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story .05 *** 秘められし魔術村と死神一族
scene .29 雫草
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あれから。一人残されたロルフはしばらく呆然と立ち尽くしていたが、そうしていても何の意味もないため食事をしていた部屋へと戻ることにした。
食事部屋では、和気あいあいと食事が続けられていた――といっても、大分時間が経っており食事自体はほぼ済んでいたため、ロルフとエルラを待っていた、というのが正しいだろう――が、エルラの姿は見当たらなかった。
戻ってきたのがロルフ一人であったことと、その表情が複雑なものであったためか、他の面々は気を利かせて多くを聞かずにいてくれたことにロルフは感謝した。出会って間もない女性を、理由もわからず泣かせてしまうなど……いや、理由が分かっていない所が一番の問題かもしれない。そんなことを考えつつ、ロルフは目の前の会話に集中する。
「それでなんだけど」
そう言ってベッドに腰かけるランテが掌に乗せて見せたのは、雫のような形をした小指の爪ほどの大きさの種子のようなものだった。
この部屋は、就寝用にとメイドが案内してくれた大部屋である。ランテは今夜は家へ帰る予定だそうだが、モモを連れ戻すための作戦会議という事で今はこの部屋に留まって共に話をしている最中だ。
「なーに、これ?」
誰もが思った疑問を一番初めに口にしたのは、言わずもがなシャルロッテである。
「これは雫草って言ってね」
ランテは質問に答えるべく、ごそごそとポケットをまさぐりだした。
そして先程出したのと同じ種子と、その種子の半分程度の大きさの透明の球体が入った小さな入れ物を取り出す。双方の間には仕切りがあり、互いに触れ合うことができないようになっている。
「この雫草っていうのは変わっててね、種子が成長するには同じ株が作り出した球雫が必要なんだ」
ランテはそう言ってベッドから降りると、今いたベッドから一番遠いベッドに移動し球雫と呼んだ透明の球体をその枕の上に置く。
「それで……ちょっと見てて」
ランテはそう言ってロルフ達の元へ戻って来ると、手のひらに乗せた種子に思い切り息を吹きかけた。すると、種子はふわっと空中に浮かび、球雫の方向へゆっくりと飛んでいった。だが、息で吹くだけでは球雫まで届かず、当たり前の如く床上に落ちる。
一斉に首をかしげる一行の目線を感じたのか、ランテは「これからこれから!」そう言って落ちた雫草の種子を指さした。
ランテを信じて床に落ちた種子へ視線を戻すロルフ達であったが……種子は落ちた状態のまま一向に微動だにしない。
「あっれー? おかしいな……絨毯がふかふかすぎるのかな」
ランテがそう言って種子を拾いあげようとした時だった。
種子がカタカタとその身を震わせたかと思うと、少しずつ球雫のある方向へと動き出した。が、その動きは移動したかどうか目で確認出来るか怪しい程度だった。面白い性質ではあるが、その動きでは数センチ動くのに何時間もかかりそうだ。
一体、この種子とモモ救出とに何の関係があるのだろうか。まさかこの種子の動く速さで追いかけるなんてことは……そんなことを思うロルフの心を読んだかのようなタイミングで、ランテはチッチッチと指を振る。
「収納しておくために羽をとっぱらっちゃってるからこんな動きだったけど、実はこの子には結構立派な羽がついててね」
ランテは落ちた種子と枕元に置いた球雫を元の入れ物に仕舞うと、初めに出した種子を指で摘み見せた。
「その羽をちゃんと着けてあげると、飛ばさなくても対である球雫がある方向がわかるって訳」
そう言って種子を摘んだ手をクルクルと回転させるように動かす。
それを見ながら、ふぅん、と一度納得しかけたロロが疑問を口にした。
「でも、対の球雫をモモが持っていなきゃ意味ないんじゃ?」
思っていた程の反応を得られず一瞬もの悲しげな表情をしたランテだったが、直ぐに気を取り直したのか、パチンと指を鳴らしてロロの方へ体を向ける。
「そう! でもそれなら大丈夫。モモっちじゃないけど、昔逃げられた時にと思って予めアイツの手下の一人に飲み込ませてあるからね」
ランテは、たまに見せる皮肉たっぷりのしたり顔をすると、スッといつも通りの表情に戻り摘まんだ種子をしまい込んだ。
何をどうしたら小さいとはいえそれなりの大きさがある球雫を飲み込ませることが出来るのか、そんな疑問が新たに生まれるが、そこは触れない方が良いだろう。知らず知らずのうちにランテの心の闇を幾度となく目撃している一行は今までの闇と共に今の表情も忘れることにした。
奴らがどこへ消えたのかわからない今、モモの居場所を知るためには、ランテの仕掛けたこの雫草に頼るしかない。
「と、いう訳でまぁ、もったいぶった訳だけど」
ランテはどさりとベッドに腰かけると「実はまぁ、大体予想はついてるんだよね」そう呟くように言った。
「皆はさ、聞いたことある? ここ十年位、人身売買が横行しているって話」
食事部屋では、和気あいあいと食事が続けられていた――といっても、大分時間が経っており食事自体はほぼ済んでいたため、ロルフとエルラを待っていた、というのが正しいだろう――が、エルラの姿は見当たらなかった。
戻ってきたのがロルフ一人であったことと、その表情が複雑なものであったためか、他の面々は気を利かせて多くを聞かずにいてくれたことにロルフは感謝した。出会って間もない女性を、理由もわからず泣かせてしまうなど……いや、理由が分かっていない所が一番の問題かもしれない。そんなことを考えつつ、ロルフは目の前の会話に集中する。
「それでなんだけど」
そう言ってベッドに腰かけるランテが掌に乗せて見せたのは、雫のような形をした小指の爪ほどの大きさの種子のようなものだった。
この部屋は、就寝用にとメイドが案内してくれた大部屋である。ランテは今夜は家へ帰る予定だそうだが、モモを連れ戻すための作戦会議という事で今はこの部屋に留まって共に話をしている最中だ。
「なーに、これ?」
誰もが思った疑問を一番初めに口にしたのは、言わずもがなシャルロッテである。
「これは雫草って言ってね」
ランテは質問に答えるべく、ごそごそとポケットをまさぐりだした。
そして先程出したのと同じ種子と、その種子の半分程度の大きさの透明の球体が入った小さな入れ物を取り出す。双方の間には仕切りがあり、互いに触れ合うことができないようになっている。
「この雫草っていうのは変わっててね、種子が成長するには同じ株が作り出した球雫が必要なんだ」
ランテはそう言ってベッドから降りると、今いたベッドから一番遠いベッドに移動し球雫と呼んだ透明の球体をその枕の上に置く。
「それで……ちょっと見てて」
ランテはそう言ってロルフ達の元へ戻って来ると、手のひらに乗せた種子に思い切り息を吹きかけた。すると、種子はふわっと空中に浮かび、球雫の方向へゆっくりと飛んでいった。だが、息で吹くだけでは球雫まで届かず、当たり前の如く床上に落ちる。
一斉に首をかしげる一行の目線を感じたのか、ランテは「これからこれから!」そう言って落ちた雫草の種子を指さした。
ランテを信じて床に落ちた種子へ視線を戻すロルフ達であったが……種子は落ちた状態のまま一向に微動だにしない。
「あっれー? おかしいな……絨毯がふかふかすぎるのかな」
ランテがそう言って種子を拾いあげようとした時だった。
種子がカタカタとその身を震わせたかと思うと、少しずつ球雫のある方向へと動き出した。が、その動きは移動したかどうか目で確認出来るか怪しい程度だった。面白い性質ではあるが、その動きでは数センチ動くのに何時間もかかりそうだ。
一体、この種子とモモ救出とに何の関係があるのだろうか。まさかこの種子の動く速さで追いかけるなんてことは……そんなことを思うロルフの心を読んだかのようなタイミングで、ランテはチッチッチと指を振る。
「収納しておくために羽をとっぱらっちゃってるからこんな動きだったけど、実はこの子には結構立派な羽がついててね」
ランテは落ちた種子と枕元に置いた球雫を元の入れ物に仕舞うと、初めに出した種子を指で摘み見せた。
「その羽をちゃんと着けてあげると、飛ばさなくても対である球雫がある方向がわかるって訳」
そう言って種子を摘んだ手をクルクルと回転させるように動かす。
それを見ながら、ふぅん、と一度納得しかけたロロが疑問を口にした。
「でも、対の球雫をモモが持っていなきゃ意味ないんじゃ?」
思っていた程の反応を得られず一瞬もの悲しげな表情をしたランテだったが、直ぐに気を取り直したのか、パチンと指を鳴らしてロロの方へ体を向ける。
「そう! でもそれなら大丈夫。モモっちじゃないけど、昔逃げられた時にと思って予めアイツの手下の一人に飲み込ませてあるからね」
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「と、いう訳でまぁ、もったいぶった訳だけど」
ランテはどさりとベッドに腰かけると「実はまぁ、大体予想はついてるんだよね」そう呟くように言った。
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