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story .02 *** 旅の始まりと時の狭間
scene .7 小さな抵抗と
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「クロックハンドカッター!」
ロロがそう叫ぶと、どこからか光のブーメランのようなものが現れ、ロルフの頬を掠めて後方へ飛んでいった。そして、モモが手に持っていた緑色の物体を真っ二つにすると、弾ける様にして消えた。
「もう! 足引っ張らないでって言ったじゃない!」
「ひ、ひぇぇ……」
思わずしりもちをついたモモは、先程まで手に持っていたはずの物体をあわあわとしながら見つめている。そんなモモに向かって、ロロはドスドスと地面を踏み潰すかのように大股で近づき、両手を腰に当てキッと睨みつけた。
モモがロロの方に顔を向けると、その鼻先に左手の人差し指を突き出して言い放つ。
「いーい? ここにはモンスターが普通に存在するの! これだからぬくぬく生活圏森育ちは!」
そして、「行くわよ!」と言って振り返り歩き出した。
ロルフはシャルロッテがモモを立ち上がらせるのを確認すると、小走りでロロに近づく。
「すごいな、ロロ。助かったよ」
「あんな雑魚、わたしの手にかかればイチコロだわ!」
当たり前でしょ? と言わんばかりのドヤ顔をするロロに、ロルフは質問を続けた。
「た、頼もしいな……ところで一体何だったんだ?」
「何? 何って、ミミクリープラントよ。あんな緑のちっこいの、それしかないじゃない」
――ミミクリープラント。植物に擬態し、昆虫などを捕獲して食べるという蟲型モンスターだ。獣人に危害を加えるという話を聞いたことはないが、モンスターであることに変わりはない。疑っていたわけではないが、結界の外には本当にモンスターが存在するということを示している。
しかしモンスターとはいえ、何の気なしに生き物を殺めることができるということは、普段からこの子達は結界の外に出ている、ということか。
そんなことよりも気になることがある。ロルフが「なぁ、ロロ」と口を開きかけたとき、
「あ! 見えてきたわよ! あの森だわ!」
ロロはそう言って、前方に見えてきた森を指さした。
*****
****
***
「なんだかずいぶん薄暗い森ですね……」
ロロの案内で訪れた森は、インガンテス・フォレストに比べると確かに薄暗い森だった。いかにも何か出そうな雰囲気だ。
「ロロ、本当にここで合ってるのか?」
「あ、あってるわよ! 失礼ね!」
アルテトは一見すると森に見えるような村で、リス族以外をあまり寄せ付けないようにしているとは聞いたことがあるが、こんなにも整備されていないものだろうか。
枯れた植物や、なぎ倒されたような木の残骸が色々なところに散らばっている。
「シャル、絶対に離れるなよ」
ロルフは一番の懸念材料であるシャルロッテにくぎを刺すべく、振り返りそう言った。……が、シャルロッテの姿が見当たらない。
「……シャルはどこだ?」
「あ、あれ? さっきまで隣にいたのに……」
ロルフの後ろを歩いていたモモが不思議そうに周りを見渡す。
――まずい……こんなところではぐれたら再会できる気がしない。ロルフは耳を澄ますと、鈴の音を探した。昔からよく迷子になるシャルロッテを見失わないように、尻尾に鈴をつけてあるのだ。これだけ静かな場所ならある程度遠くへ行ってしまっていても簡単に聞き取れるであろう。
すると、鈴の音ではないが、近くからシャリシャリと枯葉を踏むような音が聞こえた。ロルフはそっとその音に近づくと、茂みの切れ間から向こう側を覗き込んだ。
「――何してるんだ、シャル……」
「あ、ロルフ! いいもの見つけたんだぁ」
ロルフの心配を余所に、シャルロッテは楽しそうに手に持ったものをひらひらをさせながら近づいてくる。
「よかったぁ。近くにいたのね、シャルちゃん」
「もう! 何してんのよ、置いてくわよ!」
「ごめんなさぁい」
ロルフは嬉しそうにしているシャルロッテの頭をぽんぽんと叩くと、「離れるんじゃないぞ」と伝え最後尾についた。これなら知らぬ間にどこかへ消えてしまうことはないだろう。
そして一行は更に森の奥へと進んでいく。
「ねぇねぇ、いつになったらつくのかな、なんだか暗くなってきたよ?」
「そうね……もう夕方だからかな? ロロちゃん、あとどれくらいで……」
「帰ったら? 文句言うなら、帰ってもいいのよ」
そう言いながら、ロロは手をひらひらと振る。隣を歩いているクロンが心配そうにロロを見つめているが、そんな事お構いなしという様子だ。
そんな中、ロルフは違和感を覚え振り返った。土の上に落ちている緑や茶色の葉の隙間から、何やら白いものが顔を覗かせている。通り過ぎる前は木の根かとも思ったが、色が白すぎる気がする。
「ちょっと待ってくれ」
「さっきから何なのよ! どいつもこいつも……」
「しっ……」
大きな声で文句を言うロロに向かって人差し指を立てると、ロルフは先程の白い物体に近づきしゃがみ込んだ。よく見ると、付近の葉や枝が黒く焦げついている。
そして、物体の周りに乗った土や枯葉を手で軽く叩き落とし、過った可能性を確かめるべくシャルロッテに問いかけた。
「これは……シャル、さっき拾ったって言ってたのはもしかして……」
「ん? これのこと?」
ロルフはシャルロッテが手に持つ羽根を確認すると、背筋が凍りついていくのを感じた。
ロロがそう叫ぶと、どこからか光のブーメランのようなものが現れ、ロルフの頬を掠めて後方へ飛んでいった。そして、モモが手に持っていた緑色の物体を真っ二つにすると、弾ける様にして消えた。
「もう! 足引っ張らないでって言ったじゃない!」
「ひ、ひぇぇ……」
思わずしりもちをついたモモは、先程まで手に持っていたはずの物体をあわあわとしながら見つめている。そんなモモに向かって、ロロはドスドスと地面を踏み潰すかのように大股で近づき、両手を腰に当てキッと睨みつけた。
モモがロロの方に顔を向けると、その鼻先に左手の人差し指を突き出して言い放つ。
「いーい? ここにはモンスターが普通に存在するの! これだからぬくぬく生活圏森育ちは!」
そして、「行くわよ!」と言って振り返り歩き出した。
ロルフはシャルロッテがモモを立ち上がらせるのを確認すると、小走りでロロに近づく。
「すごいな、ロロ。助かったよ」
「あんな雑魚、わたしの手にかかればイチコロだわ!」
当たり前でしょ? と言わんばかりのドヤ顔をするロロに、ロルフは質問を続けた。
「た、頼もしいな……ところで一体何だったんだ?」
「何? 何って、ミミクリープラントよ。あんな緑のちっこいの、それしかないじゃない」
――ミミクリープラント。植物に擬態し、昆虫などを捕獲して食べるという蟲型モンスターだ。獣人に危害を加えるという話を聞いたことはないが、モンスターであることに変わりはない。疑っていたわけではないが、結界の外には本当にモンスターが存在するということを示している。
しかしモンスターとはいえ、何の気なしに生き物を殺めることができるということは、普段からこの子達は結界の外に出ている、ということか。
そんなことよりも気になることがある。ロルフが「なぁ、ロロ」と口を開きかけたとき、
「あ! 見えてきたわよ! あの森だわ!」
ロロはそう言って、前方に見えてきた森を指さした。
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「なんだかずいぶん薄暗い森ですね……」
ロロの案内で訪れた森は、インガンテス・フォレストに比べると確かに薄暗い森だった。いかにも何か出そうな雰囲気だ。
「ロロ、本当にここで合ってるのか?」
「あ、あってるわよ! 失礼ね!」
アルテトは一見すると森に見えるような村で、リス族以外をあまり寄せ付けないようにしているとは聞いたことがあるが、こんなにも整備されていないものだろうか。
枯れた植物や、なぎ倒されたような木の残骸が色々なところに散らばっている。
「シャル、絶対に離れるなよ」
ロルフは一番の懸念材料であるシャルロッテにくぎを刺すべく、振り返りそう言った。……が、シャルロッテの姿が見当たらない。
「……シャルはどこだ?」
「あ、あれ? さっきまで隣にいたのに……」
ロルフの後ろを歩いていたモモが不思議そうに周りを見渡す。
――まずい……こんなところではぐれたら再会できる気がしない。ロルフは耳を澄ますと、鈴の音を探した。昔からよく迷子になるシャルロッテを見失わないように、尻尾に鈴をつけてあるのだ。これだけ静かな場所ならある程度遠くへ行ってしまっていても簡単に聞き取れるであろう。
すると、鈴の音ではないが、近くからシャリシャリと枯葉を踏むような音が聞こえた。ロルフはそっとその音に近づくと、茂みの切れ間から向こう側を覗き込んだ。
「――何してるんだ、シャル……」
「あ、ロルフ! いいもの見つけたんだぁ」
ロルフの心配を余所に、シャルロッテは楽しそうに手に持ったものをひらひらをさせながら近づいてくる。
「よかったぁ。近くにいたのね、シャルちゃん」
「もう! 何してんのよ、置いてくわよ!」
「ごめんなさぁい」
ロルフは嬉しそうにしているシャルロッテの頭をぽんぽんと叩くと、「離れるんじゃないぞ」と伝え最後尾についた。これなら知らぬ間にどこかへ消えてしまうことはないだろう。
そして一行は更に森の奥へと進んでいく。
「ねぇねぇ、いつになったらつくのかな、なんだか暗くなってきたよ?」
「そうね……もう夕方だからかな? ロロちゃん、あとどれくらいで……」
「帰ったら? 文句言うなら、帰ってもいいのよ」
そう言いながら、ロロは手をひらひらと振る。隣を歩いているクロンが心配そうにロロを見つめているが、そんな事お構いなしという様子だ。
そんな中、ロルフは違和感を覚え振り返った。土の上に落ちている緑や茶色の葉の隙間から、何やら白いものが顔を覗かせている。通り過ぎる前は木の根かとも思ったが、色が白すぎる気がする。
「ちょっと待ってくれ」
「さっきから何なのよ! どいつもこいつも……」
「しっ……」
大きな声で文句を言うロロに向かって人差し指を立てると、ロルフは先程の白い物体に近づきしゃがみ込んだ。よく見ると、付近の葉や枝が黒く焦げついている。
そして、物体の周りに乗った土や枯葉を手で軽く叩き落とし、過った可能性を確かめるべくシャルロッテに問いかけた。
「これは……シャル、さっき拾ったって言ってたのはもしかして……」
「ん? これのこと?」
ロルフはシャルロッテが手に持つ羽根を確認すると、背筋が凍りついていくのを感じた。
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