黒狼さんと白猫ちゃん

翔李のあ

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story .05 *** 秘められし魔術村と死神一族

scene .32 雪中の脅威

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 それから。食事を終えたロルフ達はランテと一度話した後、準備があるというランテを待つため屋敷に戻ったのだが……

「弱ったな……」

 そこで待ち構えていたのは当主の命を受けたメイドたちだった。メイドたちは、一行の荷物を何一つ欠けることなく差し出すと、そのまま国の正門へと案内した。ランテと落ち合う約束をしているため待たせてくれないか、と掛け合ったロルフであったが、早急に国から追い出すよう指示でもされているのか、聞く耳など一切持たない様子でそのまま閉め出されてしまったのだ。

「もう、一体何だって言うのよ……」
「ランテさんの準備ってどれくらいかかるんでしょうか」

 それぞれそんなことを口にしながら、寒さに体を縮こませるロロとクロンに、ロルフは寒さの耐性を高めるアクセサリを渡す。
 山に生身で出るのならと、ルウィが用意してくれた品の一つだ。これ以外にも、山を歩くのに便利そうなアイテムがいくつかと、数日分の食料なんかもある。
 ランテの元から帰ってからとも考えていたロルフに対し、ルウィは早いに越したことはない、そう言って予め渡してくれていたのだった。受け取っておいてよかった……ロルフは心の底からそう思う。どうにかもう一度転送陣を使えないか掛け合ってくれる、とは言っていたものの、ルウィはこうなる事を予見していたのかもしれない。

「このアクセサリ壊れてるのかしら、ちっとも効かないじゃない!」

 そんな文句を垂れるのはもちろんヴィオレッタである。昨日は運動をしていたこともあり、それ程寒さを気にしている様子はなかったのだが、一度気になってしまうとダメらしい。この場にいる誰もが服装のせいでは、と思っているのは間違いない。
 そんなヴィオレッタをいなしつつ、ロルフはもう一人の仲間を探し辺りを見渡した。

「……? シャルはどうした……!」

 一面の銀世界。白い衣装を着た白猫のシャルロッテ。とはいえ、これほど見当たらないなどということが有り得るだろうか。
 ロルフの声に全員がシャルロッテの姿を探し始める中、ロルフは雪の踏み固められた城門周りから外れて程遠くない場所に、足跡らしき跡を見つけた。

「シャル!」
「待ちなさい!」

 二十数歩だろうか、見つけた足跡の先で雪に沈み込むようにして倒れる人影を見つけたロルフが駆け寄ろうとする。――が、それをヴィオレッタが制止した。

「しっかり見なさい、アナタらしくもないわ」

 怪訝な表情をするロルフに、ヴィオレッタは呆れたようにそう言った。すぐにでも駆け付けたい気持ちを抑え、ロルフは倒れるシャルロッテの付近の雪を観察する。
 日のあたった雪は所々光を反射してキラキラと輝いている……が、その輝きがどうにもおかしかった。至る所に尖った氷の塊のようなものが混ざっている。その上、シャルロッテの位置もおかしい。最後の足跡から体一つ分程、引きずられたように雪がえぐられており、シャルロッテの頭の上にもいくらか雪が積もっているようだった。

「悪い、俺が早計だった」

 ロルフはそう言って一歩下がる。

「このまま進んでも袋のネズミだわ」
「あぁ」

 ヴィオレッタの言葉にロルフは相槌を打つと、いつか読んだ雪山に住まうモンスターの一覧を思い出す。
 状況から察するに、この氷の塊らしき物体の正体は恐らくアイスフィッシュだろう。
 アイスフィッシュは名前の通り氷でできた魚のような形の体を持つ。雪の中に生息し、縄張りに迷い込んできた動物などを体内で生成した睡眠ガスで眠らせ、巣に持ち帰って食べるという肉食のモンスターだ。雪深い場所に出掛けた者が戻らない、とあれば、大抵の場合がこのアイスフィッシュによる被害だとされている。
 この国は雪山の山頂、誰が考えても雪深い場所にあるため、アイスフィッシュが生息している事自体は納得がいくのだが……

「ま、あの女のせいでしょうね」

 なぜこんな場所に巣が、そう考えたロルフの思考を読むこともなくヴィオレッタがそう回答する。
 そう、アイスフィッシュが縄張りにしているという事は、定期的に餌が迷い込んでくる。そういう事を意味するのだ。年中門が閉ざされていて入国してくるものがいないはずの国の周りをアイスフィッシュが縄張りにしている。これは人為的なものを感じざるを得ないだろう。ただ今はそんなことよりも。

「ロブグラビティ。――ダメか」

 ロルフは思考をアイスフィッシュからシャルロッテ救出に戻し、その体に向けて重力減少の力を放つ。アイスフィッシュたちとシャルロッテの距離を確保すべくその体を浮かそうと思ったのだが……距離が遠すぎるらしい。
 とりあえずは能力が届く位置までは雪を溶かし進むしかないようだ。ロルフは炎系の魔術で辺りの雪を溶かし、アイスフィッシュを遠ざけながら少しずつ前に進みはじめる。が、

「――っ!」

 急な突風に体を煽られたかと思うと、先程まで晴天であったのが嘘のように空に分厚い雲が大量に発生し始めた。そして、瞬く間に降る雪と吹く風で視界が遮られる。数メートル先も良く見えない程だ。
 いくら山の気候が変わりやすいと言っても、急変し過ぎであるのは山に詳しくないロルフでもわかる。だが、どうしてこんな事になったのか、そんなことを考える間もなく溶かし作ったはずの足場に次々と雪が積もりだした。雪が積もる、という事はもちろんアイスフィッシュの行動範囲が広がるという事だ。その上、倒れ身動きの取れないシャルロッテはあっという間に雪に埋もれる。つまり、急がなくては探すのが困難になる、という事だ。
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