29 / 149
story .02 *** 旅の始まりと時の狭間
scene .5 ロロの目的
しおりを挟む「何、あの子! あんなにおっきな声出しちゃって。ばっかじゃないの、子供みたい!」
ロロはテーブルに落としてしまった赤い果実を紙ナプキンで掴み取ると、キッと声の主を遠目でにらみつける。
何事かとざわつく店内の客たちの声に、ロルフはこめかみに手を当て目を伏せた。こればかりはロロの言う通りである。声の主は他でもない、シャルロッテだった。
シャルロッテは、他の客の視線などものともせずに店に入ってくると、ロルフの方へずんずんと歩いてくる。その後ろを縮こまりながら歩くモモの姿は何とも不憫だ。そして、シャルロッテはロルフの前にたどり着くと、
「ずるいずるいずるいー! ロルフのばかー!」
そう言い放った。
「え、何? おじさんの知り合い?」
ロロはそう言いながらロルフに白い目を向ける。クロンはと言うと、引きつった顔で現れた二人を見つめていた。
シャルロッテの後ろでは、ロロの言葉を聞いたモモが、
「おじさん? ロルフさんって兄弟がいらっしゃったんですね!」
と言いながら、まぁ! というように手を胸の前で合わせ「私は一人っ子なので兄弟とても憧れです~」と目を輝かせたり、「あ、でもシャルちゃんも妹か! あれ? でも二人はリス族?」と頭の上にハテナマークを浮かべたりしている。こちらはこちらで何やら暴走を始めたようだ。
「おい、待った待った。とりあえずシャル、ストップ」
ロルフは、自分の肩を掴んで大きくゆすり始めたシャルロッテの手を離しながら言った。
「好きなもの頼んでいいから、な?」
「わーい! ありがとうロルフー! すみませーん!」
ロルフの言葉に、シャルロッテはコロっと態度を変えて席につく。今までの駄々っ子具合が嘘のようだ。
そしてロルフは、ロロとクロンを不思議そうに見比べているモモをシャルロッテの隣の椅子に座らせ、二人と出会った経緯を小さな声で説明した。
「二人を親御さんの元へ送り届けようと思うんだが……」
「なかなか口を割ってくれない、と」
モモは顎に手をあてて「う~ん」と小さく唸る。小さな子供の扱いに慣れていそうなモモでも良案は浮かばないようだ。
すると、パフェを食べ終わり暇になったのか、ロロが二人に突っかかってきた。
「二人でこそこそしちゃて嫌な感じだわ! わたし達の口を割らせようったってそうはいかないんだから!」
「いや、二人が親戚ではないって話をだな……」
「ふぅん、それで? じゃぁもう行っていいのかしら! わたし達は忙しいの!」
相変わらず威勢のよいロロの言葉に、少したじろぎながらもロルフは質問を投げかけた。
「ロロは世界図書館に行きたかったんだよな。その後はどうするつもりだったんだ?」
「どうって、別のたいり……」
騒ぎのお陰か、パフェのお陰か、両親の話題ではないことに気が緩んだのか、「別の大陸」という言葉を途中まで口にしてしまい、ロロはハッとして口を手で押さえた。
飛び出してきた単語が、考えもしなかったものであったことに驚いたが、ロルフはそのまま畳み掛けることにした。これは両親の居場所を聞き出すチャンスかもしれない。
「世界図書館へ行ったって、ここに戻ってくる船しか出ていないんだぞ?」
「そ、そんなの知ってるもの。わたしは別に、調べもの……そう、わたしは調べたいことがあるから世界図書館に行きたかったのよ!」
「なるほど……そうか、わかった。それなら、俺が親御さんに許可をもらった上で連れていく。それならいいな?」
「う……」
「クロンもそれでいいか?」
「あ、はい! そうします。ね、ロロ?」
虚勢を張っていても子供は子供らしい。逃げ場がないとわかると、ロロは小さな頬をいっぱいに膨らませてむくれながらも、
「わかった……」
と小さな声で頷いた。
0
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説
「宮廷魔術師の娘の癖に無能すぎる」と婚約破棄され親には出来損ないと言われたが、厄介払いと嫁に出された家はいいところだった
今川幸乃
ファンタジー
魔術の名門オールストン公爵家に生まれたレイラは、武門の名門と呼ばれたオーガスト公爵家の跡取りブランドと婚約させられた。
しかしレイラは魔法をうまく使うことも出来ず、ブランドに一方的に婚約破棄されてしまう。
それを聞いた宮廷魔術師の父はブランドではなくレイラに「出来損ないめ」と激怒し、まるで厄介払いのようにレイノルズ侯爵家という微妙な家に嫁に出されてしまう。夫のロルスは魔術には何の興味もなく、最初は仲も微妙だった。
一方ブランドはベラという魔法がうまい令嬢と婚約し、やはり婚約破棄して良かったと思うのだった。
しかしレイラが魔法を全然使えないのはオールストン家で毎日飲まされていた魔力増加薬が体質に合わず、魔力が暴走してしまうせいだった。
加えて毎日毎晩ずっと勉強や訓練をさせられて常に体調が悪かったことも原因だった。
レイノルズ家でのんびり過ごしていたレイラはやがて自分の真の力に気づいていく。
異世界に転生したので幸せに暮らします、多分
かのこkanoko
ファンタジー
物心ついたら、異世界に転生していた事を思い出した。
前世の分も幸せに暮らします!
平成30年3月26日完結しました。
番外編、書くかもです。
5月9日、番外編追加しました。
小説家になろう様でも公開してます。
エブリスタ様でも公開してます。
一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?
たまご
ファンタジー
アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。
最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。
だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。
女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。
猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!!
「私はスローライフ希望なんですけど……」
この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。
表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。
【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!
楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。
(リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……)
遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──!
(かわいい、好きです、愛してます)
(誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?)
二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない!
ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。
(まさか。もしかして、心の声が聞こえている?)
リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる?
二人の恋の結末はどうなっちゃうの?!
心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。
✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。
✳︎小説家になろうにも投稿しています♪
当て馬悪役令息のツッコミ属性が強すぎて、物語の仕事を全くしないんですが?!
犬丸大福
ファンタジー
ユーディリア・エアトルは母親からの折檻を受け、そのまま意識を失った。
そして夢をみた。
日本で暮らし、平々凡々な日々の中、友人が命を捧げるんじゃないかと思うほどハマっている漫画の推しの顔。
その顔を見て目が覚めた。
なんと自分はこのまま行けば破滅まっしぐらな友人の最推し、当て馬悪役令息であるエミリオ・エアトルの双子の妹ユーディリア・エアトルである事に気がついたのだった。
数ある作品の中から、読んでいただきありがとうございます。
幼少期、最初はツラい状況が続きます。
作者都合のゆるふわご都合設定です。
1日1話更新目指してます。
エール、お気に入り登録、いいね、コメント、しおり、とても励みになります。
お楽しみ頂けたら幸いです。
***************
2024年6月25日 お気に入り登録100人達成 ありがとうございます!
100人になるまで見捨てずに居て下さった99人の皆様にも感謝を!!
2024年9月9日 お気に入り登録200人達成 感謝感謝でございます!
200人になるまで見捨てずに居て下さった皆様にもこれからも見守っていただける物語を!!
2025年1月6日 お気に入り登録300人達成 感涙に咽び泣いております!
ここまで見捨てずに読んで下さった皆様、頑張って書ききる所存でございます!これからもどうぞよろしくお願いいたします!
婚約者に嫌われているようなので離れてみたら、なぜか抗議されました
花々
恋愛
メリアム侯爵家の令嬢クラリッサは、婚約者である公爵家のライアンから蔑まれている。
クラリッサは「お前の目は醜い」というライアンの言葉を鵜呑みにし、いつも前髪で顔を隠しながら過ごしていた。
そんなある日、クラリッサは王家主催のパーティーに参加する。
いつも通りクラリッサをほったらかしてほかの参加者と談笑しているライアンから離れて廊下に出たところ、見知らぬ青年がうずくまっているのを見つける。クラリッサが心配して介抱すると、青年からいたく感謝される。
数日後、クラリッサの元になぜか王家からの使者がやってきて……。
✴︎感想誠にありがとうございます❗️
✴︎ネタバレ見たくない人もいるかなと思いつつタグ追加してみました。後でタグ消すかもしれません❗️
公爵家の隠し子だと判明した私は、いびられる所か溺愛されています。
木山楽斗
恋愛
実は、公爵家の隠し子だったルネリア・ラーデインは困惑していた。
なぜなら、ラーデイン公爵家の人々から溺愛されているからである。
普通に考えて、妾の子は疎まれる存在であるはずだ。それなのに、公爵家の人々は、ルネリアを受け入れて愛してくれている。
それに、彼女は疑問符を浮かべるしかなかった。一体、どうして彼らは自分を溺愛しているのか。もしかして、何か裏があるのではないだろうか。
そう思ったルネリアは、ラーデイン公爵家の人々のことを調べることにした。そこで、彼女は衝撃の真実を知ることになる。
魔技師のマギシ
あーく
ファンタジー
異世界ファンタジーの設定で、このような疑問は生じないだろうか?
釜戸を使って食事を作り、鍬で畑を耕し、馬車で移動する。
魔法が存在するのに、魔法を使わないのか?と。
マギシは魔法を利用した道具を作っている魔技師だ。
生活は便利になるが、斬新さが受け入れられない人もいることに気付く。
その葛藤に悩みながらも成長していく。
クラフト系異世界ファンタジー
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる