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story .05 *** 秘められし魔術村と死神一族
scene .1 魔術国への道
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「じゃさ、とりあえず家においでよ。こんなところにいたんじゃ帝国のやつらに見つかるかもしれないし」
そう言って彼女は一人霧の中へ進んでいく。
「さ、こっち!」
「ねぇ!」
ロルフがクロンに手を貸し立ち上がらせようとした時、ロロが大きな声で女性に向かってそう叫んだ。
「ん?」
「どうして知ってるのよ。わたしたちが帝国に追われてるって」
ロルフはモモ達が話したのかと思っていたが、そうではないようだ。
怪訝そうにするロロに、彼女は一瞬きょとんとした顔をしたが、「あーそのことね!」そう言って指をパチンとならした。
「うちが住んでるトコってちょっと変わっててね、あのずーっと先の山……って言っても今は霧で見えないんだけど」
と、そこまで話したところで面倒になったのか、うーんと考えるように宙を見る。そして、ぐっと親指を立てた手をロルフ達の方へ向けると、
「ま、ついてくればわかるから」
そう言って、その親指で向かおうとしていた方向をくいくいと指し示した。
*****
****
***
「しっ……」
彼女は口元に指を立てながら、岩陰の向こう側へ進もうとしたその身をくるりと翻した。
すると、寸刻も経たぬうちに、岩陰のあちら側を何やら気だるそうに会話をしながら帝国の兵らしき二人組が通り過ぎていく。この濃い霧がなければ見つかっていたかもしれない。
「こっちの方まで見回りをよこすなんて珍しいな……キミたちほんと何したの?」
囁く様に隣にいるロルフにそう言って彼女は笑顔を作るが、兵たちの背中を見送るその瞳は真剣そのものだ。どの村の者なのかはわからないが、ここに至るまでの言動からは彼女が帝国をよくは思っていないであろうことがその端々から伝わってきていた。
数刻後、彼等の影も声も届かぬようになると彼女は移動を再開した。そして、道の中ほどまで進んでから手をちょいちょいと動かしロルフ達を呼ぶと、大きな岩に隠れるようにして空いた洞窟の中へと入っていく。
「ひゃっ」
上部から垂れた水滴に驚いて誰かがあげただろう声が、反響するように何度も響く。中は外よりも一層気温が低く、吐く息も白い。なぜそんなことがわかるかと言うと、洞窟の中でありながら至る所に星型のランプのようなものが吊るされており、それなりに明るいためだ。足元や壁に生えるヒカリゴケの類とも相まって非常に幻想的な雰囲気をしている。
だが、そんなことよりもロルフには気になる事があった。先程シャルロッテとウェネと共にこの洞窟の近くも見回ったはずだが、こんな洞窟には見覚えがなかったのだ。ロルフは、隣を歩くシャルロッテに聞く。
「こんな洞窟、さっき来た時もあったか?」
「んー……わかんない!」
シャルロッテの答えに、――まぁ、そんなもんだよな。霧も濃かった訳だし……と自分を無理やりに納得させつつ、歩を進める。
ちなみに、ウェネと青年は船を修理してできるだけ早くテマタムアへ戻りたいという理由から危険を承知で船に残り、ヴィオレッタは探しても見つからなかったためウェネ達に伝言を頼んで残してきていたりする。
「クシュッ」
「ロロ? 大丈夫?」
大分深くまで進んできたところで寒さに耐え切れなくなったか、くしゃみをしたロロの顔をクロンが心配そうに覗き込む。
白水の大陸は雪と氷の大陸と言われているため、それぞれ上に羽織るものを準備したのだが、先刻の戦闘で荷物の大半が海の底へ沈んでしまったらしく、全員テマタムアを出た時と同じ服装のままだった。
と、そこで先頭を歩き案内していた例の女性が立ち止まる。そしてくるりとロルフ達の方へ体を向けると、
「はいはい、お待たせ! 寒いのはここまでだからね」
そう言って大きく手を広げた。
「……い、行き止まりじゃない!」
少しの間の後、ロロがそう叫ぶ。
足元の悪さで前方をあまり気にしていなかったが、彼女が立ち止まった場所は紛れもなく行き止まりだった。洞窟それ以上奥へ進むことは出来ず、尚且つ辺りに村への入り口らしきものは見当たらない。
身構えるロルフ達に、彼女は両手をまぁまぁと宥めるように動かした。
「そう、一般的にはね」
そう言ってしたり顔をする彼女は、吊るされたランプの一つを手に取るとそれを壁の窪みにはめ込んだ。
そしてポケットから小さな鍵を取り出すと、それをランプの中央に空いた穴に差し込み軽く回転させる。カチ、という軽い音の後、星型のランプはカギが刺さったまま壁に呑み込まれていった。
「よく見てて。滅多な事じゃ体験できないだろうからね」
彼女が一歩下がると、どこからともなく霧のような靄が湧いて出る。その霧は段々と濃くなり、隣に立つ者の姿すらほとんど把握できない程になっていった。だが、不思議と不安を感じる事はなかった。それは、夢か現実か、はたまた先程の霧に幻影を見せる効果でもあるためか、ロルフ達が見ているもののお陰でもあった。
薄暗い霧の中、辺りに散らばる無数の淡く美しい光。それが星屑である事に気付くのには数秒もかからなかった。至る所で輝く星は、触れると光の結晶を振り撒きながら微かに震えた。
星空に包まれているような、そう形容するのが最もしっくりくる表現だろう。
そんな幻想的な景色に、全員が息を呑む程に見とれていたのである。
「はい、到着!」
そんな台詞と共に発された、パン! と手を叩く大きな音によってロルフ達は現実に引き戻される。辺りを包み込んでいた星々は瞬きをする間に消えてしまったようだ。
「さぁようこそ、魔術一族であるヒツジ族の国へ!」
徐々に霧が晴れ現れた景色は、先程まで居た洞窟の行き止まりではなく広々とした草原であった。それだけではない。楽し気に手を広げる女性の後ろには城と呼んでも良いであろう立派な屋敷が聳え立っていた。
そう言って彼女は一人霧の中へ進んでいく。
「さ、こっち!」
「ねぇ!」
ロルフがクロンに手を貸し立ち上がらせようとした時、ロロが大きな声で女性に向かってそう叫んだ。
「ん?」
「どうして知ってるのよ。わたしたちが帝国に追われてるって」
ロルフはモモ達が話したのかと思っていたが、そうではないようだ。
怪訝そうにするロロに、彼女は一瞬きょとんとした顔をしたが、「あーそのことね!」そう言って指をパチンとならした。
「うちが住んでるトコってちょっと変わっててね、あのずーっと先の山……って言っても今は霧で見えないんだけど」
と、そこまで話したところで面倒になったのか、うーんと考えるように宙を見る。そして、ぐっと親指を立てた手をロルフ達の方へ向けると、
「ま、ついてくればわかるから」
そう言って、その親指で向かおうとしていた方向をくいくいと指し示した。
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「しっ……」
彼女は口元に指を立てながら、岩陰の向こう側へ進もうとしたその身をくるりと翻した。
すると、寸刻も経たぬうちに、岩陰のあちら側を何やら気だるそうに会話をしながら帝国の兵らしき二人組が通り過ぎていく。この濃い霧がなければ見つかっていたかもしれない。
「こっちの方まで見回りをよこすなんて珍しいな……キミたちほんと何したの?」
囁く様に隣にいるロルフにそう言って彼女は笑顔を作るが、兵たちの背中を見送るその瞳は真剣そのものだ。どの村の者なのかはわからないが、ここに至るまでの言動からは彼女が帝国をよくは思っていないであろうことがその端々から伝わってきていた。
数刻後、彼等の影も声も届かぬようになると彼女は移動を再開した。そして、道の中ほどまで進んでから手をちょいちょいと動かしロルフ達を呼ぶと、大きな岩に隠れるようにして空いた洞窟の中へと入っていく。
「ひゃっ」
上部から垂れた水滴に驚いて誰かがあげただろう声が、反響するように何度も響く。中は外よりも一層気温が低く、吐く息も白い。なぜそんなことがわかるかと言うと、洞窟の中でありながら至る所に星型のランプのようなものが吊るされており、それなりに明るいためだ。足元や壁に生えるヒカリゴケの類とも相まって非常に幻想的な雰囲気をしている。
だが、そんなことよりもロルフには気になる事があった。先程シャルロッテとウェネと共にこの洞窟の近くも見回ったはずだが、こんな洞窟には見覚えがなかったのだ。ロルフは、隣を歩くシャルロッテに聞く。
「こんな洞窟、さっき来た時もあったか?」
「んー……わかんない!」
シャルロッテの答えに、――まぁ、そんなもんだよな。霧も濃かった訳だし……と自分を無理やりに納得させつつ、歩を進める。
ちなみに、ウェネと青年は船を修理してできるだけ早くテマタムアへ戻りたいという理由から危険を承知で船に残り、ヴィオレッタは探しても見つからなかったためウェネ達に伝言を頼んで残してきていたりする。
「クシュッ」
「ロロ? 大丈夫?」
大分深くまで進んできたところで寒さに耐え切れなくなったか、くしゃみをしたロロの顔をクロンが心配そうに覗き込む。
白水の大陸は雪と氷の大陸と言われているため、それぞれ上に羽織るものを準備したのだが、先刻の戦闘で荷物の大半が海の底へ沈んでしまったらしく、全員テマタムアを出た時と同じ服装のままだった。
と、そこで先頭を歩き案内していた例の女性が立ち止まる。そしてくるりとロルフ達の方へ体を向けると、
「はいはい、お待たせ! 寒いのはここまでだからね」
そう言って大きく手を広げた。
「……い、行き止まりじゃない!」
少しの間の後、ロロがそう叫ぶ。
足元の悪さで前方をあまり気にしていなかったが、彼女が立ち止まった場所は紛れもなく行き止まりだった。洞窟それ以上奥へ進むことは出来ず、尚且つ辺りに村への入り口らしきものは見当たらない。
身構えるロルフ達に、彼女は両手をまぁまぁと宥めるように動かした。
「そう、一般的にはね」
そう言ってしたり顔をする彼女は、吊るされたランプの一つを手に取るとそれを壁の窪みにはめ込んだ。
そしてポケットから小さな鍵を取り出すと、それをランプの中央に空いた穴に差し込み軽く回転させる。カチ、という軽い音の後、星型のランプはカギが刺さったまま壁に呑み込まれていった。
「よく見てて。滅多な事じゃ体験できないだろうからね」
彼女が一歩下がると、どこからともなく霧のような靄が湧いて出る。その霧は段々と濃くなり、隣に立つ者の姿すらほとんど把握できない程になっていった。だが、不思議と不安を感じる事はなかった。それは、夢か現実か、はたまた先程の霧に幻影を見せる効果でもあるためか、ロルフ達が見ているもののお陰でもあった。
薄暗い霧の中、辺りに散らばる無数の淡く美しい光。それが星屑である事に気付くのには数秒もかからなかった。至る所で輝く星は、触れると光の結晶を振り撒きながら微かに震えた。
星空に包まれているような、そう形容するのが最もしっくりくる表現だろう。
そんな幻想的な景色に、全員が息を呑む程に見とれていたのである。
「はい、到着!」
そんな台詞と共に発された、パン! と手を叩く大きな音によってロルフ達は現実に引き戻される。辺りを包み込んでいた星々は瞬きをする間に消えてしまったようだ。
「さぁようこそ、魔術一族であるヒツジ族の国へ!」
徐々に霧が晴れ現れた景色は、先程まで居た洞窟の行き止まりではなく広々とした草原であった。それだけではない。楽し気に手を広げる女性の後ろには城と呼んでも良いであろう立派な屋敷が聳え立っていた。
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