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story .05 *** 秘められし魔術村と死神一族
scene .3 怒れる高山植物?
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「な、何あのグロテスクな生き物……!」
モモの前を歩くロロが振り返りそう言う。
そのグロテスクな生き物たちは、モモが閉めようとしている扉の隙間から一匹、二匹、と少しずつ外へ飛び出していく。
「扉! 扉! 早く閉めて!」
いつの間にかすぐ後ろに立たれていたことにロルフが驚く間もなく、ランテが石を蹴り、土を蹴り、そのまま柵を飛び越えた。その手には網を持っている。
「待てぇ!」
ランテはそう言って先程飛び出していった植物たちを追いかけ、網で捉えていく。
「まさか……」
そのまさかだった。恐らくこれらが高山植物なのだ。
顔のついた走るキノコやヒトの手指の手首部分に草が生えた人参のようなもの、ヒトの目玉に植物の茎や葉が生えたようなもの――あれは眼の芽の特徴と似ている。
文献に書かれているような表現が、まさか比喩的ではなく直接的なものだとは目の当たりにするまで思ってもみなかった。
「ろ、ろ、ろ、ロルフさん! 後ろ!」
ロルフの方を見てそう叫んだのはクロンだ。ランテや植物に気を取られていて気付かなかったが、ランテが踏んだ土の周辺が大きく盛り上がり、人型のような形を形成し始めていた。いわゆるゴーレムというやつだ。
その土の塊は少しずつ、だが確実に大きくなっていく。そして数秒もしないうちにロルフの背を優に超える大きさへと変化した。
「どう、するか」
ロルフはそう言って眼鏡のブリッジを押し上げる。
そのゴーレムは“土を踏むと植物が怒る”という言葉の通り、大きく口を開けて咆哮した。
攻撃をしてくるのであれば倒すべきなのだろうが、これが高山植物、すなわち高級薬剤だと思うと簡単に傷つける訳には……ロルフがそんなことを思っている間に、ゴーレムはロルフ目掛けて拳を振りかざした。
「スペイシャルコンプレスシールド!」
ロルフはとっさに周囲の空間を凝縮した盾を生成し、ゴーレムの拳を受け止める。
ロルフの色持ち能力は便利なもので、能力を通して受ける力は十分の一程に縮小される。つまり能力を使って防御や攻撃を行う際、ロルフは個人の力の十倍の筋力を得たことになるのだ。
「とりあえずは俺が引き留めておく。ランテの指示を仰いできてくれるか」
「は、はい」
思いの外簡単にゴーレムの拳を受け止めたロルフに、クロンはそう返事して扉の方へ小走りする。他の三人はこの事態に気付かずランテを手伝いにでも行っているのか、扉側には誰もいなかった。
クロンは高山植物らしきものが近くにいない事を確認してから扉を開け外へ出る。視界を遮るものは少ないというのに、辺りを見渡しても誰の姿も見当たらない。
「とりあえず柵に沿って進んでみよう」
そう小さく口にして自分の心を落ち着かせると、クロンは小走りで柵沿いを進み始めた。
とはいっても、船で受けた傷が全て完治した訳ではない。外傷はモモが船に残っていた薬草で調合した塗り薬で粗方塞がってはいるものの、深めの傷や魔術で受けたダメージは残っている状態なのだ。その上、この国に入る前飲んだ痛み止めの効果が切れかかってきていた。
「うぅ……」
痛む身体に、時々歩を止めるとクロンは歯を食いしばる。
余裕のある様子だったロルフがあの土ゴーレムに負けるとは思えないが、土に足を踏み入れてしまったら二体、三体と増える可能性もあるのだ。何が起こるかわからない今、早く戻った方が良いのは明白だ。
「おや?」
と、すぐ近くで緊迫感の全くない聞き覚えのある声がした。
クロンが視線を上げると、今日知り合ったばかりの女性のきょとんとした顔が近くにあった。逃げた高山植物たちを捕まえ終えたのか、彼女の持つ網の中には高山植物らしきものがいくつも入っている。
「キミもさっき一緒に着た子だよね? ……って当たり前か!」
「よかっ、た……」
一人自身の言葉にツッコミを入れるランテの明るい笑い声を聞きながら、クロンはそう言うとどさりとその場に倒れ込んだ。
「って、あれ! もしかして一大事? ……まいったな」
ランテはそう独り言を口にしながら網を持っていない方の手で頭を掻くと、背を柵にもたれかからせる体勢になるようにクロンの身体を少し引きずった。
そして「ちょっとシツレイ」そう言って、クロンの身体をまさぐり始める。おでこから首筋、わき腹から下腹部へ。時折眉根をよせながらも、一通り何かを調べ終えたのか、
「ちょっと待ってて、すぐ戻るから」
ランテは聞こえていないだろうクロンに向けてそう言うと、柵の扉の方へ走り出した。
モモの前を歩くロロが振り返りそう言う。
そのグロテスクな生き物たちは、モモが閉めようとしている扉の隙間から一匹、二匹、と少しずつ外へ飛び出していく。
「扉! 扉! 早く閉めて!」
いつの間にかすぐ後ろに立たれていたことにロルフが驚く間もなく、ランテが石を蹴り、土を蹴り、そのまま柵を飛び越えた。その手には網を持っている。
「待てぇ!」
ランテはそう言って先程飛び出していった植物たちを追いかけ、網で捉えていく。
「まさか……」
そのまさかだった。恐らくこれらが高山植物なのだ。
顔のついた走るキノコやヒトの手指の手首部分に草が生えた人参のようなもの、ヒトの目玉に植物の茎や葉が生えたようなもの――あれは眼の芽の特徴と似ている。
文献に書かれているような表現が、まさか比喩的ではなく直接的なものだとは目の当たりにするまで思ってもみなかった。
「ろ、ろ、ろ、ロルフさん! 後ろ!」
ロルフの方を見てそう叫んだのはクロンだ。ランテや植物に気を取られていて気付かなかったが、ランテが踏んだ土の周辺が大きく盛り上がり、人型のような形を形成し始めていた。いわゆるゴーレムというやつだ。
その土の塊は少しずつ、だが確実に大きくなっていく。そして数秒もしないうちにロルフの背を優に超える大きさへと変化した。
「どう、するか」
ロルフはそう言って眼鏡のブリッジを押し上げる。
そのゴーレムは“土を踏むと植物が怒る”という言葉の通り、大きく口を開けて咆哮した。
攻撃をしてくるのであれば倒すべきなのだろうが、これが高山植物、すなわち高級薬剤だと思うと簡単に傷つける訳には……ロルフがそんなことを思っている間に、ゴーレムはロルフ目掛けて拳を振りかざした。
「スペイシャルコンプレスシールド!」
ロルフはとっさに周囲の空間を凝縮した盾を生成し、ゴーレムの拳を受け止める。
ロルフの色持ち能力は便利なもので、能力を通して受ける力は十分の一程に縮小される。つまり能力を使って防御や攻撃を行う際、ロルフは個人の力の十倍の筋力を得たことになるのだ。
「とりあえずは俺が引き留めておく。ランテの指示を仰いできてくれるか」
「は、はい」
思いの外簡単にゴーレムの拳を受け止めたロルフに、クロンはそう返事して扉の方へ小走りする。他の三人はこの事態に気付かずランテを手伝いにでも行っているのか、扉側には誰もいなかった。
クロンは高山植物らしきものが近くにいない事を確認してから扉を開け外へ出る。視界を遮るものは少ないというのに、辺りを見渡しても誰の姿も見当たらない。
「とりあえず柵に沿って進んでみよう」
そう小さく口にして自分の心を落ち着かせると、クロンは小走りで柵沿いを進み始めた。
とはいっても、船で受けた傷が全て完治した訳ではない。外傷はモモが船に残っていた薬草で調合した塗り薬で粗方塞がってはいるものの、深めの傷や魔術で受けたダメージは残っている状態なのだ。その上、この国に入る前飲んだ痛み止めの効果が切れかかってきていた。
「うぅ……」
痛む身体に、時々歩を止めるとクロンは歯を食いしばる。
余裕のある様子だったロルフがあの土ゴーレムに負けるとは思えないが、土に足を踏み入れてしまったら二体、三体と増える可能性もあるのだ。何が起こるかわからない今、早く戻った方が良いのは明白だ。
「おや?」
と、すぐ近くで緊迫感の全くない聞き覚えのある声がした。
クロンが視線を上げると、今日知り合ったばかりの女性のきょとんとした顔が近くにあった。逃げた高山植物たちを捕まえ終えたのか、彼女の持つ網の中には高山植物らしきものがいくつも入っている。
「キミもさっき一緒に着た子だよね? ……って当たり前か!」
「よかっ、た……」
一人自身の言葉にツッコミを入れるランテの明るい笑い声を聞きながら、クロンはそう言うとどさりとその場に倒れ込んだ。
「って、あれ! もしかして一大事? ……まいったな」
ランテはそう独り言を口にしながら網を持っていない方の手で頭を掻くと、背を柵にもたれかからせる体勢になるようにクロンの身体を少し引きずった。
そして「ちょっとシツレイ」そう言って、クロンの身体をまさぐり始める。おでこから首筋、わき腹から下腹部へ。時折眉根をよせながらも、一通り何かを調べ終えたのか、
「ちょっと待ってて、すぐ戻るから」
ランテは聞こえていないだろうクロンに向けてそう言うと、柵の扉の方へ走り出した。
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