黒狼さんと白猫ちゃん

翔李のあ

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story .05 *** 秘められし魔術村と死神一族

scene .22 謝罪

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「鍵のかかった部屋以外なら自由にしていいって、ほとんど鍵部屋じゃない!」

 ロロは体感で四半刻程経ったかどうか程度で探索から帰ってくるなり、そう怒りながらどさりとソファに腰かけた。そしてブツブツと言いながら、どこからか持ってきた本を広げる。
 この屋敷はロルフ達の住まう屋敷とは比べ物にならない程の広さのため全てを見学するにはもっと長い時間がかかる事を想定していたが、文句の内容を聞くにほとんどの部屋に立ち入ることができなかったのだろう。
 まぁ、突然やって来た余所者を自由に歩き回らせる訳もないか。そう思ったロルフは読書を始めたロロから視線を外す。そして、

「何かいいことでもあったのか?」

 嬉しそうに足をぱたつかせているシャルロッテにそう声をかけた。

「えへへ、いい匂いのたくさんのご飯が私を待ってるの!」

 よくぞ聞いてくれた! そう言いたげな表情をすると、なぜか得意気にシャルロッテはそう口にした。そう言えば二人が部屋に戻ってきた際、扉の開閉と共に料理のいい香りがしていたような気もする。
 だが何か……ロルフが疑念を抱きかけた時、「もうすぐ出来るんだって!」というシャルロッテの声と、部屋の扉をノックする音にその疑念を掻き消された。

「準備が出来ましたのでご案内いたします」

 失礼いたします。という言葉の後に部屋に入って来たメイドが、手本と寸分の狂いもないであろう礼をしながら丁寧に退室を促す。
 四人が部屋を出たことを確認すると、依然として表情の変わらぬそのメイドは今まで居た部屋よりも更に奥へと歩みを進め始めた。この辺りまで来ると、食欲をそそられる料理の香りが大分する。
 その後更に十ほどの扉を通り過ぎた後現れたのは、煌びやかに装飾されたひときわ目立つ扉であった。現在は開かれているその扉の奥には、物語などでしか見たことのないような長いテーブルと、その中央に並べられた数十種類の料理、そして手を横に広げても隣に座る者に届かないであろう幅で綺麗に整列された食器が置かれていた。
 もちろん部屋の内装も先程いた小部屋とは比べ物にならない程に煌びやかで、だが食事の邪魔にならぬよう洗練されている。こういったことに詳しくない者でも、品の良さを感じられるのはこの部屋をデザインしたものの腕の良さの賜物だろう。……いや、先程まで居た部屋もこの部屋と比較しなければ間違いなく広く豪華で上品なのだが。

「どうぞお席へ」

 あまりの壮観さに呆気にとられる一行を余所に、食事係だろうか、先程まで共にいたメイドとは少し違う装いのメイドたちが淡々と席へと案内する。

「なんだか緊張しちゃいますね」

 そう言って背筋を伸ばすクロンにつられてロルフも背筋を伸ばす。テーブルを挟んだ向かいに座るロロとシャルロッテも少し緊張している様子だ。
 前菜を運んでくるカラカラというワゴンの音を聞きながら、圧倒される程の量の料理の多さにロルフの頭には先程抱きかけた疑問が再度浮かぶ。この品数の料理をこの短時間で仕上げたというのだろうか。

「ふぅん、悪くないじゃない」

 ロルフが料理に気を取られている間に部屋に入って来たのは、薬をリオートロークの父親に届けたであろうヴィオレッタとランテであった。
 ヴィオレッタの表情を見る限り、薬が効いたのだろう。

「ランテ様も、どうぞこちらへ」

 ヴィオレッタが席に着いたのを見て入口へ引き返そうとするランテを、メイドはそう言って呼び止める。

「えと、いやぁウチは後でまた……」

 洞窟へ行く前は使用人たちに散々文句を言っていたが、いざ会話となると強気には出ないらしい。
 メイドの申し出を断ろうと両手を胸の前に広げるランテに、メイドは目線を下げ言葉を付け足した。

「ミスタールウィより話し合いの場として席を設けるよう、申し付けられております」
「あ、えーと……そう? じゃぁ……」

 ランテはきょろきょろとロルフ達の顔色を窺いつつ、そろりそろりと指示された椅子に座る。
 全員の前に料理が置かれると、それまでメイドたちが立てていた小さな物音も無くなり静寂が訪れた。恐らく食べ始めても良いのだろうが、場の緊張感のせいで誰も手を付けない。
 それにしびれを切らしたのか、ヴィオレッタはわざとらしくため息をつくと、

「ワタシは頂くわよ」

 そう言って料理を食べ始めた。それをきっかけに、各々自分の前の皿から手を付け始める。
 だが、ランテは料理に口をつけようとしなかった。何かを考えるような、思い悩むようなそんな表情をしたまま手を膝に置き目の前の皿を見つめている。
 それを見かねたロルフが声をかけようと名前を口にしたその瞬間、大きな音を立てランテの座っていた椅子が勢いよく後ろに倒れた。そしてそれと同時に、

「ごめんなさい!」

 ランテの声が部屋に反響した。
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