ少しずつ開く。錠やドアノブが付いているようには見えないが、恐らくエルラ自身が鍵の役割を果たしているのだろう。当時も当主とその一族が入国を厳しく取り締まっていたことが伺い知れる。
「動物や、許可陣を身につけたモンスターは一人としませんが、獣人は一度につき一人まで。この部屋へ入る事が許される上限です」「おっと!」
エルラが部屋に足を踏み入れた後、続いて部屋に入ろうとしたランテが何かにそれを阻まれた。パントマイムで壁を演じているような動きで、扉があった場所を手で触ったり叩いたりしている。
「恐らくあちら側にも同じような仕組みがあるでしょう。ランテ」
「おっけーエルラ」
見えぬ壁に置かれたランテの手を取るようにエルラが部屋から出てくると、ランテはポケットから細く短い棒のようなものを取り出した。そしてそれをロルフ達の方へびしっと突き出す。
「うちが一番最初に向こうに行くからね。それでこのエルラの分身! を使ってあっちの扉を開けて待ってるから」
「あ、作り方は機密事項だから教えないよ?」誰が盗ろうとしている訳ではないが、棒をさっと隠すような仕草をしながら笑うランテに、エルラが微笑んだ。ロルフ達がいることをわかっているからこそのこの掛け合いなのだろうが、どこか二人だけの時間が流れているようなそんな錯覚を覚える。
上手くいったと言わんばかりに二人は数秒の間にっこりと見つめ合うと、エルラが再び口を開いた。
「目的の大陸への行き方ですが、先ほど言った通り血液が必要となります」
そう言ってエルラがスッと手を動かすと、先の戦闘で使用していたと思われるのと同じ大きな鎌が現れた。そしてその刃の先を自らの首後ろへとあてがうと、ロルフ達が驚く隙すらない程の流れるような動きで刃を動かした。
次の瞬間。コロン、と床へ転がり落ちたのは、もちろんエルラの首ではなく深紅色をした小さな結晶だった。
「皆さまには今からこの血晶を生成して頂きます」
今起きたことを理解できずにいるロルフ達を余所に、エルラは血晶と呼んだその深紅色の結晶を拾い上げると、一行に見えるように持ち上げそう言った。
「く、くびは! どうなってるのよ!」
ロロの叫びが洞窟内にこだまする。
「うちも最初はぎょっとしちゃったんだけどね」
先程“エルラの分身”を取り出したのとは逆側のポケットから血晶と思われる物を取り出しそう言うのはランテだ。
「エルラの鎌は、魂の鎌と書いてムスヒガマ、って言って、本来魂を刈りとる為の物だから実体を切ることは基本的には出来ないんだって。今見てて分かったと思うけど、髪の毛すら切れないから安心してよ!」
「そうなの! わたしは何歳で結婚する?」
そんな気の抜けた会話をしながら、一行は洞窟の中を進んでいた。
作りを見る限りかなり古く、使われなくなって数十年は経っているのか内部はかなり痛みが進んでいた。だが、そこはさすが魔術大国。木材や紐などの朽ちゆく自然物は魔術によって補填されるよう設計されており、更にはヒトに反応して洞窟内の気温と湿度が快適に保たれるように魔術がかけられていた。お陰で今現在も安心して歩を進めることができているという訳だ。
「それは分からないんじゃ」
「そうですね、わかりかねます」
「あっそっ、そうよね! 寿命とは関係ないものね」
期待の眼差しから一転して赤面したロロに、エルラは朗らかに笑う。
ロルフに対しては何かと棘のある対応をするエルラであるが、他の者とのやり取りをを見ている限りおっとりとして人当たりの良い性格の様に見える。昨日の件を考えるに、シャルロッテを獣人化したのがロルフであることに何か懸念点があるのだろう。だが、そのことを他の者に話そうとしない事を考えると、公言出来ることでもないと考えられる。
「まぁ、そうだよな」そんな風に思いながら、ロルフは腕の中で眠るシャルロッテを見る。元々シャルロッテはただの動物だった、そんな言葉を誰が信じるのだろうか。
「んーと……エルラのスリーサイズの話、する?」
「ら、ランテ!」
と、洞窟に入ってからここまでずっと会話を仕切っていたランテの話題のネタがついに切れたらしい。エルラの自慢話、という名の話題が。
「冗談だって!」そう言うランテに、少し頬を染めたしなめるような対応をした後、エルラがんんっと小さく咳払いをした。
「そろそろ着きますよ」
するとその言葉の通り、前方に鉄格子で出来た扉が見えてきた。扉の先は部屋のようになっているらしい。壁際には使われなくなった道具が入っているのであろう木箱などが置かれており、その上に乱雑に布が掛けられているのが見える。中央には――
「これは古く昔、商業、観光用に使われていた独用陣です。荷物の搬入や旅行など、当国に入国を許可された者が一人ずつ自らの血を以ってこの陣を使い我が国へ入国したと聞きます」
エルラが本来ドアノブがついているであろう位置を指でトントンと触れると、扉はキィイという甲高い音を響かせ少しずつ開く。錠やドアノブが付いているようには見えないが、恐らくエルラ自身が鍵の役割を果たしているのだろう。当時も当主とその一族が入国を厳しく取り締まっていたことが伺い知れる。
「動物や、許可陣を身につけたモンスターは一人としませんが、獣人は一度につき一人まで。この部屋へ入る事が許される上限です」「おっと!」
エルラが部屋に足を踏み入れた後、続いて部屋に入ろうとしたランテが何かにそれを阻まれた。パントマイムで壁を演じているような動きで、扉があった場所を手で触ったり叩いたりしている。
「恐らくあちら側にも同じような仕組みがあるでしょう。ランテ」
「おっけーエルラ」
見えぬ壁に置かれたランテの手を取るようにエルラが部屋から出てくると、ランテはポケットから細く短い棒のようなものを取り出した。そしてそれをロルフ達の方へびしっと突き出す。
「うちが一番最初に向こうに行くからね。それでこのエルラの分身! を使ってあっちの扉を開けて待ってるから」
「あ、作り方は機密事項だから教えないよ?」誰が盗ろうとしている訳ではないが、棒をさっと隠すような仕草をしながら笑うランテに、エルラが微笑んだ。ロルフ達がいることをわかっているからこそのこの掛け合いなのだろうが、どこか二人だけの時間が流れているようなそんな錯覚を覚える。
上手くいったと言わんばかりに二人は数秒の間にっこりと見つめ合うと、エルラが再び口を開いた。
「目的の大陸への行き方ですが、先ほど言った通り血液が必要となります」
そう言ってエルラがスッと手を動かすと、先の戦闘で使用していたと思われるのと同じ大きな鎌が現れた。そしてその刃の先を自らの首後ろへとあてがうと、ロルフ達が驚く隙すらない程の流れるような動きで刃を動かした。
次の瞬間。コロン、と床へ転がり落ちたのは、もちろんエルラの首ではなく深紅色をした小さな結晶だった。
「皆さまには今からこの血晶を生成して頂きます」
今起きたことを理解できずにいるロルフ達を余所に、エルラは血晶と呼んだその深紅色の結晶を拾い上げると、一行に見えるように持ち上げそう言った。
「く、くびは! どうなってるのよ!」
ロロの叫びが洞窟内にこだまする。
「うちも最初はぎょっとしちゃったんだけどね」
先程“エルラの分身”を取り出したのとは逆側のポケットから血晶と思われる物を取り出しそう言うのはランテだ。
「エルラの鎌は、魂の鎌と書いてムスヒガマ、って言って、本来魂を刈りとる為の物だから実体を切ることは基本的には出来ないんだって。今見てて分かったと思うけど、髪の毛すら切れないから安心してよ!」
0
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説
異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~
モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎
飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。
保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。
そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。
召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。
強制的に放り込まれた異世界。
知らない土地、知らない人、知らない世界。
不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。
そんなほのぼのとした物語。
異世界でのんびり暮らしてみることにしました
松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
ちっちゃくなった俺の異世界攻略
鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた!
精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!
転生無双なんて大層なこと、できるわけないでしょう!〜公爵令息が家族、友達、精霊と送る仲良しスローライフ〜
西園寺若葉
ファンタジー
転生したラインハルトはその際に超説明が適当な女神から、訳も分からず、チートスキルをもらう。
どこに転生するか、どんなスキルを貰ったのか、どんな身分に転生したのか全てを分からず転生したラインハルトが平和な?日常生活を送る話。
- カクヨム様にて、週間総合ランキングにランクインしました!
- アルファポリス様にて、人気ランキング、HOTランキングにランクインしました!
- この話はフィクションです。
エラーから始まる異世界生活
KeyBow
ファンタジー
45歳リーマンの志郎は本来異世界転移されないはずだったが、何が原因か高校生の異世界勇者召喚に巻き込まれる。
本来の人数より1名増の影響か転移処理でエラーが発生する。
高校生は正常?に転移されたようだが、志郎はエラー召喚されてしまった。
冤罪で多くの魔物うようよするような所に放逐がされ、死にそうになりながら一人の少女と出会う。
その後冒険者として生きて行かざるを得ず奴隷を買い成り上がっていく物語。
某刑事のように”あの女(王女)絶対いずれしょんべんぶっ掛けてやる”事を当面の目標の一つとして。
実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。
勇者として活躍するのかしないのか?
能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。
多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。
初めての作品にお付き合い下さい。
飯屋の娘は魔法を使いたくない?
秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。
魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。
それを見ていた貴族の青年が…。
異世界転生の話です。
のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。
※ 表紙は星影さんの作品です。
※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。
異世界で買った奴隷が強すぎるので説明求む!
夜間救急事務受付
ファンタジー
仕事中、気がつくと知らない世界にいた 佐藤 惣一郎(サトウ ソウイチロウ)
安く買った、視力の悪い奴隷の少女に、瓶の底の様な分厚いメガネを与えると
めちゃめちゃ強かった!
気軽に読めるので、暇つぶしに是非!
涙あり、笑いあり
シリアスなおとぼけ冒険譚!
異世界ラブ冒険ファンタジー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる