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story .03 *** 貧窮化した村と世界的猛獣使い
scene .24 さがしもの
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「お母さんのことも、クロンのことも、ロロはきっと、分からないことが怖いんだと思う。その怖さをなくすために答えを探したくなる気持ちもよくわかる。でもな、わからないことはわからない、それでもいいと思うんだ」
静かに話し始めたロルフの言葉に、“答えを見つける事”を一番に考えてきたロロは「どうして?」そう問う。
「ロロとは少し違うかもしれないけどな、俺も小さい頃自分が何者なのかわからないことが怖くて、嫌で、ゴルトにつらく当たっていたことがあったんだ」
薄っすらとしか残っていない記憶では、それがひと月だったのか、一年だったのかは定かではない。だが、あの頃のゴルトは時折悲しそうにしていたような気がする。
「そんなある日、一つだけ分かったことがあった。でもな、必死になって情報を得ようとしたことで、彼女を傷つける事にもなってしまった」
ロルフは、先程思い出した痛みを懐かしむかのように軽く右頬に触れると、フッと柔らかく笑う。
「それで気づいたんだ。届かないものに無理やり手を伸ばすことよりも、まずは手に届くものを大切にするべきだって」
未だにゴルトは両親のことについてロルフに一切を伝えようとはしない。だが、両親のことを知らずとも何の問題もなく生きてきたし、ゴルトやシャルロッテと過ごす時間を大切にすることで、知らず識らずのうちに知らなくてはならないという気持ちは薄らいできたように感じる。
「まぁ、それでも諦めきれなくて学者なんていう安定しない職についてしまった訳だが……」
自分の言葉に、ロルフは「偉そうなこと言えないな」そう呟いて恥ずかしそうに苦笑する。
「俺の話はともかくだ。クロンがロロのことを何よりも大切に思っていることは変わらない。それはヴィオレッタがいてもいなくても同じことだろ?」
その言葉を聞いたロロは小さく頷く。
この賢い少女はきっと、今の話だけでもロルフが何を伝えたかったのかしっかりと理解できるのだろう。ロルフはその小さな頭を撫でると、優しく微笑んだ。
「だから今はそれに甘えていればいい。答えって言うのは、見つかるべき時には求めれば見つかるものだと思うんだ」
今分からないのであればそれはきっと、まだ知るべき時ではない、神がそう告げているのだと思う。
「それに今だってずっと心配して探し回って……ってまずいな、約束の時間を過ぎてる」
話に夢中ですっかり約束の事を忘れてしまっていた。捜索を開始した時よりも、一層心配しているクロンの姿を想像して、ロルフは柄にもなく小さく笑う。
そんなロルフに小さく首をかしげると、ロロは自分の両頬を両手でパンっと挟んだ。そして、大きく伸びをして枝の上に立ち上がる。
「やっぱりわたし、まだまだ子供ってことね」
いつもの様に腰に手を当てそう言うと、うんうん、と言うように何度も頷く。
「ありがとう、ロルフ! わたし決めたわ!」
ロロはロルフに晴れやかな笑顔を向けると、慣れた様子でするすると木を降りていった。と、途中で「あ、そうだ!」そう言いながら見上げて言った。
「この場所は絶対お兄ちゃん達には内緒だからね!」
*****
****
***
「ロロ! 待ってよ!」
ロルフがロロの後を追い家に戻ると、クロンが二階へと駆け上がっていく後ろ姿が見えた。
宴会がお開きになったのであろう、階段の反対側にあるリビングではシャルロッテにモモ、ヴィオレッタとリージアが、持ち帰ってきたらしい料理と酒を広げて何やら騒いでいる。
「あぁ、ロルフさん」
キッチンに置かれた踏み台に腰かけてそんな騒ぎを微笑ましそうに眺めていたロロの父親が、ロルフに気づき手を上げた。
「すみません、遅くなってしまって」
「いえいえ、無事見つけてきてくださってありがとうございます」
そう言って差し出される酒らしき液体の入ったコップをやんわりと断ると、ロルフは新しいコップにピッチャーから水を注いで口を付ける。
「ロロは何か……言ってましたか?」
突然投げかけられた質問に、ロルフはコップに口を付けたまま少しの間停止した。
そんなロルフの様子に、ロロの父親は焦ったように「いやぁ、少し気になってしまって」と言いながら頬を掻き笑った。そして、スッと思いつめた様な表情になると、
「寂しいんだと、思います」
そう静かに語りだした。
静かに話し始めたロルフの言葉に、“答えを見つける事”を一番に考えてきたロロは「どうして?」そう問う。
「ロロとは少し違うかもしれないけどな、俺も小さい頃自分が何者なのかわからないことが怖くて、嫌で、ゴルトにつらく当たっていたことがあったんだ」
薄っすらとしか残っていない記憶では、それがひと月だったのか、一年だったのかは定かではない。だが、あの頃のゴルトは時折悲しそうにしていたような気がする。
「そんなある日、一つだけ分かったことがあった。でもな、必死になって情報を得ようとしたことで、彼女を傷つける事にもなってしまった」
ロルフは、先程思い出した痛みを懐かしむかのように軽く右頬に触れると、フッと柔らかく笑う。
「それで気づいたんだ。届かないものに無理やり手を伸ばすことよりも、まずは手に届くものを大切にするべきだって」
未だにゴルトは両親のことについてロルフに一切を伝えようとはしない。だが、両親のことを知らずとも何の問題もなく生きてきたし、ゴルトやシャルロッテと過ごす時間を大切にすることで、知らず識らずのうちに知らなくてはならないという気持ちは薄らいできたように感じる。
「まぁ、それでも諦めきれなくて学者なんていう安定しない職についてしまった訳だが……」
自分の言葉に、ロルフは「偉そうなこと言えないな」そう呟いて恥ずかしそうに苦笑する。
「俺の話はともかくだ。クロンがロロのことを何よりも大切に思っていることは変わらない。それはヴィオレッタがいてもいなくても同じことだろ?」
その言葉を聞いたロロは小さく頷く。
この賢い少女はきっと、今の話だけでもロルフが何を伝えたかったのかしっかりと理解できるのだろう。ロルフはその小さな頭を撫でると、優しく微笑んだ。
「だから今はそれに甘えていればいい。答えって言うのは、見つかるべき時には求めれば見つかるものだと思うんだ」
今分からないのであればそれはきっと、まだ知るべき時ではない、神がそう告げているのだと思う。
「それに今だってずっと心配して探し回って……ってまずいな、約束の時間を過ぎてる」
話に夢中ですっかり約束の事を忘れてしまっていた。捜索を開始した時よりも、一層心配しているクロンの姿を想像して、ロルフは柄にもなく小さく笑う。
そんなロルフに小さく首をかしげると、ロロは自分の両頬を両手でパンっと挟んだ。そして、大きく伸びをして枝の上に立ち上がる。
「やっぱりわたし、まだまだ子供ってことね」
いつもの様に腰に手を当てそう言うと、うんうん、と言うように何度も頷く。
「ありがとう、ロルフ! わたし決めたわ!」
ロロはロルフに晴れやかな笑顔を向けると、慣れた様子でするすると木を降りていった。と、途中で「あ、そうだ!」そう言いながら見上げて言った。
「この場所は絶対お兄ちゃん達には内緒だからね!」
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「ロロ! 待ってよ!」
ロルフがロロの後を追い家に戻ると、クロンが二階へと駆け上がっていく後ろ姿が見えた。
宴会がお開きになったのであろう、階段の反対側にあるリビングではシャルロッテにモモ、ヴィオレッタとリージアが、持ち帰ってきたらしい料理と酒を広げて何やら騒いでいる。
「あぁ、ロルフさん」
キッチンに置かれた踏み台に腰かけてそんな騒ぎを微笑ましそうに眺めていたロロの父親が、ロルフに気づき手を上げた。
「すみません、遅くなってしまって」
「いえいえ、無事見つけてきてくださってありがとうございます」
そう言って差し出される酒らしき液体の入ったコップをやんわりと断ると、ロルフは新しいコップにピッチャーから水を注いで口を付ける。
「ロロは何か……言ってましたか?」
突然投げかけられた質問に、ロルフはコップに口を付けたまま少しの間停止した。
そんなロルフの様子に、ロロの父親は焦ったように「いやぁ、少し気になってしまって」と言いながら頬を掻き笑った。そして、スッと思いつめた様な表情になると、
「寂しいんだと、思います」
そう静かに語りだした。
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