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story .05 *** 秘められし魔術村と死神一族
scene .8 奪還作戦
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広げられた紙には、何やら手書きの地図らしきものが描かれており、数か所に青いバツ印がされている。
「さっき言ったこの鍵なんだけど、どうやら持ってるだけでその効果が発揮されるみたいでね。罠の作動もしなければ部屋の開錠までできちゃう優れものだったのよ。お陰でこれだけの地図が作れたって訳」
どうやらエルラを連れ去った人物は相当の愚か者だったらしい。ランテの行動力もかなりの凄まじさではあるが。
「で、ポイントは二つ。このバツ印の所はこの鍵がないと開けられない扉。で、もう一つが最重要」
ランテはそう言って地図上の一ヶ所を指さした。
その扉の前には青色以外に赤色と緑色のバツ印、そしてその先の部屋と思われる箇所にはハテナマークが描かれていた。
「ここがエルラの囚われてる場所。ただ、中には入れたことがないからこの扉の先がどうなってるのかはうちにもわからない」
「ランテの持ってるその石以外にもう二つ必要って訳ね」
一番乗り気になっているロロの言葉に、ランテが頷く。ロロよりも一歩下がって立っているクロンは心配を絵に描いたような表情を浮かべているが、そんなことはお構いなしのようだ。
ちなみに、ベッドからではランテが広げた地図を見ることができないため、その辺りからロロとクロンはテーブルの横に立って話を聞いていたりする。
「そういうこと。呑み込みが早いね、ロロたんは」
二ッと笑うランテに、ロロも得意気に笑い返す。当たり前だわ、そう言っているのが聞こえて来るようだ。
「それで、その二つの石ってのが……」
ランテはそう言いながら二か所に星印を書き加えた。
「こことここ。それぞれ監視室にいる見張りが持ってるのを確認済み。他の奴らに指示出ししてたから、ちょっと偉い奴なんだろうね。でも、誰も来れるはずないと思ってるのか、どっちもよく怠けてるから簡単に盗み取れると思う」
その二人以外にも見張りや巡回している者はいるというが、どうやら仲間の顔を覚えていないらしく堂々としていれば何の問題も無いという。
しかし、ここにきて謎が生まれる。なぜここまで一人でやってのけたにもかかわらず、ロルフ達に助けを求めたのか、という事だ。
「そこまで分かってるなら一人でどうにかできるんじゃ? って思ってるね」
ランテは顔の前で指をメトロノームのようにチッチッチと振ると、
「そうはいかないからキミたちにお願いしたかったんだ」
そう言った。
「理由その一。さっき言ったこの部屋」
先程振った指をそのまま地図上のハテナマークの上に移動させると、ランテは表情を引き締める。
「ここは何があるのか調べられてない。要するに未知の世界。もしここで何かがあったとしたら……サポートして欲しいってこと」
そして、「理由その二」そう言って指を二本立てると、言葉を続けた。
「理由その一の延長だけど、エルラがどう囚われているのかわからない。もし救出にあたって潜入がバレた場合……その時はこの二か所の監視室をジャックして欲しいんだ」
監視室は近くのフロアを見通せるだけではなく、罠の起動や解除ボタンの設置もされているらしい。
「実際に押して試した訳じゃないから百パーセントじゃないけど、“罠解除ボタン”なんて書いてあったから多分間違いないと思う」
そこまで言い終えると、ランテは顔をあげて全員の顔を見渡した。ここまでで質問は? そう聞きたいのだろう。
するとモモが小さく手をあげる。
「三つのチームに分かれるってことですよね」
「うん、そうなるね」
「連絡を取り合う手段は……」
「あーそうだった」
ランテはそう言うと、思い出したようにテーブルに小さな水晶玉のようなものを三つ置いた。
「恐らく中では魔術も能力も制限されてる。でも、エルラを連れ去る際、眠らせるためにフェティシュを使ってたんだ。ってことは」
「魔術水晶なら会話は可能って事ですね。なるほどです」
疑問が解けたモモは手を胸の前で合わせるとそう言った。
フェティシュを使うことができる、という事は、魔力そのものが制限されている訳ではなく、魔力を使う、つまり何者かが魔力を術に乗せ、役割を持たせることが制限されているということなのだ。それはすなわち、フェティシュ以外にも、元々役割をを持ったアイテム等は使用可能という事になる。
そんなモモの横で申し訳なさそうに手をあげたのはクロンだ。いつからか発言は挙手制になったらしい。
「今回の作戦とは関係ないんですけど」
「ん、いいよ。何?」
きょろきょろと動いて視線の合わないクロンに苦笑しつつ、ランテは出来るだけ優しくそう聞き返す。
「国の人達は助けてくれないんですか? ひと月も帰ってこなかったらご両親も……」
「エルラん家はダメなんだよ。あいつらには血も涙もないんだから」
クロンの台詞に、ランテの表情が一瞬で変化した。
何もかもを悟ったような、悲しみとも怒りともとれるその表情と呟きに、クロンは思わず口を噤む。
「あ、ごめん。えっと」
そう言って冷めてぬるくなったお茶をひと口飲むと、ランテは口を開いた。
「最初のお屋敷あるじゃん? エルラってあの家の生まれなんだけど」
最初のお屋敷。ロルフ達が初めに転送されたときの城のような屋敷のことを言っているのだろう。
国の中でも一番大きく中央に位置しており、恐らくこの国の中心となる一族が住んでいる屋敷、誰もがそう思うであろう屋敷だ。そんな屋敷の一員という事は逆に、というよりむしろ、事が大きくなっていそうなものだが……
「うちが言うのもなんだけど、あの家はちょっと特殊でね」
ランテは嫌なものを思い出すかのように、ぽつり、ぽつりと話始めた。
「さっき言ったこの鍵なんだけど、どうやら持ってるだけでその効果が発揮されるみたいでね。罠の作動もしなければ部屋の開錠までできちゃう優れものだったのよ。お陰でこれだけの地図が作れたって訳」
どうやらエルラを連れ去った人物は相当の愚か者だったらしい。ランテの行動力もかなりの凄まじさではあるが。
「で、ポイントは二つ。このバツ印の所はこの鍵がないと開けられない扉。で、もう一つが最重要」
ランテはそう言って地図上の一ヶ所を指さした。
その扉の前には青色以外に赤色と緑色のバツ印、そしてその先の部屋と思われる箇所にはハテナマークが描かれていた。
「ここがエルラの囚われてる場所。ただ、中には入れたことがないからこの扉の先がどうなってるのかはうちにもわからない」
「ランテの持ってるその石以外にもう二つ必要って訳ね」
一番乗り気になっているロロの言葉に、ランテが頷く。ロロよりも一歩下がって立っているクロンは心配を絵に描いたような表情を浮かべているが、そんなことはお構いなしのようだ。
ちなみに、ベッドからではランテが広げた地図を見ることができないため、その辺りからロロとクロンはテーブルの横に立って話を聞いていたりする。
「そういうこと。呑み込みが早いね、ロロたんは」
二ッと笑うランテに、ロロも得意気に笑い返す。当たり前だわ、そう言っているのが聞こえて来るようだ。
「それで、その二つの石ってのが……」
ランテはそう言いながら二か所に星印を書き加えた。
「こことここ。それぞれ監視室にいる見張りが持ってるのを確認済み。他の奴らに指示出ししてたから、ちょっと偉い奴なんだろうね。でも、誰も来れるはずないと思ってるのか、どっちもよく怠けてるから簡単に盗み取れると思う」
その二人以外にも見張りや巡回している者はいるというが、どうやら仲間の顔を覚えていないらしく堂々としていれば何の問題も無いという。
しかし、ここにきて謎が生まれる。なぜここまで一人でやってのけたにもかかわらず、ロルフ達に助けを求めたのか、という事だ。
「そこまで分かってるなら一人でどうにかできるんじゃ? って思ってるね」
ランテは顔の前で指をメトロノームのようにチッチッチと振ると、
「そうはいかないからキミたちにお願いしたかったんだ」
そう言った。
「理由その一。さっき言ったこの部屋」
先程振った指をそのまま地図上のハテナマークの上に移動させると、ランテは表情を引き締める。
「ここは何があるのか調べられてない。要するに未知の世界。もしここで何かがあったとしたら……サポートして欲しいってこと」
そして、「理由その二」そう言って指を二本立てると、言葉を続けた。
「理由その一の延長だけど、エルラがどう囚われているのかわからない。もし救出にあたって潜入がバレた場合……その時はこの二か所の監視室をジャックして欲しいんだ」
監視室は近くのフロアを見通せるだけではなく、罠の起動や解除ボタンの設置もされているらしい。
「実際に押して試した訳じゃないから百パーセントじゃないけど、“罠解除ボタン”なんて書いてあったから多分間違いないと思う」
そこまで言い終えると、ランテは顔をあげて全員の顔を見渡した。ここまでで質問は? そう聞きたいのだろう。
するとモモが小さく手をあげる。
「三つのチームに分かれるってことですよね」
「うん、そうなるね」
「連絡を取り合う手段は……」
「あーそうだった」
ランテはそう言うと、思い出したようにテーブルに小さな水晶玉のようなものを三つ置いた。
「恐らく中では魔術も能力も制限されてる。でも、エルラを連れ去る際、眠らせるためにフェティシュを使ってたんだ。ってことは」
「魔術水晶なら会話は可能って事ですね。なるほどです」
疑問が解けたモモは手を胸の前で合わせるとそう言った。
フェティシュを使うことができる、という事は、魔力そのものが制限されている訳ではなく、魔力を使う、つまり何者かが魔力を術に乗せ、役割を持たせることが制限されているということなのだ。それはすなわち、フェティシュ以外にも、元々役割をを持ったアイテム等は使用可能という事になる。
そんなモモの横で申し訳なさそうに手をあげたのはクロンだ。いつからか発言は挙手制になったらしい。
「今回の作戦とは関係ないんですけど」
「ん、いいよ。何?」
きょろきょろと動いて視線の合わないクロンに苦笑しつつ、ランテは出来るだけ優しくそう聞き返す。
「国の人達は助けてくれないんですか? ひと月も帰ってこなかったらご両親も……」
「エルラん家はダメなんだよ。あいつらには血も涙もないんだから」
クロンの台詞に、ランテの表情が一瞬で変化した。
何もかもを悟ったような、悲しみとも怒りともとれるその表情と呟きに、クロンは思わず口を噤む。
「あ、ごめん。えっと」
そう言って冷めてぬるくなったお茶をひと口飲むと、ランテは口を開いた。
「最初のお屋敷あるじゃん? エルラってあの家の生まれなんだけど」
最初のお屋敷。ロルフ達が初めに転送されたときの城のような屋敷のことを言っているのだろう。
国の中でも一番大きく中央に位置しており、恐らくこの国の中心となる一族が住んでいる屋敷、誰もがそう思うであろう屋敷だ。そんな屋敷の一員という事は逆に、というよりむしろ、事が大きくなっていそうなものだが……
「うちが言うのもなんだけど、あの家はちょっと特殊でね」
ランテは嫌なものを思い出すかのように、ぽつり、ぽつりと話始めた。
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