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story .01 *** うさぎと薬草と蛇
scene .5 狂暴動物と異能力
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「はぁっ、はぁっ……」
寒空の中、汗だくの幼い少年が息を切らして森の中を駆け抜けていく。
しばらく走った後、疲れたのか足を止め、後ろを振り返った。
「もう……だいじょうぶ……?」
そう呟いた少年の表情は強張っており、強く握りしめた手も震えている。何かに怯えているようだ。
はぁ、はぁ、と切れた息を整えながら、じっと走ってきた方向を見つめている。
そして、呼吸が整ってきた頃、ふぅー、と深くため息をつき、向かっていた方向にゆっくりと歩き出した。どうやら難は去った様だ。
「こんなことなら、とーちゃんと一緒に来ればよかった……」
ボソッと言ったところで、少年はびくっと体を震わせて立ち止まった。
「また……?」
そう言って再び歩いてきた道を振り返る。しかし、何も見当たらない。気のせいか――と思った時だった。
「ギー! ギー!」という鳴き声と共に、木の間から何やら小さな動物が、少年に向かって飛んできた。少年が間一髪のところで避けると、動物は少年の後ろにあった木にとまる。そして、威嚇しながら再び少年にとびかかろうと体制を変更し始めた。
「なんなんだよ、いったい! 僕が何をしたっていうんだ!」
目に涙を浮かべながら、そう叫び少年はまた走り出す。しかし、先ほどの疲れが癒えていないからか、徐々にスピードが落ちていく。「ギー! ギー!」すぐ後ろで動物の鳴き声が聞こえ、もうだめだ、そう諦めかけた時だった。
茂みを飛び越えて黒いスーツ姿の男性が出てくると、右手を少年の上部に向け、「こっちだ!」と左手を差し出してきた。少年が必死の形相でその手を取ると、男性は、かばう様に少年を自分の後ろへと立たせた。
少年に飛びつこうとしていた動物は、まるで何かに後ろへ引っ張られているかのように空中で停止している。だが、未だ少年に飛び掛かるつもりなのか、羽ばたきを止めようとはせず、牙をむき出したまま鳴き続ける。
「シャル! フリージング!」
「まっかせてー!」
男性が茂みの中に指示すると、女の子の声と共に、茂みの中から何やら冷気のようなものが噴き出し、動物に命中した。すると動物はやっと動きを止め、コロンと地面へと落下した。その姿は、飛んでいたときと同じままの体制だったが、まるで冷凍された食品かのように凍り付いていて、キラキラと光を反射している。
少年が呆然と落ちた動物を見つめていると、
「よくやったな、シャル」
「えっへへー」
嬉しそうにそう言いながら、白いワンピースの女の子が、ピンクのスカートの女の子の手を引きながら茂みから出てきた。
何が起こったのかわからなかったが、自分を襲おうとしていた動物から解放されたと知り、少年はへなへなとその場に崩れ落ちる。
「大丈夫か? 怪我は?」
男性が少年の前にしゃがみ込みながらそう尋ねると、少年はふるふると首を振りながら、「だいじょうぶ」と答えた。
その答えに男性は少年の頭を撫で、「よし、よく頑張ったな」と微笑む。そして、女の子達の方へ言葉を投げかけた。
「まだ何かいるかもしれない。この子を親御さんの元へ連れてから目的地へ向かおう。……それでも平気か、モモ」
すると、問いかけられたピンクのスカートの女の子は弱々しく微笑みながら、「はい」と答えた。
気が動転していて気づかなかったが、少年から見てもその女の子は具合が悪そうだ。
「どこへ行こうとしていたか教えてくれるか?」
「隣町のこんめ……コンメル……」
「コンメル・フェルシュタット?」
「そうです、そこです。そこにとーちゃんのお店があって、今日は店番を手伝う予定だったんだけど、僕が寝坊したからこんなことに……」
きまりが悪そうに少年が言うと、「それで一人で森を歩いていたのか」と頷き、男性は少年の頭をぽんぽんと撫でた。すると、その後ろから白いワンピースの女の子が、ひょこっと顔を出し、
「行くところ一緒だねー! 私はシャルロッテ。よろしくね、ボク!」
と言いながら、少年に手を差し出した。そう、男性――ロルフたちの向かう先もコンメル・フェルシュタットである。そして、コンメル・フェルシュタットはここからそれ程遠くはない。
少年は「はい!」と返事をすると、差し出された手を取り立ち上がる。そして、何やら楽しそうに会話を始めた。
その横を通り過ぎ、先ほど凍らせた動物に近づいたロルフは、少し考えるかのように眉を顰めていた。しかし、数秒考えたのち、動物――フクロモモンガを自身の魔術ポーチへ仕舞うと、少年たちの方へ向き直る。
「早いところコンメル・フェルシュタットへ辿り着こう」
ロルフのその言葉に各々返事をすると、四人はコンメル・フェルシュタットへ向かって歩き出した。
寒空の中、汗だくの幼い少年が息を切らして森の中を駆け抜けていく。
しばらく走った後、疲れたのか足を止め、後ろを振り返った。
「もう……だいじょうぶ……?」
そう呟いた少年の表情は強張っており、強く握りしめた手も震えている。何かに怯えているようだ。
はぁ、はぁ、と切れた息を整えながら、じっと走ってきた方向を見つめている。
そして、呼吸が整ってきた頃、ふぅー、と深くため息をつき、向かっていた方向にゆっくりと歩き出した。どうやら難は去った様だ。
「こんなことなら、とーちゃんと一緒に来ればよかった……」
ボソッと言ったところで、少年はびくっと体を震わせて立ち止まった。
「また……?」
そう言って再び歩いてきた道を振り返る。しかし、何も見当たらない。気のせいか――と思った時だった。
「ギー! ギー!」という鳴き声と共に、木の間から何やら小さな動物が、少年に向かって飛んできた。少年が間一髪のところで避けると、動物は少年の後ろにあった木にとまる。そして、威嚇しながら再び少年にとびかかろうと体制を変更し始めた。
「なんなんだよ、いったい! 僕が何をしたっていうんだ!」
目に涙を浮かべながら、そう叫び少年はまた走り出す。しかし、先ほどの疲れが癒えていないからか、徐々にスピードが落ちていく。「ギー! ギー!」すぐ後ろで動物の鳴き声が聞こえ、もうだめだ、そう諦めかけた時だった。
茂みを飛び越えて黒いスーツ姿の男性が出てくると、右手を少年の上部に向け、「こっちだ!」と左手を差し出してきた。少年が必死の形相でその手を取ると、男性は、かばう様に少年を自分の後ろへと立たせた。
少年に飛びつこうとしていた動物は、まるで何かに後ろへ引っ張られているかのように空中で停止している。だが、未だ少年に飛び掛かるつもりなのか、羽ばたきを止めようとはせず、牙をむき出したまま鳴き続ける。
「シャル! フリージング!」
「まっかせてー!」
男性が茂みの中に指示すると、女の子の声と共に、茂みの中から何やら冷気のようなものが噴き出し、動物に命中した。すると動物はやっと動きを止め、コロンと地面へと落下した。その姿は、飛んでいたときと同じままの体制だったが、まるで冷凍された食品かのように凍り付いていて、キラキラと光を反射している。
少年が呆然と落ちた動物を見つめていると、
「よくやったな、シャル」
「えっへへー」
嬉しそうにそう言いながら、白いワンピースの女の子が、ピンクのスカートの女の子の手を引きながら茂みから出てきた。
何が起こったのかわからなかったが、自分を襲おうとしていた動物から解放されたと知り、少年はへなへなとその場に崩れ落ちる。
「大丈夫か? 怪我は?」
男性が少年の前にしゃがみ込みながらそう尋ねると、少年はふるふると首を振りながら、「だいじょうぶ」と答えた。
その答えに男性は少年の頭を撫で、「よし、よく頑張ったな」と微笑む。そして、女の子達の方へ言葉を投げかけた。
「まだ何かいるかもしれない。この子を親御さんの元へ連れてから目的地へ向かおう。……それでも平気か、モモ」
すると、問いかけられたピンクのスカートの女の子は弱々しく微笑みながら、「はい」と答えた。
気が動転していて気づかなかったが、少年から見てもその女の子は具合が悪そうだ。
「どこへ行こうとしていたか教えてくれるか?」
「隣町のこんめ……コンメル……」
「コンメル・フェルシュタット?」
「そうです、そこです。そこにとーちゃんのお店があって、今日は店番を手伝う予定だったんだけど、僕が寝坊したからこんなことに……」
きまりが悪そうに少年が言うと、「それで一人で森を歩いていたのか」と頷き、男性は少年の頭をぽんぽんと撫でた。すると、その後ろから白いワンピースの女の子が、ひょこっと顔を出し、
「行くところ一緒だねー! 私はシャルロッテ。よろしくね、ボク!」
と言いながら、少年に手を差し出した。そう、男性――ロルフたちの向かう先もコンメル・フェルシュタットである。そして、コンメル・フェルシュタットはここからそれ程遠くはない。
少年は「はい!」と返事をすると、差し出された手を取り立ち上がる。そして、何やら楽しそうに会話を始めた。
その横を通り過ぎ、先ほど凍らせた動物に近づいたロルフは、少し考えるかのように眉を顰めていた。しかし、数秒考えたのち、動物――フクロモモンガを自身の魔術ポーチへ仕舞うと、少年たちの方へ向き直る。
「早いところコンメル・フェルシュタットへ辿り着こう」
ロルフのその言葉に各々返事をすると、四人はコンメル・フェルシュタットへ向かって歩き出した。
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