黒狼さんと白猫ちゃん

翔李のあ

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story .04 *** 忍び寄る影、崩れ去る日常

scene .2 トゥアタラ族とプフェアネル

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 モクポルトに到着し朝食を兼ねた昼食をとったロルフ達は、インガンテス・フォレストへ戻るべく駅へと来ていた。
 スエーニョ・デ・エストレーラがシトラディオ・パラドに来団してからまだ三日目であるためか、各地から到着したらしい列車はどれも満員だ。そこから降りてくる乗客の数は半端ではない。
 はぐれない様に気を付けないと……全員揃っている事を後ろから確認しながら、ロルフは遠くに停車しているインガンテス・フォレスト駅行きの列車を見る。あちらは人も少なくかなり余裕がありそうだ。

「ねぇねぇ、あれって何? いつもあんなのいたっけ?」

 人混みを抜け、インガンテス・フォレスト駅行きの汽車のホームへ辿り着くと、シャルロッテが列車の前方を指さす。

「ん? あれは……」
「わぁプフェアネル! この時代にモンスターの引く列車に乗れるなんて!」

 シャルロッテの質問に答えようと口を開いたロルフの言葉を遮り、楽しそうな声を上げたのはモモであった。
 プフェアネル――六つ足三つ目で双頭の馬のような見た目のモンスターだ。モンスターと言っても草食で、人を襲うことは滅多にない。馬と異なるのは、その姿と魔力を使った走行の早さと言ったところだろうか。
 とは言え、魔力や体力が消耗する度に休憩を取る必要があるなどの問題があり、汽車が浸透した現在はほとんど見られなくなったはずなのだが……

「わぁ、お嬢さん。プフェアネルのこと知ってんだぬ! ボク嬉しいよ~」

 モモの言葉に引き寄せられたのか、列車の前方に六頭程繋がれたプフェアネルの陰から、少女のような人物がひょっこりと顔を出した。

「も、もしかしてトゥアタラ族の……」
「如何にも! ボクたちのことまで知ってるなんてお嬢さんは博識なんだぬ」

 両手を腰に当てニコッと笑う彼女は、目を輝かせるモモを嬉しそうに見つめている。
 少女の“ような”と表現したのは、トゥアタラ族が他の民族に比べ長寿で体の小さい民族の者であるためだ。姿こそ子供の様ではあるが、百歳を超えているかもしれない。

「あら、もしかしてウェネじゃない?」

 駅を物珍しそうに眺めていたヴィオレッタが、彼女の存在に気付いて口を開く。

「わぁ驚いた。ヴィオレッタじゃないか。久しぶりだぬ! でもこの混雑の一番の原因たるキミがどうしてここに?」
「色々あってね。この人達と人探しをすることになったのよ。アナタこそこんな所に何用なの?」

 久しぶりに会ったらしい二人は、会話に花を咲かせ始める。
 彼女の名はウェネ。インガンテス・フォレストの南東にある平原に住むトゥアタラ族という一族の出身で、汽車不足を解消するためにプフェアネルを貸し出しに来ているそうだ。その要因は言うまでもなくスエーニョ・デ・エストレーラの来団である。
 列車の運行数が通常通りだと間に合わないため、至る所でその本数を増やしているらしい。連続稼働可能の汽車は、長距離を走る列車に優先的に使用されており、短い範囲を走る列車を汽車からプフェアネルに変更し補っているという訳だ。

「汽車が足りなくなるなんて、人口の多いこの大陸ならではだぬ~。まぁ、お陰でボク達の仕事が増えて助かってるんだけどぬ!」

 ちなみにトゥアタラ族は、プフェアネル以外にも多くのモンスターと支え合い生活する、少し変わった種族だと聞く。それだけではなく、彼等の作り出す名産品はどれも他では見られない不思議なものが多いそうだ。

「あー……もっと話したいのはやまやまだけど、出発時間は守らないとだぬ。また今度村に遊びにおいでよ! んじゃまたぬ~」

 ウェネはチラッと駅中央にそびえ立つからくり時計を見ると、そう言って手を振りながら再びプフェアネル達の中へと戻っていった。

「昔彼女達の村にお邪魔したことがあるのだけど、その時にうちの子達用に陣ペンダントをね、作ってもらったのよ」

 ウェネの消えて行った方向を見ながら、誰に言うでもなくヴィオレッタが呟く。その顔は珍しく、何かを思案しているかのようだ。
 モンスター除けの結界の中にモンスターを入れるためには、特殊な陣を身に着けさせる必要がある。方法としては、体に陣の焼印を入れる、魔力の強い糸で陣の形に刺繍した布を身に着けさせるなどが一般的だが、確かにヴィオレッタの飼う猛獣達にはいずれも見当たらなかった気がする。思い返してみれば、首に何かをぶら下げていたかもしれない。
 それをウェネに作ってもらったと言っているのだろう。

「ま、機会があれば一度顔を出してもいいかもしれないわね」

 ヴィオレッタは自分に言い聞かせる様にそう言うと、いつもの様子に戻り振り返る。そして、

「さ、出発するわよ! 馬鹿みたいに突っ立ってないでさっさと乗り込みなさい!」

 そう言い放った。
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