黒狼さんと白猫ちゃん

翔李のあ

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story .01 *** うさぎと薬草と蛇

scene .13 ココット・アルクス

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 ――?



 ――っ?



「モモーっ?」
「ふぇぁ……!」

 モモが目を開けると、目前にシャルロッテの顔があった。それがあまりにも近かったので、びっくりして変な声が出てしまった。

「あっ起きたー! おはよーモモ! ロルフー、モモ起きたよー!」

 そう言ってシャルロッテはロルフの方へ向かったのだろうか、どこかへパタパタと走っていく。

「ここは……?」

 見覚えのない天井に、モモはボソッと呟く。

「私……ん……?」

 そう言えば先ほどから、左手に何か重さを感じる。軽く首をひねり見てみると、小さなウサギ族の女の子が、モモの左手をぎゅっと握りしめて、布団に体を預けるようにして眠っていた。
 ――そっか、私、守ってあげられたんだ。モモは、ゆっくりと体を起こすと少女の頬を右手で撫でる。
 あの時、とっさに少女を抱きしめた後、モモは「この子を守って」そう祈った。眠り草たちに、力を貸してほしい、そう強く願ったのだ。
 午前に目的もなく発動した時は、訳も分からず暴走させてしまう形になったが、少女を守りたい、その願いが眠り草に届いたようで、村の周辺に生えていた眠り草たちが、モモと少女をフクロモモンガ達から守るように包み込み、睡眠ガスを噴射した。そして、飛び掛かろうとしていたフクロモモンガ達を眠らせることに成功した。午前の時よりもたくさんの眠り草の力を借り、睡眠ガスの効果が濃縮されていたおかげで、周りにいたシャルロッテやロルフも眠ってしまったのだが、能力発動後すぐに気を失ってしまったモモの知るところではない。

「モモ、具合はどうだ?」

 そう言いながら、ロルフが部屋に入ってきた。

「何ともありません。……あの後、どうなったんですか?」
「いや……悪いが俺もよく覚えてないんだ」

 ロルフは珍しく少し照れたようにそう言うと、話題を変えようと思ったのか、少女の方へ視線をずらす。

「自分の部屋に連れて行くと言って聞かなくてな……その後も泣きながら、ずっとモモから離れようとしなかったんだ」

 この部屋は少女の部屋らしい。確かに、モモに対してベッドが少し小さい気がする。モモは、止まっていた少女を撫でる手を再開させ、質問した。

「私はどれくらい眠っていたんでしょう……?」
「丸一日といったところだな、今まで……」
「今まで能力の存在を知りもしなかったモモが、いきなり最大気力で能力を使ったからの」

 ゴルトがロルフの台詞を遮って説明をしながら、部屋に入ってきた。そして、「ほれ」と言いながら、モモに向かって何かを軽く放る。
 モモはベッドの上に落ちたものを拾うと、まじまじと見つめた。ピンク色のもこもこにお花の飾りがついている。

「これは……?」
「能力調整用のリストバンドじゃ。そうバタバタと卒倒されては困るからの。他の能力使いの力を調整できるロルフの力をちょいと組み込ませてある。それをしておれば、意図せず高気力を浪費せぬようになるであろ」
「あ、ありがとうございます……!」

 確かに、能力を使おうとする度に倒れてしまっては、元も子もない。自分で能力を制御できるようになるまではつけておいた方がよいだろう。それにしても、お世話になってばかりだな……モモは自分の未熟さに気を落とす。

「ん……おねえちゃん?」

 少女が目を覚ましたのか、目をこすりながら辺りを見回している。そして起き上がっているモモの姿を見ると、少女は満面の笑みに変わり「おねえちゃん! よかった!」とモモに飛びついた。

「ふふ、無事でよかった」

 モモがそう言って少女を抱きしめると、ゴルトは「童はどうも苦手での」とつぶやく。そして、

「昔から変わらぬ良い村じゃ。守っておやり。そなたのよき居場所でもあるようだしの」

 と言ってモモに小さく微笑むと、そそくさと部屋を後にした。



*****
****
***



 その後、モモの体調に問題がないことを確認したロルフ達は、遅くなる前に屋敷へ戻ることにした。モモは少女に切望されたため、今日は少女の家に泊まるそうだ。

「それにしても何が目的であの女はココット・アルクスを襲撃したんだ……」

 帰り道、ロルフは疑問に思ったことをぽそっと呟く。

「お稽古って言ってたよね、本番が何とかって」
「ああ、よく覚えていたな」

 ロルフもそこが引っかかっていた。本番がある、と言ったということは、他の村や街を襲撃するという意味で間違いないだろう。何が目的で、なぜ動物を使ったのか。そして、跡形もなく消えてしまった彼女やモモンガたちはどこへ行ったのか。ゴルトにも意見を聞こうと視線を向けると、フイッとそっぽを向いてしまった。
 ――はぁ、面倒なお方だ……ロルフは小さく首を振る。ゴルトが屋敷に来る前、魔術水晶にでも連絡をしたのだろう。おそらく、反応をしてもらえなかったことを根に持っているのだ。

「電話を鳴らしてくれればよかったんだけどな……」
「ふん、あんなチンケなものは使わぬ」

 「わかっておるじゃろうが」そう言ってゴルトは手の甲でパシッとロルフの頭を叩く。
 ゴルトは、なぜか文明の利器や科学などを毛嫌いするのだ。

「緊急の連絡の時に限って応答せぬくせに、デンワを使えと申す。育ててもらった親に対してなんという仕打ちじゃ」
「悪かったって」
「ふんっ」

 ここまで拗ねてしまったゴルトに意見を求めても、まともに返してくれないのはよくわかっている。

「ねーねー! 今日の夜ご飯はパンケーキがいいな!」
「朝もパンケーキじゃなかったか……?」
「あれ、そだっけ? でもいーの! パンケーキが食べたい気分~!」

 そう言ってシャルロッテはゴルトがドアの鍵を開けるのをそわそわしながら待っている。いつの間にか屋敷の前にたどり着いていたようだ。
 ――とりあえず今日は、モモの能力を知れただけでも良しとするか。ロルフはそう考えると、二人に続けて屋敷に入っていった。
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