黒狼さんと白猫ちゃん

翔李のあ

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story .04 *** 忍び寄る影、崩れ去る日常

scene .19 間もない再会

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「たーだいまー!」
「おかえり……って目が真っ赤じゃない! ってことはもしかして……」
「ろ、ロロ」

 クロンの声にはっとしたロロが口を噤む。

「いや、大丈夫だ。ゴルトは生きてた」
「よ、よかった……」

 その言葉に、ロロが安堵の声を上げた。

「むしろピンピンしてる。気にしなくても大丈夫だったんじゃないかと思うくらいにはな」

 ロルフは少し皮肉混じりにそう言うが、その表情は出かけた時の深刻そうなものとは異なり少し晴れやかだった。
 そんなロルフの様子に、その場にいる全員がホッとしたような表情をする。

「それで、ゴルトさんは……?」

 リビングのテーブルに座ったロルフとシャルロッテの前に飲み物が入ったカップを置くと、ゴルトの姿が見えないからかそわそわとした様子でモモがそう問いかけた。

「さぁ……」
「さぁ……?」

 ロルフの言葉が誰からともなく繰り返される。
 生きている、と言ったにもかかわらず、その行方を知らぬと言うのだから当たり前と言えば当たり前の反応だ。

「それってどういうことなの?」

 ロロの質問に、ロルフは今朝見聞きしてきたことを順に話した。自身が鉄板を握り潰したことを除いて。

「街の人たちが昨日の出来事を覚えてないって……」
「ああ、でも状況からしてそれもゴルトの影響だと考えて間違いないと思うんだ」
「やらかし過ぎたがために街の人たちの記憶まで消したって事ね。全く、とんだ人物だわ」

 今まで四人掛けのソファを占拠して横になっていたヴィオレッタが突然口を開いた。
 寝ているのかと思ったが、話はしっかりと聞いていたらしい。そんなヴィオレッタに、「なによ、起きてたのね」そう呟いてからロロが質問する。

「そう言えばゴルトの心は読まなかったの?」
「まぁね。――というより、あの人の視線は捉えることができなかった、と言うのが正しいかしら。彼女はただ者ではない、そう警告された気がするのよ」

 その時の事を思い出したのか、ヴィオレッタが小さく身震いする。

「ふぅん、ヴィオレッタでもそう言う事あるのね。とっても意外だわ」

 ロロは“とっても”を強調してそう言い放った。
 いつもならば食ってかかるであろうヴィオレッタだが、今回は珍しく聞き流すとさっと立ち上がって玄関の方へ歩き出す。そしてロルフに向けて「さ、行くわよ」そう言った。



*****
****
***




 例によってヴィオレッタの呼びかけによりどこからともなく現れたヴェロベスティに跨ることおよそ六時間、ロルフとヴィオレッタはシトラディオ・パラドへとたどり着いていた。
 時は夕方。スエーニョ・デ・エストレーラ来団からまだ四日、午後の部開始前という事もあってか、賑わいはひとしおだ。
 村の裏路地から入ったとはいえ、この賑わいでは身分を隠そうともせず堂々とするヴィオレッタの姿に気付くものも少なくない。そんな観光客に向かって、ヴィオレッタは笑顔でひらひらと手を振る。欠員となっているはずの人気団員がこの場にいることで、騒ぎになるかもしれないとは考えられないのだろうか。
 そんな文句が頭をよぎるが、身体がついてこないロルフは近くの壁に手をついた。そんな考えを知ってか知らずか、

「んもう、だらしがないわね。それでもオトコなのかしら」

 そう言うと、ヴィオレッタは今にも座り込みそうなロルフの背中をパシッと叩いた。
 一度休憩――という名のヴェロベスティの水分補給を挟んだとはいえ、モンスターに乗ることになれていないロルフにとってはとんでもなく長丁場だったのだが、そんなことはお構いなしだ。
 と、その時だった。

「あっれー、もしかしてヴィオレッタ様じゃ? お戻りですか?」

 最近にも聞いた、少し懐かしい声が路地に響いた。

「あれ! ロルフもいるじゃん。あれから連絡がないから心配してたんだ! でも無事みたいでよかった……って、大丈夫?」

 ヴィオレッタが一切心配していないためか、ライザは今にもおちょくりたそうな顔でロルフを見ながらそう言う。

「心配するかバカするかどっちかにしてくれ」

 ようやく話すことができる程度に回復したロルフは、力なくそう吐き出すように言いながら体を返した。屋敷を出る前に消化の悪いものを食べなくてよかった、そんな気持ちがひしひしと伝わってくる。

「こんなちんちくりんの事なんてどうでもいいのよ。アナタ、リェフってヒトは知ってるかしら?」

 ヴィオレッタは髪を掻き上げながらそう言うと、ロルフとライザの間に割り込むようにして立った。
 そんなヴィオレッタを、少しだけ見上げるようにしてライザが口を開く。

「えっと、リェフは私の父ですが……」
「あら、なら話は早いわね。知ってるかもしれないけれど、ワタシはヴィオレッタ。よろしくね」

 そう言いながら差し出された手を、ライザは嬉しそうに両手で掴む。

「あっはい! よく存じてます! 私はリェフの娘でライザって言います」

 そして、自身も自己紹介すると、ペコリと頭を下げながら「いつもロルフがお世話になってます」そう付け加えた。
 ヴィオレッタは、その言葉を待ってましたと言わんばかりに肩をすくめて溜息をつく。

「本当に手がかかって困ってるのよ。手取り足取りやってあげないと何もできないんだから。……アナタはこのちんちくりんとは違って良くできた娘さんみたいね」
「あはは、言いますねぇヴィオレッタ様」

 ちらりとロルフの方へ視線を向けながらそう言うヴィオレッタは見事なしたり顔だ。
 そんなヴィオレッタの言葉に笑いつつもライザは少しばかり複雑そうな表情をしているが、それに気づく事もなくヴィオレッタは話を続けた。

「あ、そうだわ。アナタのお父様に用があって来たのよ。家まで案内してくれるかしら?」
「ええ、もちろんです!」

 勝手に進んでいく会話に入ることも出来ず、ロルフは本通りの方へと歩いていく二人に視線を送った。
 散々虚仮にされた上、置いてけぼりとは……少し寂しいような虚しいような気持ちを感じながら、ロルフは二人の後をゆっくりと追いかけることにした。
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