創者―ソウシャ―

BOMB

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第1話 異世界【カラクリ】

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 光り輝くものが見えた気がした。
 その光は大きな黒い鉄の塊で、何かが体にぶつかる衝撃音が響いた。
 体がバウンドしてごろごろと転がる鈍い音が耳にこだました。
 救急車のサイレンの音が聞こえて。
 眼を開けようとしても開ける事が出来なかった。

 だけど次に目が覚めると。
 そこはどこかの荒野だった。
 緑色の人間のような生き物が無数に転がっていた。
 頭から桃色のジャムみたいな物がこぼれており、白い白濁とした石のような頭のようなものが見えた。

 それが1体所の話ではない、100体以上も転がっている気がした。
 右手と左手を見ると、そこにはいつもの両手があった。
 空を見上げると、そこにはお月様ではなく見た事もない星々が広がっている。
 群青色に輝いている物やホタルの尻尾の光のように輝いている物がある。

 何かが叫ぶ音が響いた。
 こちらに向かって緑色の人間のようなものが走ってくる。
 斧を掴み襲い掛かってくる。

 とっさに前に手を突き出すと、見た事もない鉄の武器が出現した。
 ようく見るとゲームの剣のようなものだった。
 記憶から何かが消えた気がした。
 幼稚園の頃の幼馴染の顔が思い浮かべる事が出来ない。
 顔にモザイクがかかってしまった。

 右手が光ると、物凄い勢いで俺は剣を振った気がした。
 ただ振っただけなのだ。
 すると緑の生き物が爆発して消滅した。

「はぁはぁ、何が」

「こんなゲームみたいな世界で、つうかこいつらどこからどう見てもゴブリンじゃねーか」

 呼吸を何度も繰り返すと。
 落ち着く事が出来た気がする。
 どうやらこの謎の力を使うと思い出が消えていくようだ。
 ちゃんと幼馴染の顔が消えている。
 斬撃を使っただけでもさらに消えた。

 あまり使いたくないが、剣術なんて知らないし、戦う方法も分からない。
 どこにでもいる中学生なのだから。

 とりあえず歩かないと。
 心の中でそう思った。
 前に前に歩き続けた。
 だけどゴブリンの死体が無数に転がり続けていた。
 人の姿をした物も見つけた。
 
 荒野で戦争でもあったのだろうか。
 何が起きたかは分からないけど。
 とりあえずどこかに行かないといけない。

 小さな岩を見つけた。
 そこの影におびえて隠れている人間がいた。
 それも俺と同じくらいの少年だ。
 
 彼はこちらを見るとぱあっと輝いた瞳で近づいてきた。

「やぁやぁ、ぼくはデナントスだ! 冒険者だよ」

 デナントスと名乗った少年は小麦色の髪の毛をしており、ぼさぼさであった。
 頬にはそばかすが散らかっており、腰にはぼろぼろの剣が装備されていた。

 デナントスはこちらを下から上を見るように眺めた。

「見るからに、浮浪者ってところだけど、その物凄い剣は見た事がないなぁ」

 どうやら俺の恰好はぼろぼろのズボンとシャツだけのようだ。

「俺はヴェイクだ。この世界の事を知りたい」

「へぇ、君、異世界から着たんだ。珍しいなぁ、勇者様候補かな? でもさっき魔王に勇者様殺されちまったしな、この死体の山はさ、勇者と魔王の大戦争が繰り広げられたんだぜ? ぼく達人間は冒険者を募ったんだけどほとんど死んじまった。この世界も終わりかもしれないねぇ」

「この世界の名前ってあるの?」

「そうさ、カラクリって言うんだぜ」

「そうか、カラクリか頼みたい事がある。村まで案内してくれ、報酬はこの剣を売るから、そのお金で渡そうと思う」

「そんな高そうな剣売っちゃうの?」

「仕方ないさ」

「それなら道中、このデナントス様にお任せってんだ」

 俺とデナントスはその足取りで近くの村まで向かった訳だが。

★ 滅びた村

 朽ち果てた建物。
 炎に包まれた家と人。
 焦げ茶色に丸焦げにされた肉と形容して良いだろう。
 腹から内臓を引き出されているのだろう、恐怖に歪んだ顔も丸焦げになっていて分からなくなっている。

 生き物が焼かれた臭い。
 人間が焼かれるとこんな臭いがするのか、思わず生唾を飲み込む。

「あちゃーこの村も滅ぼされちまったようだなー」

「そうか、それなら次の村を」

「無理だねヴェイク、魔王は人間を滅ぼしたいのさ、魔王の許嫁は勇者に殺されたからね」

「どういう事だ?」

「そもそも魔王は平和主義でね、いつも人間に化けて人間と遊んでいたんだ。それを良く思わない人間の国王が人間の許嫁を見つけて殺しちまったんだよ、そうして魔王がぶちぎれたってわけさ」

「なんで君がそんな事を知っているんだい?」

「さぁね、なぜか知っているのさ」

「そうか、どうすればいいんだ」

「この島は滅んだも同然だね、だから海を渡り、ギルガサンド大陸に向かう事をお勧めする。その為には海賊でも何でも雇って渡らないといけない」

「そうしようか」

「そもそもお前は何がしたいんだ?」

「え」

「村を見つけてその剣を売る、そのお金でぼくに褒美をくれる。その後どうする?」

「どうしようもないさ」

「何か隠してるだろ」

「それはお互い様だろう?」

「なら、うち開けよう、同時に言葉に出して話すんだ」

「分かった」

 俺は言葉を切り出そうとしてぐっと堪えて、言葉として紡ぎ出した。

「俺は創造という力を使うと思い出が消える」
「ぼくが魔王だ」

 その場がしばらくの沈黙に包まれて。
 目の前の魔王がぐにゃりと嫌な表情を浮かべて笑った。
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