55 / 149
story .03 *** 貧窮化した村と世界的猛獣使い
scene .10 新たな協力者
しおりを挟む
「妹?」
ヴィオレッタの意外な発言に、ロルフは思わず言葉を繰り返した。
可能性として考えていなかった訳ではないが、人一倍世間体を気にしていそうなヴィオレッタが、見ず知らずの人間に対して自分の評判が下がりそうなことを言いだすとは思ってもみなかったのだ。
「ええ、双子の妹がね。彼女――ローシャは昔から身体が弱くて。でも小さい頃は一緒に役者を目指していたのよ」
だから昨日の「役者になりたいのか」という質問に、僅かながら反応した訳か。容姿や背格好があまりに似ているのも、双子であるという事なら納得できる。
「貧しかったけれど、幸せだった……」
「あ、あのっ、妹さんならどうして止めてくれなかったんですかっ」
懐かしい日々を思い出すかのように遠い目をしたヴィオレッタに、モモはもっともな意見を投げかける。
「言ったでしょ? ワタシも探してるって」
自分の話に割り込まれたのが癪だったのか、ヴィオレッタは軽くモモを睨みつけながらそう言った。双子と言うのは性格も似ているらしい。
小さく「ひっ」と言いながら縮こまったモモを尻目に、ヴィオレッタは話を続けた。
「色々……色々あって妹とは生き別れたの。あれからもう、二十年位になるかしら」
唇を噛み俯きながらそう言う彼女からは、「思い出したくもない」そんな気持ちが伝わってくるようだ。
しばらくの沈黙の後、ヴィオレッタは顔を上げると少し強めの口調で話を再開した。
「ワタシの記憶の中のローシャも当時のまま止まってるのよ。小さな花や虫さえ大切にするような、そんな、優しい子だって」
ヴィオレッタは一度そこで言葉を止め、自分を落ち着けるように深く息を吸う。
「ちゃんと生きているのかすら心配していたくらい……だからちっとも信じられないのよ? でも話してくれるかしら、その襲撃の話」
妹となれば有益な情報を得られるかもしれない、少しだけ抱いた期待は外れた訳だ。そう思いつつ、ロルフは先日のココット・アルクスでの出来事をヴィオレッタに話した。
モモの故郷であるココット・アルクスに女が現れ、狂暴化したフクロモモンガを放ち暇つぶしだと言っていたこと。彼女の見かけは髪色などが違うものの、ヴィオレッタにそっくりであったこと。そして、お稽古、本番などと言っており、台詞を遮った少女に怒り狂ったことなどだ。
途中から腕を組み何かを考える素振りを見せていたヴィオレッタは、ロルフの話が終わると同時に口を開いた。
「そう、やっぱり信じられないわね。……それにおかしいわ、ローシャは色持ちではなかったはず」
後半は小さな声だったためはっきりとは聞こえなかったが、恐らくそう言ったのであろう。
魔術を使うのには基本詠唱や魔法陣が必要である。しかしあの時、ローシャはそんな素振りなくロルフに攻撃してきた。という事は色持ちである線が強いと考えるのが妥当だろう。だが、彼女がローシャであり、ヴィオレッタの言うように元々色持ちではなかったとしたら……いや、それよりも当時は自身の能力に気付いていなかったという方が可能性としては高いだろう。モモや、ロルフ自身もそうであったように。――ちょっと待て。ロルフがある違和感に気づくのと同時に、ヴィオレッタが再び口を開いた。
「でも仕方ないわね、ワタシも協力するわ。何も情報がないまま探し回るより、少しでも可能性がある方に賭けてみたいのよ」
ヴィオレッタはチラッとロロに視線を向け立ち上がると、先程ミネア達が出て行ったドアへと足早に近づいていく。
「それに悪評広められても困るしね。ワタシは団長と話をつけておくわ。今回の公演が終わってから捜索開始、それでいいわね」
「ちょっと待……」
ロルフの言葉を遮るように、手をパタパタと振りながら、「またね、クロン」そう言って部屋から出て行ってしまった。ロルフは閉められたドアをすぐに開け辺りを見渡したが、既にヴィオレッタの姿は見当たらなかった。
静まり返った部屋の中に、途中から爆睡していたシャルロッテの寝息だけが聞こえる。
「とりあえず……帰るか」
ロルフはシャルロッテを起こすべく体をゆすりながら、そう皆に声をかけた。
「ふぁあ……終わったの?」
シャルロッテは大きく伸びをしながら、気の抜けた声でそう言って辺りを見回している。どんな状況であっても、彼女はある意味で期待を裏切らない。
こんな朝早くに呼び出され、解けた疑問はたった一つ。それと引き換えに新しい疑問が出てきてしまった。
解けた疑問とは、サーカス団員であるヴィオレッタが、昨日なぜ突然街なかに姿を現したのかという小さな謎だ。サーカスが来団することで混雑した街の治安を維持するための見回りかと考えていたが、そんなことは団員ではなく警備員にさせればよい。ヴィオレッタは恐らく妹を探して来客達を観察していたのであろう。世界中を巡る、人気のある有名サーカス団に属しているからこそできることだ。
そこで人助けをしたのはたまたまか、はたまた根は良い人間なのかもしれない。
新たな疑問はと言うと――
「ロルフー! 早く帰ってご飯食べよー」
「ここに来る前に何か食べてたじゃない」
「あれ、そうだっけ?」
考え事をしている間に、全員部屋の外に出たらしい。
ロルフはこの後自分に襲い掛かる悲劇を知る訳もなく、部屋の外へと出て行った。
ヴィオレッタの意外な発言に、ロルフは思わず言葉を繰り返した。
可能性として考えていなかった訳ではないが、人一倍世間体を気にしていそうなヴィオレッタが、見ず知らずの人間に対して自分の評判が下がりそうなことを言いだすとは思ってもみなかったのだ。
「ええ、双子の妹がね。彼女――ローシャは昔から身体が弱くて。でも小さい頃は一緒に役者を目指していたのよ」
だから昨日の「役者になりたいのか」という質問に、僅かながら反応した訳か。容姿や背格好があまりに似ているのも、双子であるという事なら納得できる。
「貧しかったけれど、幸せだった……」
「あ、あのっ、妹さんならどうして止めてくれなかったんですかっ」
懐かしい日々を思い出すかのように遠い目をしたヴィオレッタに、モモはもっともな意見を投げかける。
「言ったでしょ? ワタシも探してるって」
自分の話に割り込まれたのが癪だったのか、ヴィオレッタは軽くモモを睨みつけながらそう言った。双子と言うのは性格も似ているらしい。
小さく「ひっ」と言いながら縮こまったモモを尻目に、ヴィオレッタは話を続けた。
「色々……色々あって妹とは生き別れたの。あれからもう、二十年位になるかしら」
唇を噛み俯きながらそう言う彼女からは、「思い出したくもない」そんな気持ちが伝わってくるようだ。
しばらくの沈黙の後、ヴィオレッタは顔を上げると少し強めの口調で話を再開した。
「ワタシの記憶の中のローシャも当時のまま止まってるのよ。小さな花や虫さえ大切にするような、そんな、優しい子だって」
ヴィオレッタは一度そこで言葉を止め、自分を落ち着けるように深く息を吸う。
「ちゃんと生きているのかすら心配していたくらい……だからちっとも信じられないのよ? でも話してくれるかしら、その襲撃の話」
妹となれば有益な情報を得られるかもしれない、少しだけ抱いた期待は外れた訳だ。そう思いつつ、ロルフは先日のココット・アルクスでの出来事をヴィオレッタに話した。
モモの故郷であるココット・アルクスに女が現れ、狂暴化したフクロモモンガを放ち暇つぶしだと言っていたこと。彼女の見かけは髪色などが違うものの、ヴィオレッタにそっくりであったこと。そして、お稽古、本番などと言っており、台詞を遮った少女に怒り狂ったことなどだ。
途中から腕を組み何かを考える素振りを見せていたヴィオレッタは、ロルフの話が終わると同時に口を開いた。
「そう、やっぱり信じられないわね。……それにおかしいわ、ローシャは色持ちではなかったはず」
後半は小さな声だったためはっきりとは聞こえなかったが、恐らくそう言ったのであろう。
魔術を使うのには基本詠唱や魔法陣が必要である。しかしあの時、ローシャはそんな素振りなくロルフに攻撃してきた。という事は色持ちである線が強いと考えるのが妥当だろう。だが、彼女がローシャであり、ヴィオレッタの言うように元々色持ちではなかったとしたら……いや、それよりも当時は自身の能力に気付いていなかったという方が可能性としては高いだろう。モモや、ロルフ自身もそうであったように。――ちょっと待て。ロルフがある違和感に気づくのと同時に、ヴィオレッタが再び口を開いた。
「でも仕方ないわね、ワタシも協力するわ。何も情報がないまま探し回るより、少しでも可能性がある方に賭けてみたいのよ」
ヴィオレッタはチラッとロロに視線を向け立ち上がると、先程ミネア達が出て行ったドアへと足早に近づいていく。
「それに悪評広められても困るしね。ワタシは団長と話をつけておくわ。今回の公演が終わってから捜索開始、それでいいわね」
「ちょっと待……」
ロルフの言葉を遮るように、手をパタパタと振りながら、「またね、クロン」そう言って部屋から出て行ってしまった。ロルフは閉められたドアをすぐに開け辺りを見渡したが、既にヴィオレッタの姿は見当たらなかった。
静まり返った部屋の中に、途中から爆睡していたシャルロッテの寝息だけが聞こえる。
「とりあえず……帰るか」
ロルフはシャルロッテを起こすべく体をゆすりながら、そう皆に声をかけた。
「ふぁあ……終わったの?」
シャルロッテは大きく伸びをしながら、気の抜けた声でそう言って辺りを見回している。どんな状況であっても、彼女はある意味で期待を裏切らない。
こんな朝早くに呼び出され、解けた疑問はたった一つ。それと引き換えに新しい疑問が出てきてしまった。
解けた疑問とは、サーカス団員であるヴィオレッタが、昨日なぜ突然街なかに姿を現したのかという小さな謎だ。サーカスが来団することで混雑した街の治安を維持するための見回りかと考えていたが、そんなことは団員ではなく警備員にさせればよい。ヴィオレッタは恐らく妹を探して来客達を観察していたのであろう。世界中を巡る、人気のある有名サーカス団に属しているからこそできることだ。
そこで人助けをしたのはたまたまか、はたまた根は良い人間なのかもしれない。
新たな疑問はと言うと――
「ロルフー! 早く帰ってご飯食べよー」
「ここに来る前に何か食べてたじゃない」
「あれ、そうだっけ?」
考え事をしている間に、全員部屋の外に出たらしい。
ロルフはこの後自分に襲い掛かる悲劇を知る訳もなく、部屋の外へと出て行った。
0
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説
闇ガチャ、異世界を席巻する
白井木蓮
ファンタジー
異世界に転移してしまった……どうせなら今までとは違う人生を送ってみようと思う。
寿司が好きだから寿司職人にでもなってみようか。
いや、せっかく剣と魔法の世界に来たんだ。
リアルガチャ屋でもやってみるか。
ガチャの商品は武器、防具、そして…………。
※小説家になろうでも投稿しております。
王家から追放された貴族の次男、レアスキルを授かったので成り上がることにした【クラス“陰キャ”】
時沢秋水
ファンタジー
「恥さらしめ、王家の血筋でありながら、クラスを授からないとは」
俺は断崖絶壁の崖っぷちで国王である祖父から暴言を吐かれていた。
「爺様、たとえ後継者になれずとも私には生きる権利がございます」
「黙れ!お前のような無能が我が血筋から出たと世間に知られれば、儂の名誉に傷がつくのだ」
俺は爺さんにより谷底へと突き落とされてしまうが、奇跡の生還を遂げた。すると、谷底で幸運にも討伐できた魔獣からレアクラスである“陰キャ”を受け継いだ。
俺は【クラス“陰キャ”】の力で冒険者として成り上がることを決意した。
主人公:レオ・グリフォン 14歳 金髪イケメン
RiCE CAkE ODySSEy
心絵マシテ
ファンタジー
月舘萌知には、決して誰にも知られてならない秘密がある。
それは、魔術師の家系生まれであることと魔力を有する身でありながらも魔術師としての才覚がまったくないという、ちょっぴり残念な秘密。
特別な事情もあいまって学生生活という日常すらどこか危うく、周囲との交友関係を上手くきずけない。
そんな日々を悶々と過ごす彼女だが、ある事がきっかけで窮地に立たされてしまう。
間一髪のところで救ってくれたのは、現役の学生アイドルであり憧れのクラスメイト、小鳩篠。
そのことで夢見心地になる萌知に篠は自身の正体を打ち明かす。
【魔道具の天秤を使い、この世界の裏に存在する隠世に行って欲しい】
そう、仄めかす篠に萌知は首を横に振るう。
しかし、一度動きだした運命の輪は止まらず、篠を守ろうとした彼女は凶弾に倒れてしまう。
起動した天秤の力により隠世に飛ばされ、記憶の大半を失ってしまった萌知。
右も左も分からない絶望的な状況化であるも突如、魔法の開花に至る。
魔術師としてではなく魔導士としての覚醒。
記憶と帰路を探す為、少女の旅程冒険譚が今、開幕する。
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。
ペーパードライバーが車ごと異世界転移する話
ぐだな
ファンタジー
車を買ったその日に事故にあった島屋健斗(シマヤ)は、どういう訳か車ごと異世界へ転移してしまう。
異世界には剣と魔法があるけれど、信号機もガソリンも無い!危険な魔境のど真ん中に放り出された島屋は、とりあえずカーナビに頼るしかないのだった。
「目的地を設定しました。ルート案内に従って走行してください」
異世界仕様となった車(中古車)とペーパードライバーの運命はいかに…
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
転移想像 ~理想郷を再現するために頑張ります~
すなる
ファンタジー
ゼネコン勤務のサラリーマンが祖父の遺品を整理している中で突如異世界に転移してしまう。
若き日の祖父が言い残した言葉に導かれ、未知の世界で奮闘する物語。
魔法が存在する異世界で常識にとらわれず想像力を武器に無双する。
人間はもちろん、獣人や亜人、エルフ、神、魔族など10以上の種族と魔物も存在する世界で
出会った仲間達とともにどんな種族でも平和に暮らせる街づくりを目指し奮闘する。
その中で図らずも世界の真実を解き明かしていく。
勇者の生まれ変わり、異世界に転生する
六山葵
ファンタジー
かつて、勇者と魔王が存在し激しい戦闘を繰り広げていた。
両者は互いに一歩譲らなかったが、やがて勇者は魔王に決定的な一撃を与える。
しかし、魔王もまた勇者に必殺の一撃を残していた。
残りわずかとなった命が絶たれる前に勇者はなんとか聖剣に魔王を封印することに成功する。
時は流れ、現代地球。
一人の青年が不慮の事故で突然命を失ってしまう。
目覚めた真っ白な部屋で青年が自称神を名乗る老人に言われた言葉は
「君は勇者の生まれ変わりなのじゃ」
であった。
これは特別な力をほとんど持たないただの青年が、異世界の様々なことに怯えながらも魔王を倒すために果敢に挑戦する。
そんな王道ファンタジーである。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる