黒狼さんと白猫ちゃん

翔李のあ

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story .05 *** 秘められし魔術村と死神一族

scene .11 エルラ救出へ

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「確かにこの景色の中吹雪いていたら、どこが元々あった洞窟だかわからなくなっちゃいそうですね」
「んでしょー?」

 白銀世界の中、所々に見える暗い穴影を見てモモがそう言うと、ランテがその通り! と言いたげな動きでそう答える。

「一年を通して積もってるからね、雪。毎晩のように降るお陰で毎日ちょっとずつ様子も変わるし」

 そう言いながらランテは出てきた道から見て右手にある坂を下り始めた。
 目的地の洞窟は、ここから少し下った所にあるらしい。
 あれから程なくして、一行は少し開けた場所に出ていた。雪に囲まれていた細道から、何度か踏み固められて作られた階段を登り、現在はフラグメンタ・アストラーリアを見下ろせる程の高さにいる。こうしてみるとエルラ達一族の屋敷が建つ土地の広さがよくわかる。よくこんな山の上にこれ程の広さの国を建てたものだ。
 ちなみにランテはと言うと、直ぐに……とはいかないものの、数分もしないうちに何事もなかったかのように振る舞い始めたのでロルフ達はあまり触れないことにした。元々切り替えが早い方なのか、はたまたあまり気にしない質なのか、今の今まで気まずさと恥ずかしさに押しつぶされそうな表情をしていたのが嘘のような切り替え具合は、天晴とも言えようものだ。

「さ、いーい? ここからが敵陣だよ」

 景色を楽しむ間もなく、ランテはすぐ近くの洞窟の前で手を振って全員の注意を引いた。
 この辺りにある洞窟がどのような物であるのかは知らないが、その洞窟は少なくとも最近作られたもののようには見えない。

「作戦は覚えてるよね」

 トーンを落としてそう言うランテに、全員が頷く。
 一番出口に近い監視室担当がシャルロッテとクロン、中ほどにある監視室担当がロルフとロロ、残るエルラ奪還がモモとランテの担当だ。モモ以外の四人は、各担当の監視室で怪しい動きがあればランテから受け取った魔術水晶で他の二か所に報告、それに加えてもし問題が起きれば監視室をジャック……という作戦である。ただし、魔術と色持ち能力が使えないため、ロルフはウェネから預かっていた攻撃魔術入りの魔術瓶をいくつか全員に配布した。雪山を散策するならばと渡されたものだったが、こんなタイミングで役に立つとは。

「堂々としてれば大丈夫だから……多分」

 最後の多分という言葉に些かの不安を覚えながら足を踏み入れた洞窟の中は、外が晴れているためか少しジメジメとしていて空気が重い。そのまとわりつくような不快感のせいか、ロルフの脳に分担への懸念が流れ込む。
 ロルフとしては本当はモモと子供を組ませたかったのだが、ランテがどうしても、と言うのでこの組み分けとなったのだ。ろくに話を聞いていなかったシャルロッテと気の弱いクロンの組み合わせ。出来るだけ影響が少ないようにと一番警備も難度も緩いという監視室担当にはしたが、何かがあった時不安要素しかない。ただ、現時点で意図は分からないものの、あれほどまでモモを連れて行きたいというからには、何かしらの理由……つまり内部を知る彼女だからこその考えがあるのだろう。
 ロルフが何度自分に言い聞かせたかわからない言葉を頭の中で繰り返していると、洞窟に入って十数歩かそれ位中ほどに進んだところに不自然な窪みが等間隔に開いているのが目に入った。ランテの話していた檻の位置なのだろう。確かにこの暗さに加えて、地面の凹凸と一体化しているそれは、話を聞いていても意識していなければ見落としてしまいそうだ。

「敵陣だよとか言っておいてあれだけど、この道は大分長いからね」

 ランテはそう言うと、散歩でもするかのように檻の跡など気に留める事などなく慣れた足取りで通過していく。何度も訪れたというのは本当なのだろう。
 ロルフは小屋でランテが広げていた地図を思い出す。入口と書かれた箇所と、アリの巣のように枝分かれした数多くのフロア群を繋ぐ通路が点線で描かれていたのはそう言う理由か。

「ねぇね、壁からなんか出てる!」

 ランテの言葉に入り口で引き締められた気が緩んだのか、シャルロッテが少し先で壁から生える何かを指差し、そう口にした。と、その瞬間だった。
 辺り一面の壁や天井の壁が、シャルロッテの声を吸収するように発光し始めた。

「わぁ……」

 その様子に目を奪われる面々を余所に、ロルフは一人その正体に気付き口元に手を添え眉根を寄せた。

「なんというかその……嫌な空気の場所だな、さすが敵陣と言うか……」

 口にするつもりはなかったが、あまりの衝撃に口に出してしまったようだ。
 ロルフのその言葉に、シャルロッテが首を傾げる。

「そうかなぁ? きらきらしてて綺麗だよ?」

 ロルフは、一度見えてしまったその正体を再度確かめるように眼鏡の位置を直す。
 やはり先程見えたものは見間違いではないようだ。それは、壁一面にびっしりと生えたキノコであった。
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