83 / 149
story .04 *** 忍び寄る影、崩れ去る日常
scene .10 転送
しおりを挟む
ゴルトの細い指が、パチン! と乾いた音を響き渡らせた。
その刹那、辺り全体が金色に光りに包まれたかと思うと、一瞬にしてシャルロッテ達がロボットの拘束を離れ、ロルフの後ろへと移動していた。
「ちょ、ちょっと! 痛いわよシャルロッテ!」
「ふぇ?」
「あ、あれ?」
ロボットの拘束に抵抗しているつもりでロロを叩いていたシャルロッテの動きが止まる。
そして、二人のやり取りに、周りの全員が驚いた様子で辺りを見回しはじめた。一瞬すぎる出来事に、移動してきた当人達も、リージアも、どうやらゴルト以外の全員が場の状況を飲み込めていないようだった。
「一体どういう……」
「そんなことはどうでもよい。さぁ、さっさとお行き」
先程まで漂っていた緊迫した空気がどこかへ消え、どこか間延びした空気の中、ゴルトはそう言いながらロルフ達に向かってしっしと虫を払うかのように手を振る。
「いいからお行き。気にすることなど何もあらぬよ」
その場から動こうとしないロルフ達に、ゴルトは先程よりも大きく手を振った。
そんなのん気なやり取りに、先程まで囚われていたはずの人質と、何事もなかったかのように立ち尽くすロボット達の方を見比べていたリージアが口を開いた。
「ふ~ん……どんな手を使ったかわからないけど、なかなかやるじゃん? まぁいいけどね、別に。お前を殺してすぐ捕まえるだけだから!」
リージアの言葉に、気が緩み掛けていたロルフ達に再度緊張が走る。拘束から脱せたとはいえ、リージアがゴルトを亡き者にし、ロルフ達を捕えようとしているのは確かなのだ。
「ふん、その程度の力で何をすると言うのじゃ。わしには指一本触れられやせぬ」
「それがさぁ、違うんだよね、昔とは!」
呆れたように目を細めて自分を見るゴルトに、リージアは両手を広げさぞ楽しそうに笑いだす。
「ずっと拒否してたんだけどさぁ、いざ成ってみるといいもんだねぇ! 色持ちってのは! キャハハハ!」
色持ちになる……? そんなことが可能なのかは定かではないが、目が血走り焦点が定まっていない今の彼女は、少なくとも真っ当な人間には見えない。
そんなリージアに少しばかりに危険を感じたのか、ゴルトは少し強めの口調でロルフ達に向かって再度この場を離れるように言う。
「造作もあらぬと申しておるのじゃ。そなた達はさっさと屋敷へお帰り」
「でもっ」
「大丈夫じゃよ、シャル。わしが嘘を吐いたことがあったか?」
ゴルトの言葉にシャルロッテが首を振る。冗談やからかいのために大袈裟な表現などをする事が多いものの、よく考えてみると、ゴルトがロルフやシャルロッテに嘘をついたことはなかった。
そんなゴルトが大丈夫というのならば恐らく何か策はあるのだろう。だが、ロルフ達にここから去れと言ったのは、その策が万全ではない、そういう意味にもとらえられる。
「わかった」
少し不満げなシャルロッテに優し気な視線を送り少し口角を上げると、ゴルトはロルフに目配せした。
「よし、全員行くぞ。奥の研究室だ」
「キャハ! どこに行くって言うのかな! まぁどこに行こうと関係ないけどね!」
ロルフの掛け声に、全員店舗の奥の研究室へと駆けだす。後ろからリージアの笑い声が聞こえるが、今はそんなことを気にしている場合ではない。
「貰ったこの力、早く試したくてうずうずしてんの。さぁ、行くよ! あんたたちはロルフ達を捕まえな!」
リージアの指示を受け、ロボット達がまるで壁など見えていないかのように店舗を破壊しながらロルフ達目掛けて突進し始める。
「陣ってどうやって使うのよ!」
研究室横にある準備室の足元に陣が描かれているのをいち早く発見したロロが焦ったようにそう言う。
実を言えばロルフも陣を使ったことなど無い。その上、見た所ここに描かれているのは古代より伝わる古い型の転送陣の様だった。
「全員陣を踏め、いいか?」
ロボット達が進行する振動を感じながら、全員が陣の上に乗るように移動する。状況が状況なだけあって、普段なら素直に指示に従いそうもないヴィオレッタも、複雑そうな表情で陣の上に足を置いている。
――最近の陣は、魔力のみで発動可能なものが多いらしいが……
「チッ……」
魔力を注ぎ込んでも発動しないことを確認したロルフは、辺りを見渡した。やはり古代の陣は魔力のみでは発動できないようだ。
ロルフは一番近くの棚に転がっている試験管を取り壁に叩きつけ割ると、自らの指先を切りつけた。
「ロルフ⁉ 何して……!」
「陣を踏んでろ!」
駆け寄ろうとしたロロにそう言い放つと、ロルフは全員の肌に自分の鮮血を擦りつけた。そして今度は掌を切りつけると、陣の中央辺りで手を強く握った。
傷口から流れ出た血液が一滴、陣に触れたか否か、破壊された研究室の壁の残骸がロルフ達の後ろを飛び、粉塵が一面を覆いつくした。
その刹那、辺り全体が金色に光りに包まれたかと思うと、一瞬にしてシャルロッテ達がロボットの拘束を離れ、ロルフの後ろへと移動していた。
「ちょ、ちょっと! 痛いわよシャルロッテ!」
「ふぇ?」
「あ、あれ?」
ロボットの拘束に抵抗しているつもりでロロを叩いていたシャルロッテの動きが止まる。
そして、二人のやり取りに、周りの全員が驚いた様子で辺りを見回しはじめた。一瞬すぎる出来事に、移動してきた当人達も、リージアも、どうやらゴルト以外の全員が場の状況を飲み込めていないようだった。
「一体どういう……」
「そんなことはどうでもよい。さぁ、さっさとお行き」
先程まで漂っていた緊迫した空気がどこかへ消え、どこか間延びした空気の中、ゴルトはそう言いながらロルフ達に向かってしっしと虫を払うかのように手を振る。
「いいからお行き。気にすることなど何もあらぬよ」
その場から動こうとしないロルフ達に、ゴルトは先程よりも大きく手を振った。
そんなのん気なやり取りに、先程まで囚われていたはずの人質と、何事もなかったかのように立ち尽くすロボット達の方を見比べていたリージアが口を開いた。
「ふ~ん……どんな手を使ったかわからないけど、なかなかやるじゃん? まぁいいけどね、別に。お前を殺してすぐ捕まえるだけだから!」
リージアの言葉に、気が緩み掛けていたロルフ達に再度緊張が走る。拘束から脱せたとはいえ、リージアがゴルトを亡き者にし、ロルフ達を捕えようとしているのは確かなのだ。
「ふん、その程度の力で何をすると言うのじゃ。わしには指一本触れられやせぬ」
「それがさぁ、違うんだよね、昔とは!」
呆れたように目を細めて自分を見るゴルトに、リージアは両手を広げさぞ楽しそうに笑いだす。
「ずっと拒否してたんだけどさぁ、いざ成ってみるといいもんだねぇ! 色持ちってのは! キャハハハ!」
色持ちになる……? そんなことが可能なのかは定かではないが、目が血走り焦点が定まっていない今の彼女は、少なくとも真っ当な人間には見えない。
そんなリージアに少しばかりに危険を感じたのか、ゴルトは少し強めの口調でロルフ達に向かって再度この場を離れるように言う。
「造作もあらぬと申しておるのじゃ。そなた達はさっさと屋敷へお帰り」
「でもっ」
「大丈夫じゃよ、シャル。わしが嘘を吐いたことがあったか?」
ゴルトの言葉にシャルロッテが首を振る。冗談やからかいのために大袈裟な表現などをする事が多いものの、よく考えてみると、ゴルトがロルフやシャルロッテに嘘をついたことはなかった。
そんなゴルトが大丈夫というのならば恐らく何か策はあるのだろう。だが、ロルフ達にここから去れと言ったのは、その策が万全ではない、そういう意味にもとらえられる。
「わかった」
少し不満げなシャルロッテに優し気な視線を送り少し口角を上げると、ゴルトはロルフに目配せした。
「よし、全員行くぞ。奥の研究室だ」
「キャハ! どこに行くって言うのかな! まぁどこに行こうと関係ないけどね!」
ロルフの掛け声に、全員店舗の奥の研究室へと駆けだす。後ろからリージアの笑い声が聞こえるが、今はそんなことを気にしている場合ではない。
「貰ったこの力、早く試したくてうずうずしてんの。さぁ、行くよ! あんたたちはロルフ達を捕まえな!」
リージアの指示を受け、ロボット達がまるで壁など見えていないかのように店舗を破壊しながらロルフ達目掛けて突進し始める。
「陣ってどうやって使うのよ!」
研究室横にある準備室の足元に陣が描かれているのをいち早く発見したロロが焦ったようにそう言う。
実を言えばロルフも陣を使ったことなど無い。その上、見た所ここに描かれているのは古代より伝わる古い型の転送陣の様だった。
「全員陣を踏め、いいか?」
ロボット達が進行する振動を感じながら、全員が陣の上に乗るように移動する。状況が状況なだけあって、普段なら素直に指示に従いそうもないヴィオレッタも、複雑そうな表情で陣の上に足を置いている。
――最近の陣は、魔力のみで発動可能なものが多いらしいが……
「チッ……」
魔力を注ぎ込んでも発動しないことを確認したロルフは、辺りを見渡した。やはり古代の陣は魔力のみでは発動できないようだ。
ロルフは一番近くの棚に転がっている試験管を取り壁に叩きつけ割ると、自らの指先を切りつけた。
「ロルフ⁉ 何して……!」
「陣を踏んでろ!」
駆け寄ろうとしたロロにそう言い放つと、ロルフは全員の肌に自分の鮮血を擦りつけた。そして今度は掌を切りつけると、陣の中央辺りで手を強く握った。
傷口から流れ出た血液が一滴、陣に触れたか否か、破壊された研究室の壁の残骸がロルフ達の後ろを飛び、粉塵が一面を覆いつくした。
0
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説
闇ガチャ、異世界を席巻する
白井木蓮
ファンタジー
異世界に転移してしまった……どうせなら今までとは違う人生を送ってみようと思う。
寿司が好きだから寿司職人にでもなってみようか。
いや、せっかく剣と魔法の世界に来たんだ。
リアルガチャ屋でもやってみるか。
ガチャの商品は武器、防具、そして…………。
※小説家になろうでも投稿しております。
王家から追放された貴族の次男、レアスキルを授かったので成り上がることにした【クラス“陰キャ”】
時沢秋水
ファンタジー
「恥さらしめ、王家の血筋でありながら、クラスを授からないとは」
俺は断崖絶壁の崖っぷちで国王である祖父から暴言を吐かれていた。
「爺様、たとえ後継者になれずとも私には生きる権利がございます」
「黙れ!お前のような無能が我が血筋から出たと世間に知られれば、儂の名誉に傷がつくのだ」
俺は爺さんにより谷底へと突き落とされてしまうが、奇跡の生還を遂げた。すると、谷底で幸運にも討伐できた魔獣からレアクラスである“陰キャ”を受け継いだ。
俺は【クラス“陰キャ”】の力で冒険者として成り上がることを決意した。
主人公:レオ・グリフォン 14歳 金髪イケメン
RiCE CAkE ODySSEy
心絵マシテ
ファンタジー
月舘萌知には、決して誰にも知られてならない秘密がある。
それは、魔術師の家系生まれであることと魔力を有する身でありながらも魔術師としての才覚がまったくないという、ちょっぴり残念な秘密。
特別な事情もあいまって学生生活という日常すらどこか危うく、周囲との交友関係を上手くきずけない。
そんな日々を悶々と過ごす彼女だが、ある事がきっかけで窮地に立たされてしまう。
間一髪のところで救ってくれたのは、現役の学生アイドルであり憧れのクラスメイト、小鳩篠。
そのことで夢見心地になる萌知に篠は自身の正体を打ち明かす。
【魔道具の天秤を使い、この世界の裏に存在する隠世に行って欲しい】
そう、仄めかす篠に萌知は首を横に振るう。
しかし、一度動きだした運命の輪は止まらず、篠を守ろうとした彼女は凶弾に倒れてしまう。
起動した天秤の力により隠世に飛ばされ、記憶の大半を失ってしまった萌知。
右も左も分からない絶望的な状況化であるも突如、魔法の開花に至る。
魔術師としてではなく魔導士としての覚醒。
記憶と帰路を探す為、少女の旅程冒険譚が今、開幕する。
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。
ペーパードライバーが車ごと異世界転移する話
ぐだな
ファンタジー
車を買ったその日に事故にあった島屋健斗(シマヤ)は、どういう訳か車ごと異世界へ転移してしまう。
異世界には剣と魔法があるけれど、信号機もガソリンも無い!危険な魔境のど真ん中に放り出された島屋は、とりあえずカーナビに頼るしかないのだった。
「目的地を設定しました。ルート案内に従って走行してください」
異世界仕様となった車(中古車)とペーパードライバーの運命はいかに…
転生貴族の魔石魔法~魔法のスキルが無いので家を追い出されました
月城 夕実
ファンタジー
僕はトワ・ウィンザー15歳の異世界転生者だ。貴族に生まれたけど、魔力無しの為家を出ることになった。家を出た僕は呪いを解呪出来ないか探すことにした。解呪出来れば魔法が使えるようになるからだ。町でウェンディを助け、共に行動をしていく。ひょんなことから魔石を手に入れて魔法が使えるようになったのだが・・。
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
転移想像 ~理想郷を再現するために頑張ります~
すなる
ファンタジー
ゼネコン勤務のサラリーマンが祖父の遺品を整理している中で突如異世界に転移してしまう。
若き日の祖父が言い残した言葉に導かれ、未知の世界で奮闘する物語。
魔法が存在する異世界で常識にとらわれず想像力を武器に無双する。
人間はもちろん、獣人や亜人、エルフ、神、魔族など10以上の種族と魔物も存在する世界で
出会った仲間達とともにどんな種族でも平和に暮らせる街づくりを目指し奮闘する。
その中で図らずも世界の真実を解き明かしていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる