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story .05 *** 秘められし魔術村と死神一族
scene .19 緊張と沈黙
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幸い、そのすぐ横でクロンが顔を真っ赤にして俯いているのにも気づかれなかったようだ。
頭にハテナマークを浮かべるヴィオレッタに、ランテはグイっと前に乗り出すようにしてぎこちない笑顔を向けると自己紹介を始めた。
「やぁやぁ、ヴィオレッタさん! さっきは助けてくれてありがとね、ものっそい助かったよ。うちはランテ。で、あっちの立ってるのがエルラだよ」
そう言って視線を向けた先には、洗脳が解けていないエルラが相変わらずどこを見ているのかわからない状態で棒立ちしている。ランテはそんなエルラを見て一瞬唇を噛み締めるが、再びヴィオレッタに笑顔を向けた。
それがどうかしたのか? そう言いたげなヴィオレッタにランテは少し気まずそうにするが、会話を止めまいと口早に続ける。
「いやぁ! お仲間のロロちゃんはおしゃべりが大好きみたいだねぇ! でもこんなところで話しているのもなんだし、一旦家に来ない? ヴィオレッタさんの探してる薬屋って言うのはもしかしたらうちのことかもしれないよ! もしよかったら話を聞くし! 本当ならモンスター向けって聞いちゃ渡しがたいけど、なんせヴィオレッタさんは命の恩人ですからね! 彼等にも助けてもらった恩が……」
「なんですって?」
段々と早口に拍車のかかるランテを不審に思ったのか、ヴィオレッタは話を中断させた。
ランテはと言うと、怪訝そうにこちらを見てくるヴィオレッタに向けて、冷や汗を垂らしながらぎこちない笑顔を続けている。そして苦しそうにするロロから手を離すと、自分の後ろへ追いやった。
暫く無言の時間が続く。じっとランテの目を見つめるヴィオレッタに、周りの面々も落ち着きを失う寸前だ。今あのことを思い浮かべてしまったら確実にばれてしまうだろう。先程ヴィオレッタの能力を明かしてしまった方がよかっただろうか、ロルフの脳裏にはそんな考えすらよぎる。
「ど、どうしました?」
ヴィオレッタの無言の重圧に耐え切れず、ランテは思わずそう口にした。
相変わらずニコニコとしてはいるものの、震える言葉からは緊張感が伝わってくる。だが、そんな一行の緊張感とは裏腹に、ヴィオレッタは寂し気に溜息を一つ漏らした。
「そう……」
そして、何かを考えるように地面に視線を落とした。この反応を見るに、恐らくあの一件についてはバレていないだろうが、何が「そう」なのかは気になる所ではある。
何はともあれ一難去ったことに安堵するロルフ達を余所に、ヴィオレッタは自分に視線が集まっていることにやっと気付いたようだ。元々はヴィオレッタがここに来た経緯を話していたはずなので当たり前と言えば当たり前なのだが、何を思ったか珍しくたどたどしい様子で
「そ、それじゃぁそうしましょ」
そう言ってランテの腕をからめとると、ランテの小屋のある方向へと歩き出した。ちらちらとロルフの様子を気にしている所から察するに、ランテとの会話を打ち切ってまでその心を読んだことを怒られるとでも思ったのかもしれない。
「あ、あのちょっと、ヴィオレッタさん?」
「何かしら?」
きょとんとするヴィオレッタに、ランテは自分達の後ろをくいくいと指さした。
「あら」
ヴィオレッタが振り返ると、さぞ当たり前のようにリオートロークたちが後ろをついて来ていた。
そんな彼等にヴィオレッタは優しく微笑む。
「アナタ達はここにいて。お薬を貰ったらすぐに戻るから」
そう言って頭を撫でるヴィオレッタの言葉の意味をリオートローク達は理解したのか、名残惜しそうに後ろへ下がると元居た位置へと座りヴィオレッタの方を見つめた。この数時間でよくもここまで懐かれたものだ。
その間、ランテはというと国へ繋がる道にエルラを連れ一行を案内するべく先頭に立っていた。
「それじゃ、帰りますか」
そう言って歩き出したランテの後ろを、一行は見失わないようについて歩く。向かうべき国は見えており、一度は歩いて来た道。とは言え、四方八方が雪に埋もれているこの場所ではぐれたら無事に辿り着くことができない可能性もあるためだ。
途中、行きにも見た記憶のある凸凹な雪面を通り過ぎてからしばらくすると、見覚えのある小屋が現れた。出発したのはつい数時間前のはずだが、数日は経っているようなそんな感覚だ。
「さて、と」
重苦しい空気を少しでも掻き消そうとしてか、振り返るランテは笑みを浮かべた。そこに不安感や申し訳なさそうな雰囲気が見受けられるのは演技か真実か。ロルフ達が知る手立てはない。
「モンスター向けに調合した薬は今なくてね。悪いんだけど、ちょっと待ってもらってもいいかな」
「ええ」
ヴィオレッタ登場のお陰で危機感が薄まっていた一行だったが、帰りの道では誰一人として口を開かった。モモが誘拐されたという事実を再認識したからだろう。初めからそのつもりだったのか、たまたまそうなってしまったのかはわからない。だがいずれにしても、今目の前に居るランテの作戦に乗ってしまったがために起きてしまった惨劇であることは間違いない。
「それと、その前にエルラを一度屋敷に預けてこようと思う。こんな調子じゃ今は放っておけないし、少しでも安全な場所にいさせてあげたいんだ」
ロルフ達の疑いの視線を感じてか、ランテは笑顔を崩さないものの伏目がちに話を続ける。
「ついでにロルっちたちも、屋敷で休憩させてもらうといいよ。うちにいても暇だろうし……いいかな、ヴィオレッタさん?」
「ナルハヤでね」
ヴィオレッタの言葉に頷き「それじゃあ皆はこっちに」そう言って屋敷のある方へと歩き出そうとするランテに向かって、シャルロッテが叫んだ。
頭にハテナマークを浮かべるヴィオレッタに、ランテはグイっと前に乗り出すようにしてぎこちない笑顔を向けると自己紹介を始めた。
「やぁやぁ、ヴィオレッタさん! さっきは助けてくれてありがとね、ものっそい助かったよ。うちはランテ。で、あっちの立ってるのがエルラだよ」
そう言って視線を向けた先には、洗脳が解けていないエルラが相変わらずどこを見ているのかわからない状態で棒立ちしている。ランテはそんなエルラを見て一瞬唇を噛み締めるが、再びヴィオレッタに笑顔を向けた。
それがどうかしたのか? そう言いたげなヴィオレッタにランテは少し気まずそうにするが、会話を止めまいと口早に続ける。
「いやぁ! お仲間のロロちゃんはおしゃべりが大好きみたいだねぇ! でもこんなところで話しているのもなんだし、一旦家に来ない? ヴィオレッタさんの探してる薬屋って言うのはもしかしたらうちのことかもしれないよ! もしよかったら話を聞くし! 本当ならモンスター向けって聞いちゃ渡しがたいけど、なんせヴィオレッタさんは命の恩人ですからね! 彼等にも助けてもらった恩が……」
「なんですって?」
段々と早口に拍車のかかるランテを不審に思ったのか、ヴィオレッタは話を中断させた。
ランテはと言うと、怪訝そうにこちらを見てくるヴィオレッタに向けて、冷や汗を垂らしながらぎこちない笑顔を続けている。そして苦しそうにするロロから手を離すと、自分の後ろへ追いやった。
暫く無言の時間が続く。じっとランテの目を見つめるヴィオレッタに、周りの面々も落ち着きを失う寸前だ。今あのことを思い浮かべてしまったら確実にばれてしまうだろう。先程ヴィオレッタの能力を明かしてしまった方がよかっただろうか、ロルフの脳裏にはそんな考えすらよぎる。
「ど、どうしました?」
ヴィオレッタの無言の重圧に耐え切れず、ランテは思わずそう口にした。
相変わらずニコニコとしてはいるものの、震える言葉からは緊張感が伝わってくる。だが、そんな一行の緊張感とは裏腹に、ヴィオレッタは寂し気に溜息を一つ漏らした。
「そう……」
そして、何かを考えるように地面に視線を落とした。この反応を見るに、恐らくあの一件についてはバレていないだろうが、何が「そう」なのかは気になる所ではある。
何はともあれ一難去ったことに安堵するロルフ達を余所に、ヴィオレッタは自分に視線が集まっていることにやっと気付いたようだ。元々はヴィオレッタがここに来た経緯を話していたはずなので当たり前と言えば当たり前なのだが、何を思ったか珍しくたどたどしい様子で
「そ、それじゃぁそうしましょ」
そう言ってランテの腕をからめとると、ランテの小屋のある方向へと歩き出した。ちらちらとロルフの様子を気にしている所から察するに、ランテとの会話を打ち切ってまでその心を読んだことを怒られるとでも思ったのかもしれない。
「あ、あのちょっと、ヴィオレッタさん?」
「何かしら?」
きょとんとするヴィオレッタに、ランテは自分達の後ろをくいくいと指さした。
「あら」
ヴィオレッタが振り返ると、さぞ当たり前のようにリオートロークたちが後ろをついて来ていた。
そんな彼等にヴィオレッタは優しく微笑む。
「アナタ達はここにいて。お薬を貰ったらすぐに戻るから」
そう言って頭を撫でるヴィオレッタの言葉の意味をリオートローク達は理解したのか、名残惜しそうに後ろへ下がると元居た位置へと座りヴィオレッタの方を見つめた。この数時間でよくもここまで懐かれたものだ。
その間、ランテはというと国へ繋がる道にエルラを連れ一行を案内するべく先頭に立っていた。
「それじゃ、帰りますか」
そう言って歩き出したランテの後ろを、一行は見失わないようについて歩く。向かうべき国は見えており、一度は歩いて来た道。とは言え、四方八方が雪に埋もれているこの場所ではぐれたら無事に辿り着くことができない可能性もあるためだ。
途中、行きにも見た記憶のある凸凹な雪面を通り過ぎてからしばらくすると、見覚えのある小屋が現れた。出発したのはつい数時間前のはずだが、数日は経っているようなそんな感覚だ。
「さて、と」
重苦しい空気を少しでも掻き消そうとしてか、振り返るランテは笑みを浮かべた。そこに不安感や申し訳なさそうな雰囲気が見受けられるのは演技か真実か。ロルフ達が知る手立てはない。
「モンスター向けに調合した薬は今なくてね。悪いんだけど、ちょっと待ってもらってもいいかな」
「ええ」
ヴィオレッタ登場のお陰で危機感が薄まっていた一行だったが、帰りの道では誰一人として口を開かった。モモが誘拐されたという事実を再認識したからだろう。初めからそのつもりだったのか、たまたまそうなってしまったのかはわからない。だがいずれにしても、今目の前に居るランテの作戦に乗ってしまったがために起きてしまった惨劇であることは間違いない。
「それと、その前にエルラを一度屋敷に預けてこようと思う。こんな調子じゃ今は放っておけないし、少しでも安全な場所にいさせてあげたいんだ」
ロルフ達の疑いの視線を感じてか、ランテは笑顔を崩さないものの伏目がちに話を続ける。
「ついでにロルっちたちも、屋敷で休憩させてもらうといいよ。うちにいても暇だろうし……いいかな、ヴィオレッタさん?」
「ナルハヤでね」
ヴィオレッタの言葉に頷き「それじゃあ皆はこっちに」そう言って屋敷のある方へと歩き出そうとするランテに向かって、シャルロッテが叫んだ。
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