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story .01 *** うさぎと薬草と蛇
scene .10 能力開花?
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「ありがとうございました。またいらしてくださいね」
「モモちゃんもお大事にねぇ」
休み明けにお店に帰ると、常連さん達が次々とお見舞いに来てくれた。ココット・アルクスは小さな村なので、噂がすぐに広まるのだ。
「ふぅ……」
十日程度ではあったが、急なお休みだったので皆とても心配してくれた。――温かいなぁ。テーブルの上に積まれたお見舞いの品々を見てモモは思う。
コンメル・フェルシュタットのように、沢山の人がいて、大きくて、活気のある街も素敵だけれど、やっぱり小さくても温かいココット・アルクスにいると、とても落ち着く。私が必要とされている、そう思うことができる。
「さて、と」
モモは一息つくと立ち上がり、何やら出かける準備を始めた。明日から、午前中にロルフ達と能力を制御するための特訓をすることになったからである。
ロルフやシャルロッテとは能力タイプが違うので調べ物をするのに一週間くれと言われたが、モモは早く能力を制御できるようになりたかったため、手探りになってもよいからと明日からにしてもらった。ニュンフェ達のために、できるだけ早く制御できるようにならないといけないのだ。
「よしっ」
荷物をまとめ終わると、モモはぐっとこぶしを握り、気合を入れた。
*****
****
***
「ロルフー眠り草持ってきたよー」
「よし、そこに置いておいてくれ」
「はーい!」
翌日、モモはロルフ達の屋敷の庭で、二人を眺めていた。正確に言うとただ眺めている訳ではないのだが、椅子に座らされて、色々な植物を入れ替わり立ち替わり持たされているだけなので、結果的にぼーっとしているだけになってしまっている。
二人が能力を使うように、念力を送るような練習をするのかと思っていたモモは、拍子抜けしていた。
――こんな事で能力を制御できるようになるのかな……少し不安になってくる。そして、ロルフが渡してきた新しい植物を受け取った。モモもよく見慣れた眠り草だ。睡眠薬などに加工して使う植物である。――この子がこう、にょきにょきって伸びたり……
「?」
眠り草が不自然に揺れた気がした。
すると、さっきまでモモの周りをぐるぐると走り回っていたニュンフェ達が、鼻をひくつかせてこちらを覗き込んでくる。
「ん? どうしたの?」
モモが、眠り草を持っていない方の手をニュンフェ達に向かって差し伸べた時だった。
「あなたのお役に立ちましょう」
「ふぇ?」
どこからか女の人の声がした気がしたので周りを見渡したが、誰もいない。不思議に感じたのは、話しかけられた、というより、声が頭の中に響いたような感覚だったためだろうか。ウサギ族はニュンフェを通して植物と会話できるとはいえ、それは感覚的な事で、はっきりと言葉で会話できるという訳ではない。今のように、言葉としてしっかり聞こえる、ということはないのだ。
――一体何だったんだろう。
突然そわそわし始めたモモに気が付いたのか、ロルフがこちらを見る。すると、驚いたように目を見開いた。視線の先を追うと、先ほど持たされた眠り草が――発光している。
薬剤師という職業柄、幾度となく眠り草を扱ってきたが、発光する眠り草など見たことがない。それどころか、文献で見たり、話に聞いたりしたこともない。
「ふ、ふわぁ……!」
何が起きているのかわからず、モモは思わず眠り草から手を離してしまった。
すると、ロルフがモモに近づくが早いか、地面に落ちた眠り草が急激に成長し始めた。
「⁉」
眠り草はみるみる成長し、モモの方へ勢い良く伸びていく。
「モモ!」
モモは何が起きたのかわからなかった。急に足元が浮いたかと思うと、自分の周りを眠り草が取り巻き始めたのだ。
気づくとモモは、すっかり球状になった眠り草の中に閉じ込められていた。
「モモ! 大丈夫か⁉」
「モモ眠り草に食べられちゃったの…?」
騒ぎに気づいて駆けつけてきたシャルロッテが、ロルフに質問する。
「いや……そんなはずはない……眠り草の気力は最低レベルのはずだ……」
「そんなはずはない」そうは言ったものの、経験や知識が足りないため、断言は出来なかった。
ロルフはシャルロッテに指示を出す。
「シャル、ファイアボールだ。中にはモモがいる、手加減して頼む」
「うん、わかった!」
元気よく返事をすると、シャルロッテは手のひらを下に向けた。すると、手の中で何か小さなものが光ると同時に、こぶし程の大きさの火の玉が浮き出てきた。そしてシャルロッテは、その火の玉を眠り草でできた球体にいくつか投げつけた。
しかし、「ジュッ」という音と共に、シャルロッテの投げた火の玉は打ち消されてしまう。
「ロルフどうしよう! 当たんないよ!」
――水を噴射してるのか? どうすればいい……この平和な時代に、実戦など行ったことはない。植物相手などもっての外だ。
ロルフが思考を巡らせていると、
「ロルフ! 何か出てきたよ!」
眠り草の球体から、何やら煙のようなものが噴射されていた。
「シャル! 下がれ!」
そう命じるも束の間、ロルフの方へ振り向こうとしたシャルロッテが膝から崩れ落ちた。
――くそっ、また俺の力不足でっ……後悔の念に駆られるロルフの意識も朦朧とする。そして、寸刻も過ぎることなくその場に倒れ込んだ。
「モモちゃんもお大事にねぇ」
休み明けにお店に帰ると、常連さん達が次々とお見舞いに来てくれた。ココット・アルクスは小さな村なので、噂がすぐに広まるのだ。
「ふぅ……」
十日程度ではあったが、急なお休みだったので皆とても心配してくれた。――温かいなぁ。テーブルの上に積まれたお見舞いの品々を見てモモは思う。
コンメル・フェルシュタットのように、沢山の人がいて、大きくて、活気のある街も素敵だけれど、やっぱり小さくても温かいココット・アルクスにいると、とても落ち着く。私が必要とされている、そう思うことができる。
「さて、と」
モモは一息つくと立ち上がり、何やら出かける準備を始めた。明日から、午前中にロルフ達と能力を制御するための特訓をすることになったからである。
ロルフやシャルロッテとは能力タイプが違うので調べ物をするのに一週間くれと言われたが、モモは早く能力を制御できるようになりたかったため、手探りになってもよいからと明日からにしてもらった。ニュンフェ達のために、できるだけ早く制御できるようにならないといけないのだ。
「よしっ」
荷物をまとめ終わると、モモはぐっとこぶしを握り、気合を入れた。
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「ロルフー眠り草持ってきたよー」
「よし、そこに置いておいてくれ」
「はーい!」
翌日、モモはロルフ達の屋敷の庭で、二人を眺めていた。正確に言うとただ眺めている訳ではないのだが、椅子に座らされて、色々な植物を入れ替わり立ち替わり持たされているだけなので、結果的にぼーっとしているだけになってしまっている。
二人が能力を使うように、念力を送るような練習をするのかと思っていたモモは、拍子抜けしていた。
――こんな事で能力を制御できるようになるのかな……少し不安になってくる。そして、ロルフが渡してきた新しい植物を受け取った。モモもよく見慣れた眠り草だ。睡眠薬などに加工して使う植物である。――この子がこう、にょきにょきって伸びたり……
「?」
眠り草が不自然に揺れた気がした。
すると、さっきまでモモの周りをぐるぐると走り回っていたニュンフェ達が、鼻をひくつかせてこちらを覗き込んでくる。
「ん? どうしたの?」
モモが、眠り草を持っていない方の手をニュンフェ達に向かって差し伸べた時だった。
「あなたのお役に立ちましょう」
「ふぇ?」
どこからか女の人の声がした気がしたので周りを見渡したが、誰もいない。不思議に感じたのは、話しかけられた、というより、声が頭の中に響いたような感覚だったためだろうか。ウサギ族はニュンフェを通して植物と会話できるとはいえ、それは感覚的な事で、はっきりと言葉で会話できるという訳ではない。今のように、言葉としてしっかり聞こえる、ということはないのだ。
――一体何だったんだろう。
突然そわそわし始めたモモに気が付いたのか、ロルフがこちらを見る。すると、驚いたように目を見開いた。視線の先を追うと、先ほど持たされた眠り草が――発光している。
薬剤師という職業柄、幾度となく眠り草を扱ってきたが、発光する眠り草など見たことがない。それどころか、文献で見たり、話に聞いたりしたこともない。
「ふ、ふわぁ……!」
何が起きているのかわからず、モモは思わず眠り草から手を離してしまった。
すると、ロルフがモモに近づくが早いか、地面に落ちた眠り草が急激に成長し始めた。
「⁉」
眠り草はみるみる成長し、モモの方へ勢い良く伸びていく。
「モモ!」
モモは何が起きたのかわからなかった。急に足元が浮いたかと思うと、自分の周りを眠り草が取り巻き始めたのだ。
気づくとモモは、すっかり球状になった眠り草の中に閉じ込められていた。
「モモ! 大丈夫か⁉」
「モモ眠り草に食べられちゃったの…?」
騒ぎに気づいて駆けつけてきたシャルロッテが、ロルフに質問する。
「いや……そんなはずはない……眠り草の気力は最低レベルのはずだ……」
「そんなはずはない」そうは言ったものの、経験や知識が足りないため、断言は出来なかった。
ロルフはシャルロッテに指示を出す。
「シャル、ファイアボールだ。中にはモモがいる、手加減して頼む」
「うん、わかった!」
元気よく返事をすると、シャルロッテは手のひらを下に向けた。すると、手の中で何か小さなものが光ると同時に、こぶし程の大きさの火の玉が浮き出てきた。そしてシャルロッテは、その火の玉を眠り草でできた球体にいくつか投げつけた。
しかし、「ジュッ」という音と共に、シャルロッテの投げた火の玉は打ち消されてしまう。
「ロルフどうしよう! 当たんないよ!」
――水を噴射してるのか? どうすればいい……この平和な時代に、実戦など行ったことはない。植物相手などもっての外だ。
ロルフが思考を巡らせていると、
「ロルフ! 何か出てきたよ!」
眠り草の球体から、何やら煙のようなものが噴射されていた。
「シャル! 下がれ!」
そう命じるも束の間、ロルフの方へ振り向こうとしたシャルロッテが膝から崩れ落ちた。
――くそっ、また俺の力不足でっ……後悔の念に駆られるロルフの意識も朦朧とする。そして、寸刻も過ぎることなくその場に倒れ込んだ。
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