黒狼さんと白猫ちゃん

翔李のあ

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story .03 *** 貧窮化した村と世界的猛獣使い

scene .21 祝宴

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「いやぁ貴女方がいなかったら村は早々に崩壊しておりました。本当にありがとうございます」
「いいんですよ~! 貿易先の村々を守るのも私達の大切な役割ですからね!」

 少し遠くで村長とリージアが酒を飲み交わしながら楽しそうに話している。
 マンティコアを倒すため戦った者達に食事を振る舞うと、ロルフ達は村長宅の広間へ招待されていた。ロルフ達以外にも、リージア達帝国の運送人や大きな怪我を負っていない村の兵など、それなりの人数が集まっている。

「シャルちゃん、これ何だかわかる? 美味しいかな?」
「わかんない! でもきっとおいしいよ! ダメだったらきっとロルフが食べてくれるー!」

 ビュッフェスタイルの食事に大喜びなのはシャルロッテだけではない。思い思いに料理を取り酒を飲む大勢の人々と世話しなく動き回る使用人達、まるで小さな立食パーティだ。
 そんな中にヴィオレッタを見つけると、ロルフは足早に近づき話しかけた。先ほどまで色々な人に囲まれていて近づくことができなかったのだ。

「あら、何か用? ワタシまだ何も食べられてないのだけど。ふふ、人気者はつらいわね」

 まんざらでもなさそうな顔で料理を取っていくヴィオレッタに、ロルフはため息をつく。自ら注目を集めるべく行動していたように見えたのだが。まぁ、そんなことはさておき、言おうと思っていたことを口にする。

「同行の件なんだが」
「ああ、そのことね、問題ないわよ。話はつけてきたから。本当は今回の公演が終わってからって話だったんだけどね。今夜の公演、すでに穴開けちゃったし。もういいわ」

 ペラペラと話した後、ヴィオレッタは綺麗に取り並べられた料理を一つフォークで刺し、優雅にその口に入れたかと思うと、

「協力するって言っちゃったしね。約束は守るたちなのよ」

 口に入れたものを噛むよりも先に、フォークでロルフを指さしながらそう続けた。
 先程までの優雅さはどこへ行ったのだろうか。そう思ったロルフの心が読めたのか、ヴィオレッタは焦ったように口の中のものを飲み込んでから口を開く。

「ただし! アナタ達が見たっていうのがもしローシャではなかったら、そこでサヨナラよ」

 今までも思っていたことだが、勝手に話を進めておきながら、勝手に協力終了の条件まで決めてしまうあたり、恐らく彼女は盲愛されてわがままに育ったお嬢様……と、過りかけた考えをロルフは頭を振ってかき消す。そして、

「恩に着る」

 短くそれだけを告げた。
 本当は同行する意味は無いと伝えたかったのだが、この様子だと何を言ってもついては来るのだろう。ならばわざわざ波を立てることもないと思ったのだ。

「あぁ……そうだわ。一つだけ言ってもいいかしら」

 ロルフの答えを聞くより先に、ヴィオレッタはフォークを立て話し出す。

「誰もがアナタみたいに全てに計画を立てその通り行動していると思ったら大間違いよ。人生って言うのはね、計画の通り進まないから面白いの」
「あぁ……」

 突然何を言い出すかと思えば……余計なお世話だ、そう思いつつ、ロルフは目の前まで迫ってきたフォークを持つ手を退ける。やっぱり置いて行くことにするか。

「ちょっと、聞いていないわね、せっかくこのヴィオレッタ様が助言を」
「ヴィ~オレッタ様! サーカス仕事で観に行けなかったんですよ~!」

 ヴィオレッタの言葉を遮りながら、リージアがロルフとヴィオレッタの間に割って入ってきた。この短い間にかなり飲んだのか、「せっかく死ぬ思いでチケット取ったのに!」涙目でそう訴える彼女にいつもの爽やかさは無い。

「あら、じゃぁ今度招待状送ってあげるわ」
「えぇっ! 本当ですか! さすがヴィオレッタ様! 美しく気高いのに心まで広くていらっしゃる! 女神なんて目じゃないですね!」
「ふふ、嫌だわぁ。そんなこと言ったってなぁんにも出ないわよ」

 ロルフは酒臭さにめまいを感じつつも、タイミングよく現れてくれたリージアに感謝しその場から離れた。この場に居続けたら匂いだけで酔いが回りそうだ。
 ふと視線をやった先で、部屋の隅にある入り口が開くのが見えた。そして、深刻そうな顔をしたクロンが入ってきたかと思うと、近くにいた父親に何やら報告をし始めた。

「どうかされました?」

 ロルフは二人に近づくと、そう声をかけた。

「あぁ、いや、その……大したことではないんですがね」

 そう言いつつも、いつもの優しそうな笑顔が少しだけ曇っている。そんな父親に代わり、隣に立っていたクロンが焦り気味に口を開いた。

「ロロが帰ってないんです。いつもならもう戻ってる時間なのに」

 確かにもう幼い子供が一人で出歩いているような時間ではない。この場には来づらいかもしれないが、家にも帰っていないとなると少し心配だ。
 ロルフは俯いてしまったクロンの前にしゃがみ込むと、その肩に手を乗せた。

「よし、手分けして探そう。心当たりはあるか?」
「わかりません……言い争いになるといつも走ってどこかへ行ってしまうので……」

 言い争いとは言うが、恐らくいつもロロが一方的に畳み掛けて走り去るのだろう。クロンや父親がロロに向かって強く反論する姿が浮かばない。
 小さく首を振りながら俯いたクロンは、今にも泣き出してしまいそうだ。

「大丈夫だクロン。ロロは利口だからな。さすがに一人で村の外に出るなんて事はないはずだ。二人で探せばすぐ見つかるだろ」

 ロルフが慰める様にそう言うと、クロンは「はい」と小さな声で頷いた。
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