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story .02 *** 旅の始まりと時の狭間
scene .9 ロロの能力とリス族の村アルテト
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「――っくぅ……何を……」
「最初はちょっと痛いけど、我慢してね」
またしても走る激痛に顔を歪ませるロルフの顔を一瞥すると、ロロは目をつむり何かを唱えだした。
すると、ロルフの太ももにあてがわれたロロの掌に、歯車で繋がれた半透明の時計のようなものが二つ浮かび上がり、カチ、カチ、と音を立てながらそれぞれの針が逆方向に回りだす。その時計の針の回転と共に、だんだんと傷口が光り、流れ出る血液が光り、そして滴り落ちた血痕が光ると、浮かび上がっていた時計や歯車が弾けて消えた。
「はい、おしまい」
ロロは目を開けると、そう言いながらロルフの太ももから手を離した。ロルフは傷と痛みの消えた自分の太ももをさすると、ロロの顔を凝視した。驚いているのはロルフだけではない、ロロの能力を目の当たりにしたシャルロッテとモモも驚きを隠せない様子だ。
「助けてもらったんだから、当たり前だわ。……でも、ううん、だめなの。わたしの力じゃ一時的に傷を塞げるだけ。時間がたったら、また傷口が、開くの」
初めのうちはロルフの目を見ながら話しだしたロロだったが、少しずつ俯くと「こんな事になるとは思わなかったの……ごめんなさい……」そう言って肩を震わせ始めた。
ぽつり、ぽつりと、ロルフのスラックスにロロの涙が零れ落ちる。そんなロロの肩をロルフは自分の方へと寄せ、頭を撫でた。
「大丈夫だ、助かったよ。今はここを出ることを優先しよう、な?」
ロルフは小さくうなずいたロロと共に立ち上がると、皆と共に通ってきた道を戻っていった。
*****
****
***
ロロの話によると、傷口を塞いでいられるのは数十分程度だけだという。能力の効果が切れると少しずつ傷を負った状態に戻っていくそうだ。それを聞いたロルフ達は、予定通りもう目と鼻の先だというアルテトへ向かうことにした。
「アルテトには美味しいものあるかな~?」
「もう、シャルちゃんたら。先にロルフさんの傷の手当てでしょ?」
「そうだった! お薬屋さん探しが先~! クロン君はお薬屋さんの場所知ってる?」
「え、ああ、まぁ……」
つい先ほどあんな出来事があったというのに、前方を歩く三人の何とも緊張感のない会話が聞こえる。……まぁ、緊張感がないのは恐らく一名だけなのだが。
「ねぇ……怒ってないの……?」
そんな三人の後ろを歩くロルフの横で、ロロがちらちらと視線を送りながら聞く。
「……怒ってるに決まってるだろ。でもこんなところでロロを怒鳴りつけたって、状況は何にも変わらない。俺がロロ達に道案内を任せたのも要因だしな。それに、」
「それに……?」
ロルフは一度言葉を区切り眼鏡を直すと、視線をロロの方へ向け言葉を続けた。
「ロロが悪いことをしたと感じて、反省してくれているならそれでいい。あんな事はあったけど、今こうしてちゃんとアルテトへ向かえているのもロロのお陰だしな。そうだろ?」
「うん……」
ロルフはそう言って、納得のいっていなさそうなロロの頭にポンと手を乗せると、小さく笑った。
「見えてきましたよ、アルテトの出入りゲートが」
「ふぇ~? また森?」
振り向きながら言うクロンの言葉に、その隣を歩くシャルロッテが体ごと首をかしげている。
そう、アルテトは多くの木が集まり、大きな一本の木の様になっている村なのである。
警戒心の強いリス族が敵の襲来などから身を守るため、大木の中にあるような形の村を作りその周りを木々で覆うことで、ぱっと見は森にしか見えないようにしたと言われている。荒れた森からも見えてはいたが、そこに村があるとは察しの良いロルフさえ気づかなかった程である。
村からの出入り口も一ヶ所しかなく、村の中にリス族の知り合いがいるか、リス族と一緒でないと中に入ることができないため、古くからある村ながらその全容はあまり知られていていない。
クロンがゲートと呼んだそれは、その一ヶ所しかない出入り口のことで、横並びで歩くには四人がやっとという程度の幅の小さな門であった。その横には番人であろうか、何やら軽く武装したリス族の男性が立っている。
クロンとロロは素知らぬ顔で開かれている門を通り抜けると、立ち止まっていた三人にちょいちょいと手招きした。
「おいお前たち、申請が出てないみたいだが」
その様子を見ていた門番が、門の中を覗き込むようにしてクロン達に話しかける。
「あの、えと、すみません……申請は、してないんですが……」
「もう、お兄ちゃんほんと頼りないんだから。わたしが話すわ」
眼を泳がせながらそろそろと出てくるクロンの後ろから、ロロが身を乗り出すようにして門番の前に出てきた。
「なんだ、まだ子供じゃないか。申請が出てないとリス族以外は通せんぞ」
「何よ堅苦しいおじさんね! この人は怪我してるの。しかも大怪我! 早く手当てをしなくちゃいけないのよ!」
そう言って、ロロはロルフの腕を掴んでぶんぶんと振る。門番はロルフに視線を向けるが、その男のどこにも怪我など見当たらなかった。強いて言うならば、
「服の破れは怪我とは言わん。申請を通してからまた来るんだな」
「何言ってんのよ! これはわたしの能力で! ちょっと、聞きなさいよ!」
ロロは必死に門番を説得しようと身振り手振り説明するが、もう聞く気などない、門番の顔がそう物語っている。
「どうしよう……」
項垂れるようにして俯いたロロの横を、人影がスッと通った。
「最初はちょっと痛いけど、我慢してね」
またしても走る激痛に顔を歪ませるロルフの顔を一瞥すると、ロロは目をつむり何かを唱えだした。
すると、ロルフの太ももにあてがわれたロロの掌に、歯車で繋がれた半透明の時計のようなものが二つ浮かび上がり、カチ、カチ、と音を立てながらそれぞれの針が逆方向に回りだす。その時計の針の回転と共に、だんだんと傷口が光り、流れ出る血液が光り、そして滴り落ちた血痕が光ると、浮かび上がっていた時計や歯車が弾けて消えた。
「はい、おしまい」
ロロは目を開けると、そう言いながらロルフの太ももから手を離した。ロルフは傷と痛みの消えた自分の太ももをさすると、ロロの顔を凝視した。驚いているのはロルフだけではない、ロロの能力を目の当たりにしたシャルロッテとモモも驚きを隠せない様子だ。
「助けてもらったんだから、当たり前だわ。……でも、ううん、だめなの。わたしの力じゃ一時的に傷を塞げるだけ。時間がたったら、また傷口が、開くの」
初めのうちはロルフの目を見ながら話しだしたロロだったが、少しずつ俯くと「こんな事になるとは思わなかったの……ごめんなさい……」そう言って肩を震わせ始めた。
ぽつり、ぽつりと、ロルフのスラックスにロロの涙が零れ落ちる。そんなロロの肩をロルフは自分の方へと寄せ、頭を撫でた。
「大丈夫だ、助かったよ。今はここを出ることを優先しよう、な?」
ロルフは小さくうなずいたロロと共に立ち上がると、皆と共に通ってきた道を戻っていった。
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ロロの話によると、傷口を塞いでいられるのは数十分程度だけだという。能力の効果が切れると少しずつ傷を負った状態に戻っていくそうだ。それを聞いたロルフ達は、予定通りもう目と鼻の先だというアルテトへ向かうことにした。
「アルテトには美味しいものあるかな~?」
「もう、シャルちゃんたら。先にロルフさんの傷の手当てでしょ?」
「そうだった! お薬屋さん探しが先~! クロン君はお薬屋さんの場所知ってる?」
「え、ああ、まぁ……」
つい先ほどあんな出来事があったというのに、前方を歩く三人の何とも緊張感のない会話が聞こえる。……まぁ、緊張感がないのは恐らく一名だけなのだが。
「ねぇ……怒ってないの……?」
そんな三人の後ろを歩くロルフの横で、ロロがちらちらと視線を送りながら聞く。
「……怒ってるに決まってるだろ。でもこんなところでロロを怒鳴りつけたって、状況は何にも変わらない。俺がロロ達に道案内を任せたのも要因だしな。それに、」
「それに……?」
ロルフは一度言葉を区切り眼鏡を直すと、視線をロロの方へ向け言葉を続けた。
「ロロが悪いことをしたと感じて、反省してくれているならそれでいい。あんな事はあったけど、今こうしてちゃんとアルテトへ向かえているのもロロのお陰だしな。そうだろ?」
「うん……」
ロルフはそう言って、納得のいっていなさそうなロロの頭にポンと手を乗せると、小さく笑った。
「見えてきましたよ、アルテトの出入りゲートが」
「ふぇ~? また森?」
振り向きながら言うクロンの言葉に、その隣を歩くシャルロッテが体ごと首をかしげている。
そう、アルテトは多くの木が集まり、大きな一本の木の様になっている村なのである。
警戒心の強いリス族が敵の襲来などから身を守るため、大木の中にあるような形の村を作りその周りを木々で覆うことで、ぱっと見は森にしか見えないようにしたと言われている。荒れた森からも見えてはいたが、そこに村があるとは察しの良いロルフさえ気づかなかった程である。
村からの出入り口も一ヶ所しかなく、村の中にリス族の知り合いがいるか、リス族と一緒でないと中に入ることができないため、古くからある村ながらその全容はあまり知られていていない。
クロンがゲートと呼んだそれは、その一ヶ所しかない出入り口のことで、横並びで歩くには四人がやっとという程度の幅の小さな門であった。その横には番人であろうか、何やら軽く武装したリス族の男性が立っている。
クロンとロロは素知らぬ顔で開かれている門を通り抜けると、立ち止まっていた三人にちょいちょいと手招きした。
「おいお前たち、申請が出てないみたいだが」
その様子を見ていた門番が、門の中を覗き込むようにしてクロン達に話しかける。
「あの、えと、すみません……申請は、してないんですが……」
「もう、お兄ちゃんほんと頼りないんだから。わたしが話すわ」
眼を泳がせながらそろそろと出てくるクロンの後ろから、ロロが身を乗り出すようにして門番の前に出てきた。
「なんだ、まだ子供じゃないか。申請が出てないとリス族以外は通せんぞ」
「何よ堅苦しいおじさんね! この人は怪我してるの。しかも大怪我! 早く手当てをしなくちゃいけないのよ!」
そう言って、ロロはロルフの腕を掴んでぶんぶんと振る。門番はロルフに視線を向けるが、その男のどこにも怪我など見当たらなかった。強いて言うならば、
「服の破れは怪我とは言わん。申請を通してからまた来るんだな」
「何言ってんのよ! これはわたしの能力で! ちょっと、聞きなさいよ!」
ロロは必死に門番を説得しようと身振り手振り説明するが、もう聞く気などない、門番の顔がそう物語っている。
「どうしよう……」
項垂れるようにして俯いたロロの横を、人影がスッと通った。
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