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story .03 *** 貧窮化した村と世界的猛獣使い
scene .16 危機
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ロルフはその言葉に頷くとモモとシャルロッテが子供達を連れて行った方へと小走りで向かう。
以前ローシャから少女を守ったモモのプラントバリケード。あれから特訓を重ねたモモは、大人が何人も入ることのできるサイズのものを生成できるようになっていた。当時は、何の役にも立たなさそうですね、なんて笑っていたモモであったが、今、役に立たせることができるかもしれない。
「シャル、モモ、二人にお願いがあるんだ」
ロルフは避難した村の女性や子供達の中にモモとシャルロッテを見つけると、駆け寄りそう言った。
「なんでしょう……?」
ロルフのただならぬ雰囲気に、モモの表情がより一層緊張する。シャルロッテもその空気を察したのか、普段とは違う真剣な眼差しでロルフを見つめた。そんな二人に、ロルフは先程リージアに話したのと同じ作戦内容を伝える。
まず、リージア達が拘束に使っている器具を取り払うと同時に、ロルフの能力でマンティコアの動きを封じ、その間にモモのプラントバリケードで奴を包み込む。そして、包囲しきったところをシャルロッテのフリージングでプラントバリケードごと凍らせるという作戦だ。
プラントバリケードは本来、作り出した主の身を守ることを目的として存在するようで、かなり丈夫であることが分かっている。それを凍らせることで、火に弱い木属性であることをカバーし、更に奴から体力を奪い取ることが可能となる。――と言うのはあくまでロルフの仮定なのだが、今はそんなことを言っていられる状況ではない。やると決めてしまったからには、自分の仮定に正しくあってくれと祈るばかりである。
「わかった、やってみる」
「……わかりました」
素直に頷くシャルロッテの横で、モモはそう言いつつも心配そうにロロとクロンを一瞥した。
ロロはモモの足元で抱えた膝に顔を埋めて座り込み、クロンは他の村人達と同じように村を見つめて呆然と立ち尽くしている。そんな状態の二人を残していくのはいささか心配である、そう言いたげだ。
ロルフはモモとシャルロッテの肩にそれぞれ手を置くと、二人を交互に見た。
「二人が頼みの綱なんだ。クロンやロロの……いや、村人全員の今後の生活がかかってる。リージア達の体力もすでに限界に近い今、これしか方法がないんだ」
二人に伝えていると言うよりは、自分に言い聞かせるかのようなロルフの言葉に、俯き気だったモモは顔をあげると、その目を真っ直ぐ見つめ強く頷いた。先日の奴との遭遇で、その恐ろしさを最も体感したのはロルフなのだ。
「最後に一つだけ。――提案しておいてこんなことを言うのは気が引けるが」
自身の走ってきた方向に翻しかけた身体を二人の方へ戻しながらそう言うと、ロルフはクロンとロロの方へ一瞬視線を向け眼鏡の位置を直す。そして、少し迷うかのように一呼吸置き言葉を続けた。
「命が何より大事だ。少しでも危険だと判断したら直ぐに撤退すること」
「はい……!」
「わ、分かった」
二人の返事にロルフは小さく頷くと、再度身を翻し二人を連れてリージア達の元へと小走りで向かう。
村火事の熱のせいか、緊張からか、ロルフの額を一筋の汗が伝い落ちた。
*****
****
***
「お~やっと来たね! 待ちくたびれちゃったよ!」
戻ってきたロルフ達を見るや否やリージアはそう言ったが、声色とは異なり、その表情は疲れで引きつっている。
「で? 準備は万端? というかさ、本当に私達は手を離した方がいいんだね?」
リージアの質問に、ロルフは頷きながら「はい」と答える。
プラントバリケードを形成する植物は地から這い出てくるのだが、その蔦は、ただの蔦とは思えない程の力で成長するのだ。先日屋敷の庭での特訓中、庭で形成を始めたプラントバリケードは、近くに置いてあった鉄製の椅子とテーブルを巻き込み、容易く使い物にならない形に変形させてしまった。
その程度の力ならば対抗できる者もいるかもしれないが、勢いよくロープなどを巻き込みマンティコアの近くまで引きずられる者が出ないとは限らない。ロルフが全気力を集中させれば二、三十人分程の拘束力を出すことができることもあり、もしもの時のために、できるだけ無駄な負傷者を出さずに済むように、という考えだった。
「わかったよ、信じるって言ったのは私だしね」
リージアはそう言うと、小型魔術水晶を取り出しロルフと視線を交わした。そしてロルフの合図に合わせ、リージアは水晶に向かって「今だ!」と叫び、自分の持つロープをするすると手放す。
それと同時に、ロルフは全気力を集中させマンティコアにリストレイントをかける。そのまま握り潰すことができれば、と力を込めグラビティコンプレッションに移行しようとするが、さすがにそれは叶わないようだ。
と、その横でモモが「ふぅ」と小さく息を吐き、目を閉じたままマンティコアの方へ両手を伸ばした。すると、マンティコアの周りの地面から、幾重もの植物の蔦が生え、拘束具を巻き込みながら成長していく。
「おぉ……!」
リージアの口から、感心したような声が漏れる。
ここまでは作戦通り、何の問題も無い。未だプラントバリケードはマンティコアの足元程度だが、このスピードであれば数分もしないうちに奴を囲むことができるであろう。後はシャルロッテがバリケードを凍らせることができればひとまずは完了だ。
フリージングを掛けるべく、シャルロッテがマンティコアへ近づいた時だった。
「グゥルァァァアアア‼」
マンティコアが突然咆哮すると、近づいてきたシャルロッテの方へ首先だけを向け、勢いよく炎を吐き出した。
以前ローシャから少女を守ったモモのプラントバリケード。あれから特訓を重ねたモモは、大人が何人も入ることのできるサイズのものを生成できるようになっていた。当時は、何の役にも立たなさそうですね、なんて笑っていたモモであったが、今、役に立たせることができるかもしれない。
「シャル、モモ、二人にお願いがあるんだ」
ロルフは避難した村の女性や子供達の中にモモとシャルロッテを見つけると、駆け寄りそう言った。
「なんでしょう……?」
ロルフのただならぬ雰囲気に、モモの表情がより一層緊張する。シャルロッテもその空気を察したのか、普段とは違う真剣な眼差しでロルフを見つめた。そんな二人に、ロルフは先程リージアに話したのと同じ作戦内容を伝える。
まず、リージア達が拘束に使っている器具を取り払うと同時に、ロルフの能力でマンティコアの動きを封じ、その間にモモのプラントバリケードで奴を包み込む。そして、包囲しきったところをシャルロッテのフリージングでプラントバリケードごと凍らせるという作戦だ。
プラントバリケードは本来、作り出した主の身を守ることを目的として存在するようで、かなり丈夫であることが分かっている。それを凍らせることで、火に弱い木属性であることをカバーし、更に奴から体力を奪い取ることが可能となる。――と言うのはあくまでロルフの仮定なのだが、今はそんなことを言っていられる状況ではない。やると決めてしまったからには、自分の仮定に正しくあってくれと祈るばかりである。
「わかった、やってみる」
「……わかりました」
素直に頷くシャルロッテの横で、モモはそう言いつつも心配そうにロロとクロンを一瞥した。
ロロはモモの足元で抱えた膝に顔を埋めて座り込み、クロンは他の村人達と同じように村を見つめて呆然と立ち尽くしている。そんな状態の二人を残していくのはいささか心配である、そう言いたげだ。
ロルフはモモとシャルロッテの肩にそれぞれ手を置くと、二人を交互に見た。
「二人が頼みの綱なんだ。クロンやロロの……いや、村人全員の今後の生活がかかってる。リージア達の体力もすでに限界に近い今、これしか方法がないんだ」
二人に伝えていると言うよりは、自分に言い聞かせるかのようなロルフの言葉に、俯き気だったモモは顔をあげると、その目を真っ直ぐ見つめ強く頷いた。先日の奴との遭遇で、その恐ろしさを最も体感したのはロルフなのだ。
「最後に一つだけ。――提案しておいてこんなことを言うのは気が引けるが」
自身の走ってきた方向に翻しかけた身体を二人の方へ戻しながらそう言うと、ロルフはクロンとロロの方へ一瞬視線を向け眼鏡の位置を直す。そして、少し迷うかのように一呼吸置き言葉を続けた。
「命が何より大事だ。少しでも危険だと判断したら直ぐに撤退すること」
「はい……!」
「わ、分かった」
二人の返事にロルフは小さく頷くと、再度身を翻し二人を連れてリージア達の元へと小走りで向かう。
村火事の熱のせいか、緊張からか、ロルフの額を一筋の汗が伝い落ちた。
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「お~やっと来たね! 待ちくたびれちゃったよ!」
戻ってきたロルフ達を見るや否やリージアはそう言ったが、声色とは異なり、その表情は疲れで引きつっている。
「で? 準備は万端? というかさ、本当に私達は手を離した方がいいんだね?」
リージアの質問に、ロルフは頷きながら「はい」と答える。
プラントバリケードを形成する植物は地から這い出てくるのだが、その蔦は、ただの蔦とは思えない程の力で成長するのだ。先日屋敷の庭での特訓中、庭で形成を始めたプラントバリケードは、近くに置いてあった鉄製の椅子とテーブルを巻き込み、容易く使い物にならない形に変形させてしまった。
その程度の力ならば対抗できる者もいるかもしれないが、勢いよくロープなどを巻き込みマンティコアの近くまで引きずられる者が出ないとは限らない。ロルフが全気力を集中させれば二、三十人分程の拘束力を出すことができることもあり、もしもの時のために、できるだけ無駄な負傷者を出さずに済むように、という考えだった。
「わかったよ、信じるって言ったのは私だしね」
リージアはそう言うと、小型魔術水晶を取り出しロルフと視線を交わした。そしてロルフの合図に合わせ、リージアは水晶に向かって「今だ!」と叫び、自分の持つロープをするすると手放す。
それと同時に、ロルフは全気力を集中させマンティコアにリストレイントをかける。そのまま握り潰すことができれば、と力を込めグラビティコンプレッションに移行しようとするが、さすがにそれは叶わないようだ。
と、その横でモモが「ふぅ」と小さく息を吐き、目を閉じたままマンティコアの方へ両手を伸ばした。すると、マンティコアの周りの地面から、幾重もの植物の蔦が生え、拘束具を巻き込みながら成長していく。
「おぉ……!」
リージアの口から、感心したような声が漏れる。
ここまでは作戦通り、何の問題も無い。未だプラントバリケードはマンティコアの足元程度だが、このスピードであれば数分もしないうちに奴を囲むことができるであろう。後はシャルロッテがバリケードを凍らせることができればひとまずは完了だ。
フリージングを掛けるべく、シャルロッテがマンティコアへ近づいた時だった。
「グゥルァァァアアア‼」
マンティコアが突然咆哮すると、近づいてきたシャルロッテの方へ首先だけを向け、勢いよく炎を吐き出した。
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