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story .05 *** 秘められし魔術村と死神一族
scene .6 交換条件
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「は、はわ……」
一番近くで見ていたモモが顔を赤らめそんな声を漏らした。
ランテは気にする様子もなくクロンの顎を少し引くと、少しずつ口に含んだ薬をクロンの口内へと流し込んでいく。
状況的に考えて、致し方ないとはいえ、ほぼ初対面の人物に口移しで薬を飲ませるとは考えてもいなかったロルフ達は、その様子を眺める事しかできなかった。薬はランテの口の中、そしてクロンは瓶から自力で薬を飲むことができない状況。そう、これは致し方ない事なのだ。
いたたまれないような、何とも形容しがたい気恥ずかしさの漂う中、少しずつ生気が戻ってきたクロンの瞳に映るのは、もちろん間近のランテの顔だった。
初めこそぼんやりと近くに顔がある、その程度の認識だったが、思考が回転し始め状況を理解したクロンは静かに目を見開いた。
柵があるため頭を後ろに避けることも出来ず、だからといってよくも知らぬ女性の身体に自分から触れる勇気もないクロンはその場で硬直する。
「ん……」
「けっ……けほっけほっ」
口内の液体を全て移し終わったランテがクロンから離れたその瞬間。クロンは大きく咳き込んだ。
ただ、それが薬である事を理解していたのか、口移しであったとはいえ吐き出すことなくしっかりと飲み干したところがクロンらしい。
ランテから離れるようにして反対側に身体を捻り肩で息をするクロンに、ランテの表情はきょとんとしたものから少し照れたような笑顔に変わる。相手が子供だからといって、心の底から全く気にしていなかった訳ではないようだ。
「あれ、意識戻ってたんだ。いやぁ、悪いことしたね」
ランテは、恥ずかしさを吹き飛ばすかのようにけらけらと笑い出す。
「もしかしてファーストキス、だったりして」
ちらりと自分の方を見たクロンに向かって、ランテは悪戯っぽく片目を閉じると人差し指で唇に触れた。
そんなランテに、クロンは顔を真っ赤にして俯く。
このことはヴィオレッタに黙っておかなくては。クロンの正常に動かない脳内になぜかそんな考えがよぎったが、それも一瞬のことであった。
「うぅ……」
クロンはそのままの体制で口元に手を添え苦しそうに呻いた。
「あ、そだ、回復薬!」
ランテのその言葉に、ハッとしたロルフが先程受け取った万能回復薬の小瓶を手渡す。
「反応が面白くてすっかり忘れてたや」そう言いながらランテは受け取った万能回復薬の栓を開くと、痛み止めが入っていた小瓶に一回分程の量の中身を移した。そして、それをクロンの前へ差し出す。
「さ、グイっとどうぞ。味わっても良いことないからね」
その言葉の通り、万能回復薬は通常の回復薬の数倍もの青臭さを漂わせていた。クロンは言われた通りグイっと中身を飲み干す。
すると、数秒もしないうちにクロンの顔色はみるみる良くなっていった。
「よし、これで問題なさそうだね」
それを見てランテはそう言うと、腰に手を当て大きくうなずいた。
そして、ちらっとモモを見てからロルフの方へ視線を向けると、
「それじゃ、うちの願いを聞いてもらおうかな」
そう言って二ッと笑った。
*****
****
***
ランテの小屋へ移動した一行は、ランテの話を聞くべく部屋の中央に置かれたテーブルの前に座っていた。
といっても、椅子が足りないこともあり、クロンとロロが腰かけているのは少し離れた所にあるベッドだ。
部屋の中には必要最低限の、しかも使い古された様子の木製家具しかなく、そんなに広さはないが狭苦しさを感じるほどではない。若い女性の部屋、と言うよりは老人が一人で暮らしている部屋、と言われた方がしっくりくるような雰囲気を感じる。
「さ、どうぞ」
ランテは人数分注いだ暖かいお茶をテーブルとベッド横の小棚に置き終えると、自らもテーブルの椅子へと腰かけた。
ちなみに、帰り道で何度も謝ったにもかかわらず、毎度赤面して「大丈夫です」「気にしないでください」と言われながらもクロンに視線を合わせてもらえなくなったランテはどこか寂しそうでもある。
「さて、本題だけど」
ランテは両肘をテーブルにつけ手を組むと、その上に顎を乗せた。
そして、ランテの動きによってゆらりと揺れたお茶の湯気が元に戻る頃、重々しい空気を醸し出すように視線を下へと向け口を開いた。
「囚われた親友の奪還を手伝って欲しいって言ったら協力してくれる?」
一番近くで見ていたモモが顔を赤らめそんな声を漏らした。
ランテは気にする様子もなくクロンの顎を少し引くと、少しずつ口に含んだ薬をクロンの口内へと流し込んでいく。
状況的に考えて、致し方ないとはいえ、ほぼ初対面の人物に口移しで薬を飲ませるとは考えてもいなかったロルフ達は、その様子を眺める事しかできなかった。薬はランテの口の中、そしてクロンは瓶から自力で薬を飲むことができない状況。そう、これは致し方ない事なのだ。
いたたまれないような、何とも形容しがたい気恥ずかしさの漂う中、少しずつ生気が戻ってきたクロンの瞳に映るのは、もちろん間近のランテの顔だった。
初めこそぼんやりと近くに顔がある、その程度の認識だったが、思考が回転し始め状況を理解したクロンは静かに目を見開いた。
柵があるため頭を後ろに避けることも出来ず、だからといってよくも知らぬ女性の身体に自分から触れる勇気もないクロンはその場で硬直する。
「ん……」
「けっ……けほっけほっ」
口内の液体を全て移し終わったランテがクロンから離れたその瞬間。クロンは大きく咳き込んだ。
ただ、それが薬である事を理解していたのか、口移しであったとはいえ吐き出すことなくしっかりと飲み干したところがクロンらしい。
ランテから離れるようにして反対側に身体を捻り肩で息をするクロンに、ランテの表情はきょとんとしたものから少し照れたような笑顔に変わる。相手が子供だからといって、心の底から全く気にしていなかった訳ではないようだ。
「あれ、意識戻ってたんだ。いやぁ、悪いことしたね」
ランテは、恥ずかしさを吹き飛ばすかのようにけらけらと笑い出す。
「もしかしてファーストキス、だったりして」
ちらりと自分の方を見たクロンに向かって、ランテは悪戯っぽく片目を閉じると人差し指で唇に触れた。
そんなランテに、クロンは顔を真っ赤にして俯く。
このことはヴィオレッタに黙っておかなくては。クロンの正常に動かない脳内になぜかそんな考えがよぎったが、それも一瞬のことであった。
「うぅ……」
クロンはそのままの体制で口元に手を添え苦しそうに呻いた。
「あ、そだ、回復薬!」
ランテのその言葉に、ハッとしたロルフが先程受け取った万能回復薬の小瓶を手渡す。
「反応が面白くてすっかり忘れてたや」そう言いながらランテは受け取った万能回復薬の栓を開くと、痛み止めが入っていた小瓶に一回分程の量の中身を移した。そして、それをクロンの前へ差し出す。
「さ、グイっとどうぞ。味わっても良いことないからね」
その言葉の通り、万能回復薬は通常の回復薬の数倍もの青臭さを漂わせていた。クロンは言われた通りグイっと中身を飲み干す。
すると、数秒もしないうちにクロンの顔色はみるみる良くなっていった。
「よし、これで問題なさそうだね」
それを見てランテはそう言うと、腰に手を当て大きくうなずいた。
そして、ちらっとモモを見てからロルフの方へ視線を向けると、
「それじゃ、うちの願いを聞いてもらおうかな」
そう言って二ッと笑った。
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ランテの小屋へ移動した一行は、ランテの話を聞くべく部屋の中央に置かれたテーブルの前に座っていた。
といっても、椅子が足りないこともあり、クロンとロロが腰かけているのは少し離れた所にあるベッドだ。
部屋の中には必要最低限の、しかも使い古された様子の木製家具しかなく、そんなに広さはないが狭苦しさを感じるほどではない。若い女性の部屋、と言うよりは老人が一人で暮らしている部屋、と言われた方がしっくりくるような雰囲気を感じる。
「さ、どうぞ」
ランテは人数分注いだ暖かいお茶をテーブルとベッド横の小棚に置き終えると、自らもテーブルの椅子へと腰かけた。
ちなみに、帰り道で何度も謝ったにもかかわらず、毎度赤面して「大丈夫です」「気にしないでください」と言われながらもクロンに視線を合わせてもらえなくなったランテはどこか寂しそうでもある。
「さて、本題だけど」
ランテは両肘をテーブルにつけ手を組むと、その上に顎を乗せた。
そして、ランテの動きによってゆらりと揺れたお茶の湯気が元に戻る頃、重々しい空気を醸し出すように視線を下へと向け口を開いた。
「囚われた親友の奪還を手伝って欲しいって言ったら協力してくれる?」
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