黒狼さんと白猫ちゃん

翔李のあ

文字の大きさ
上 下
47 / 149
story .03 *** 貧窮化した村と世界的猛獣使い

scene .2 不思議な本

しおりを挟む
「間違いねぇ、受け取ったぜ」

 荷物と資料をロルフから受け取ると、リェフは中身と内容を確認し、うんうんと頷いた。

「そういやぁおめぇ達しばらくここにいんのか?」
「ええ、まぁ……徒歩でもないと村の外にも出られないと聞いたので」
「そりゃぁいい! で、どこに泊まるんだ? ちょっと頼みてぇことがあってよ」
「……!」

 ――しまった。ロルフは口元を手で押さえると、しばらく硬直した。
 元々シトラディオ・パラドには数時間の滞在予定であったため、宿泊についてすっかり失念していたのだ。

「なんだ? 俺には教えられねぇってか」

 宿泊先を答えないロルフに少しムッとした表情をすると、リェフはロルフの首に腕を回す。
 そんなリェフにちらりと視線を送ると、

「いや、えと……忘れてました」
「なんだ、そういうこった! なら家に泊まりゃぁいいじゃねぇか! 空いてる部屋ならいくらでもあるしな」

 忘れていたと答えたロルフに、リェフはいつもの様にガハハと笑うとそう言った。
 最近こそ日帰りで荷物を届ける程度だが、昔はよく泊まっていったものだ。とはいえ今回の滞在期間はおおよそ二週間。しかも二人ではなく五人だ。いくら昔からの知り合いだとは言え、長期間大人数でお世話になるというのは少し虫の良すぎる話では……どうしたものか考え始めたロルフの思考をリェフの発言が遮る。

「さぁて、飯にすっか。おめぇらもどうせ食ってないだろ?」
「いや、リェフさん。そんな……」
「気にすんな! そんな堅っ苦しい関係じゃねぇだろうよ」

 そう言ってリェフは緩んでいた腕に再度力を入れると、クルッと体の向きを外へ向けた。

「外はあの様子だぜぇ? 俺達住民ですら買い物もままならねぇ位だ。……それにほら」

 リェフが顎で示した先を見ると、店の隅にある商談用のテーブルの上に白い物体――シャルロッテが今にも溶け出しそうな程にぐったりと寄りかかっていた。隣に座っているモモが背中を撫でながら慰めている様だが、まるで耳に入っていない様子だ。

「わ……かりました」
「よっし決まりだ! ライザを呼んできてくれ」

 しぶしぶ了承したロルフの背中をバンッと叩くと、リェフはそう言った。



*****
****
***



「んで、その本が出てきたっちゅう訳よ」

 食事が済み、細長い木の枝の様なものを咥えたリェフが何やら重厚感のある本をロルフの前に置いた。
 サーカスが来団するとのことで、売れもしないのならとしまいこんでいた武具などを引っ張り出すべく、倉庫を整理していたところ出てきたそうだ。

「そういやぁと思ってな。ゴルトが探してる本っちゅうのはこういう本のことなんじゃねぇかなと」
「貰ってしまっていいんですか? 綺麗に保管されていたような雰囲気ですけど」

 倉庫にずっとしまってあったというだけあって全体的に埃っぽさはあるが、擦れや傷などもほとんどなく状態はよさそうだ。

「開けねぇんじゃな、使いようもないしな。どうせ爺さんが溜めこんだガラクタの一つだろうよ」

 ――開けない本。世の中には、何をしても開くことができない本というものが多数存在するらしい。開けないというのは、鍵がついている云々の話ではなく、ページ同士がぴったりと糊付けでもされているかのように張り付いているということである。
 なぜかゴルトはそんな本を集めているらしく、知り合いに見つけたら譲ってもらえるよう話をして回っている。

「開けもしない本なんてどうするつもりなの?」
「さぁ……」

 ゴルトのしている研究内容や集めている物は多岐にわたり過ぎていてロルフでも理解できない。この開けない本集めもそのうちの一つだ。
 興味津々という様に手を差し出してくるロロに、ロルフは本を渡した。ロロは本をどうにか開こうと表紙と裏表紙を持って引っ張ったり、表紙のみを持って振ってみたりしている。

「ほんとだわ、びくともしない……」

 しばらくすると諦めたのか、本をテーブルに放り出した。隣に座っていたクロンも遠慮がちに表紙の端っこをつまんで上に持ち上げようとしているが、本の全体が持ち上がり開くことはなかった。

「私にもやらせてよ!」

 と、そこへひょいっとライザがやってくると、本を持ち、ロロがやっていたのと同じように表紙と裏表紙を持って引っ張った。

「わぁ、ほんとだったんだ。私には貸してくんないし、てっきりパパが冗談でやってるのかと思ってたよ!」

 そう言いうとライザは更に力を込め始める。「ふぐぐぐぐ」「うりゃぁあああ」などと言いながら全力で引っ張っているが、本はびくともしない。
 そんなライザの様子を見て、このままだと開く開かないの問題ではなくなると思ったロルフは、ライザに声をかけた。

「もういいだろ? その辺でやめておけって」
「で、も……読めないんじゃ……意味、ない、んじゃぁない」
「お、おい、ライザ……」

 顔を赤くして力づくで本を開こうとするライザから本を取り返そうと、ロルフの手が触れた時だった。
 本の中心辺りのページが一瞬光り、ライザの手から飛び出すかの様に床に落下した。

「え……ロルフ今なんかした?」
「いいや」

 ロルフは眼鏡の位置を直すと、落ちた本を拾い上げようと手を伸ばす。そして違和感に気づいた。それと同時に、

「開いてる!」

 ライザが驚いたように声を上げた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~

モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎ 飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。 保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。 そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。 召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。 強制的に放り込まれた異世界。 知らない土地、知らない人、知らない世界。 不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。 そんなほのぼのとした物語。

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

ちっちゃくなった俺の異世界攻略

鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた! 精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!

転生無双なんて大層なこと、できるわけないでしょう!〜公爵令息が家族、友達、精霊と送る仲良しスローライフ〜

西園寺若葉
ファンタジー
転生したラインハルトはその際に超説明が適当な女神から、訳も分からず、チートスキルをもらう。 どこに転生するか、どんなスキルを貰ったのか、どんな身分に転生したのか全てを分からず転生したラインハルトが平和な?日常生活を送る話。 - カクヨム様にて、週間総合ランキングにランクインしました! - アルファポリス様にて、人気ランキング、HOTランキングにランクインしました! - この話はフィクションです。

飯屋の娘は魔法を使いたくない?

秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。 魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。 それを見ていた貴族の青年が…。 異世界転生の話です。 のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。 ※ 表紙は星影さんの作品です。 ※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。

異世界で買った奴隷が強すぎるので説明求む!

夜間救急事務受付
ファンタジー
仕事中、気がつくと知らない世界にいた 佐藤 惣一郎(サトウ ソウイチロウ) 安く買った、視力の悪い奴隷の少女に、瓶の底の様な分厚いメガネを与えると めちゃめちゃ強かった! 気軽に読めるので、暇つぶしに是非! 涙あり、笑いあり シリアスなおとぼけ冒険譚! 異世界ラブ冒険ファンタジー!

異世界で家族と新たな生活?!〜ドラゴンの無敵執事も加わり、ニューライフを楽しみます〜

藤*鳳
ファンタジー
 楽しく親子4人で生活していたある日、交通事故にあい命を落とした...はずなんだけど...?? 神様の御好意により新たな世界で新たな人生を歩むことに!!! 冒険あり、魔法あり、魔物や獣人、エルフ、ドワーフなどの多種多様な人達がいる世界で親子4人とその親子を護り生活する世界最強のドラゴン達とのお話です。

処理中です...