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story .03 *** 貧窮化した村と世界的猛獣使い
scene .14 脅威のマンティコア
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急に現れたモンスターに、周りの人々がどよめく。
そんな人々を安心させるように、ヴィオレッタは「ワタシのかわいい子達だから大丈夫!」そう言って二頭の頭を撫でた。すると、それに応えるようにヴィオレッタへすり寄るモンスターの姿に、パラパラと拍手が起こる。
「さ、早く! クロンはワタシの前、ロロはロルフの前ね。モモとシャルロッテはそれぞれワタシかロルフの背中にしがみつきなさい!」
躊躇しているロルフ達を尻目に、ヴィオレッタはテキパキと指示を出す。
「乗るったって」
「説明は後! とりあえず跨って掴まればいいのよ」
初めて見たモンスターに乗れと言われても、何事も順序立てて考えるタイプのロルフからするとかなり高いハードルだ。
実際のところ、このモンスターの名称や特徴は頭に入ってはいる。走るのに長けたヴェロベスティというモンスターだ。動物に例えると少し牙が大きく大柄のチーターと言ったところだろうか。だが、問題はそこではない。汽車で直線距離を走行したとしても二時間程度はかかる距離を、初めて挑戦する方法で走りきることができるかという事である。そもそもモンスターと言うのは人を乗せて走るようにはできていないのだ。
――自分だけならともかく、前後に人を乗せた状態で無事アルテトにたどり着くことができるのか。他に最善策はないのか、そう考え始めたロルフの後ろから、クロンが前に出る。
「ぼ、僕、乗ります! 今アルテトに向かうためには、きっとこれが一番早いと思うんです」
「わたしも行く! 考えてる時間があるなら少しでもアルテトに近づきたいもの!」
クロンがヴェロベスティの元へ駆け出したのを見て、ロロも居ても立っても居られないという様子で兄を追う。
そんな子供達に感化されたのか、モモも一歩前に出て言った。
「私、力になれるかわからないけれど、困っている人がいたら助けたいです。行きましょうロルフさん」
「そうだよロルフ! ロルフもいつもそう言ってた!」
モモの言葉を受けて、シャルロッテがそう言いながらロルフを引っ張る。
確かに今は万が一の可能性、そんなことを考えるより、一刻も早くアルテトへ向かうことが大切か。ロルフは心を決めると、ヴェロベスティに跨り、言われた通り前にロロ、後ろにシャルロッテを乗せる。
そしてヴィオレッタに質問を飛ばした。
「アルテトまではどれくらいかかる?」
ヴィオレッタはその質問に、待ってましたと言わんばかりの得意気な顔をして、唇を軽く舐め答えた。
「汽車なんかよりずっと早いわよ! 皆ちゃんと掴まりなさい!」
「何⁉ ちょっと待……」
「‘Go’!」
*****
****
***
「ワタシはこの子達をどこかへ繋いでくるわ!」
アルテト付近にたどり着くや否や、ヴィオレッタは二頭のヴェロベスティを連れてどこかへ走り去っていった。
ヴェロベスティは炎が苦手らしく、すぐ近くまでは寄ることができなかったのだが、目と鼻の先で大量に物が燃えている事はこの煙と匂いで誰もが察することができるだろう。
「真っ白で全然見えないわ! どうなってるのよ!」
「ロロ、落ち着いて」
いつもと全く異なる光景に、闇雲に走り出そうとするロロをクロンが止める。
無茶苦茶な出発のお陰で、ロルフは無駄な体力と気力を消耗した気はするが、ヴィオレッタの言った通り一時間と少し程でたどり着くことができた。それでもこの有様であることから、討伐にはかなり苦戦していると見える。
「全員絶対に離れるな。これじゃマンティコアがどこにいるのかさっぱり見当がつかない」
全員の位置を確認すると、ロルフはそう声をかけた。もしはぐれた際にマンティコアと遭遇しようものならば、一溜りもないであろう。
一行は慎重に歩を進めていく。すると、人々の悲鳴や怒声、鉄の擦れる様な音が大きくなるにつれて煙が徐々に薄くなっていく。どうやら風向きが変わったらしい。
「っ痛……!」
現場を目の当たりにした瞬間、突然襲ってきたの頭痛とめまいに、ロルフは両手で顔を覆うように俯き肩で息をする。
記憶の底で何かが蠢く。爆発音、叫び声、火の海――それと……。
「ロルフ? 大丈夫?」
耳元でシャルロッテの声が響く。何の記憶だかは分からないが、今はそんなことを思い出している場合ではない。
ロルフは頭にこびりついた光景とめまいを吹き飛ばすかのように首を振る。と、近くで聞き覚えのある声が何かを叫んだ。
「こんなしょっぱい捕獲網じゃ大してもたないよ! これだけデカいと初級魔術は大して効きゃぁしないし!」
「リージアさん!」
ロルフ達は今の状況を確認すべく、リージアに駆け寄った。
「あ、ロルフじゃん! なんでこんなところに……っく!」
今にもその細い腕が、幾重にも巻き付けられたロープによって引きちぎれそうだ。
その先では繋がれたマンティコアが、何としてでも解放されようと暴れ回っている。どうにかしてマンティコアの動きを止めようと十人近くの男たちがリージアと同じ様な網や鎖などで引っ張ってはいるが、力の差が大きすぎるのか、奴が動くたびに数人が吹き飛ばされている。
「わたし……わたしが……あんなことしたから……」
村の入り口が破壊され、全体の三分の一程が火の海と化してしまったアルテトから目を離せないまま、ロロはペタンと地面に座る。同じように村を見つめるクロンも放心状態と言ったところだ。
ロルフはモモとシャルロッテに、二人を離れた場所へ連れて行く様に指示を出す。そして、
「ところでどうして誰も攻撃しない?」
もっともな質問を投げかけた。
そんな人々を安心させるように、ヴィオレッタは「ワタシのかわいい子達だから大丈夫!」そう言って二頭の頭を撫でた。すると、それに応えるようにヴィオレッタへすり寄るモンスターの姿に、パラパラと拍手が起こる。
「さ、早く! クロンはワタシの前、ロロはロルフの前ね。モモとシャルロッテはそれぞれワタシかロルフの背中にしがみつきなさい!」
躊躇しているロルフ達を尻目に、ヴィオレッタはテキパキと指示を出す。
「乗るったって」
「説明は後! とりあえず跨って掴まればいいのよ」
初めて見たモンスターに乗れと言われても、何事も順序立てて考えるタイプのロルフからするとかなり高いハードルだ。
実際のところ、このモンスターの名称や特徴は頭に入ってはいる。走るのに長けたヴェロベスティというモンスターだ。動物に例えると少し牙が大きく大柄のチーターと言ったところだろうか。だが、問題はそこではない。汽車で直線距離を走行したとしても二時間程度はかかる距離を、初めて挑戦する方法で走りきることができるかという事である。そもそもモンスターと言うのは人を乗せて走るようにはできていないのだ。
――自分だけならともかく、前後に人を乗せた状態で無事アルテトにたどり着くことができるのか。他に最善策はないのか、そう考え始めたロルフの後ろから、クロンが前に出る。
「ぼ、僕、乗ります! 今アルテトに向かうためには、きっとこれが一番早いと思うんです」
「わたしも行く! 考えてる時間があるなら少しでもアルテトに近づきたいもの!」
クロンがヴェロベスティの元へ駆け出したのを見て、ロロも居ても立っても居られないという様子で兄を追う。
そんな子供達に感化されたのか、モモも一歩前に出て言った。
「私、力になれるかわからないけれど、困っている人がいたら助けたいです。行きましょうロルフさん」
「そうだよロルフ! ロルフもいつもそう言ってた!」
モモの言葉を受けて、シャルロッテがそう言いながらロルフを引っ張る。
確かに今は万が一の可能性、そんなことを考えるより、一刻も早くアルテトへ向かうことが大切か。ロルフは心を決めると、ヴェロベスティに跨り、言われた通り前にロロ、後ろにシャルロッテを乗せる。
そしてヴィオレッタに質問を飛ばした。
「アルテトまではどれくらいかかる?」
ヴィオレッタはその質問に、待ってましたと言わんばかりの得意気な顔をして、唇を軽く舐め答えた。
「汽車なんかよりずっと早いわよ! 皆ちゃんと掴まりなさい!」
「何⁉ ちょっと待……」
「‘Go’!」
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「ワタシはこの子達をどこかへ繋いでくるわ!」
アルテト付近にたどり着くや否や、ヴィオレッタは二頭のヴェロベスティを連れてどこかへ走り去っていった。
ヴェロベスティは炎が苦手らしく、すぐ近くまでは寄ることができなかったのだが、目と鼻の先で大量に物が燃えている事はこの煙と匂いで誰もが察することができるだろう。
「真っ白で全然見えないわ! どうなってるのよ!」
「ロロ、落ち着いて」
いつもと全く異なる光景に、闇雲に走り出そうとするロロをクロンが止める。
無茶苦茶な出発のお陰で、ロルフは無駄な体力と気力を消耗した気はするが、ヴィオレッタの言った通り一時間と少し程でたどり着くことができた。それでもこの有様であることから、討伐にはかなり苦戦していると見える。
「全員絶対に離れるな。これじゃマンティコアがどこにいるのかさっぱり見当がつかない」
全員の位置を確認すると、ロルフはそう声をかけた。もしはぐれた際にマンティコアと遭遇しようものならば、一溜りもないであろう。
一行は慎重に歩を進めていく。すると、人々の悲鳴や怒声、鉄の擦れる様な音が大きくなるにつれて煙が徐々に薄くなっていく。どうやら風向きが変わったらしい。
「っ痛……!」
現場を目の当たりにした瞬間、突然襲ってきたの頭痛とめまいに、ロルフは両手で顔を覆うように俯き肩で息をする。
記憶の底で何かが蠢く。爆発音、叫び声、火の海――それと……。
「ロルフ? 大丈夫?」
耳元でシャルロッテの声が響く。何の記憶だかは分からないが、今はそんなことを思い出している場合ではない。
ロルフは頭にこびりついた光景とめまいを吹き飛ばすかのように首を振る。と、近くで聞き覚えのある声が何かを叫んだ。
「こんなしょっぱい捕獲網じゃ大してもたないよ! これだけデカいと初級魔術は大して効きゃぁしないし!」
「リージアさん!」
ロルフ達は今の状況を確認すべく、リージアに駆け寄った。
「あ、ロルフじゃん! なんでこんなところに……っく!」
今にもその細い腕が、幾重にも巻き付けられたロープによって引きちぎれそうだ。
その先では繋がれたマンティコアが、何としてでも解放されようと暴れ回っている。どうにかしてマンティコアの動きを止めようと十人近くの男たちがリージアと同じ様な網や鎖などで引っ張ってはいるが、力の差が大きすぎるのか、奴が動くたびに数人が吹き飛ばされている。
「わたし……わたしが……あんなことしたから……」
村の入り口が破壊され、全体の三分の一程が火の海と化してしまったアルテトから目を離せないまま、ロロはペタンと地面に座る。同じように村を見つめるクロンも放心状態と言ったところだ。
ロルフはモモとシャルロッテに、二人を離れた場所へ連れて行く様に指示を出す。そして、
「ところでどうして誰も攻撃しない?」
もっともな質問を投げかけた。
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