上 下
6 / 36
第1章 邪教降臨

第6話 隠れて布教活動③

しおりを挟む
 デルファルドはずんぐと森の木々より高い体を器用に動かしながら、二足歩行で村に向かって歩き始めたのだが、ふと疑問が沸き起こった。そちらは村ではなかったのだから。

「これは、村の方角ではありませんね、ルボロス教主様」

「なぁ、デルファルド、その大人達はどんな人間だったんだ?」

「そうだなーとても悪そうな顔をしていてな、沢山のモンスターを捕獲していたぞー珍しいモンスターをなぁー」

「つまり、密猟者? いやあっちはー盗賊の村でございますな、教主様」

 ブブリンが得心とばかりに頷いてくれる。
 俺は心の奥深くで笑い転げていた。
 盗賊なら殺していいか?
 そんな道徳に反する事はしたくないのだが、まぁ様子を見よう。

「デルファルド、俺は見学させてもらっていいか?」

「いいぞー友達になってくれるならとても嬉しいぞー」

「もちろんだとも、デルファルド、君は軍隊属性みたいだ。教えておくぞ」

「意味があるのかな?」

「うまく利用してくれ、スライムの軍隊でも作るんだな」

「ありがとうなー」

 森の木々が人型巨体スライムの二足歩行がのっしのっしと歩く姿は巨人そのものであった。
 違うとしたら無数の核があり、水道の色をした液体という事くらいだろうか。



 1時間ほど歩き続けていたと思う。
 果て無き森を彷徨い続けていたと思う。
 まばらに木々が両断されている姿が見られる。
 人の住んでいる痕跡が見られる。

「これは、教主様、盗賊の村でございますねぇ、あそこにあるモンスターの子供達を売りさばくみたいですねぇ、モンスターの子供は高く売れるのですよ」

 ゴブリンのブブリンが腕組みしながらうむうむと頷きながら、空を見上げていた。

「雨が降りそうですなぁ」

 ぽつりぽつりと灰色の雲間から覗く太陽の光が、暗雲の雲に隠れていき、辺りが静けさに包まれてきた。
 雨音だけが辺りに響き、少しだけ気だるい気持ちにさせてくれる。

 デルファルドのスライムの体はさらに肥大化していく。

 邪教スキルの力でデルファルドのエレメンタル属性を見て口を大きく開けてしまった。

 純粋向くな水属性であったのだから。

 デルファルドの体は山のようにどっぷりとゆったりと歩き出している。

 その時、盗賊の村の方角から警報の音が響き渡った。
 沢山の悪そうで生意気そうな大人達が現れて、奇声を上げ武器を構えていた。
 その数100人。

 よくぞここまで盗賊の村を発展させていたものだと、俺は心の中から拍手を送ったのだが。
 デルファルドの一撃の拳のもとで5人の盗賊が瞬殺された。
 スライムの体に吸収され、肉体が液体状になりながら苦しみもがき骨だけとなり、その骨自体も吸収されていく。
 
 盗賊達が1人また1人と奇声を上げて、魔法を解き放つ。
 スライムに効くのか雷系の魔法ばかりで、デルファルドはスライム語で壮絶な雄叫びを上げていた。

 その時、デルファルドの体がぐにゃりと歪み始めた。
 地面に無数に散らばる。
 無数のスライムとなる。

 次の瞬間、そのスライム達は俊敏に動き回り始めたではないか。

「これがー軍隊属性」

 デルファルドは軍隊属性の使い方を理解していたようだ。
 無数のスライムを軍隊の手足のように操りながら、次から次へと盗賊達の顔面に張り付く。

 顔が骨と肉の塊となって脳みそをむき出しにさせながら絶命していく。

 盗賊達が60人程くらいになった時、勝利が無いと悟ったのか、1人また1人と疎らに逃げ腰になりつつあったのだが。

 盗賊の数が30人を切ろうとしたまさにその時。

 無数にいるデルファルドのスライムの体が光始めた。
 1体また1体と光の結晶となって消滅していくではないか。

 デルファルドは黒いスライムになった。
 それがブラックスライムと呼ばれるそれであり、体の大きさは普通のスライムの大きさとなんら変わりなかった。

 違うとしたら、闇のオーラのような塊、進化する事で、属性も切替わった。
 今の彼の属性は殺戮者属性であった。エレメンタルや闇属性と変貌している。

 殺戮者属性がどのような物なのかは理解できないが、名前の由来からしてなんとなーくわかる気がする。

 ブラックスライムだけになったので、盗賊達は笑い転げていた。
 どうやら彼等は自分達に勝利が近づいていると思ったようだ。
 頭のような人間が勇壮なハルバートを握りしめてやってくる。

 狂戦士属性である事は分かった。
 エレメンタル属性はなかった。どうやら何の恩恵もないらしい。

「てめーらたかがスライム1体に何手間取ってやがるんだ」

 そう言いながら、ハルバードで近くの檻に入れられていたスライムを叩き潰した。
 ブラックスライムの怒りの気持ちがふつふつと沸き上がるのを感じた。

 俺はブブリンに目配せして動き出した。

「おいおい、何怒ってんだよスライム風情が、どうやら仲間思いのようだな、どうだ? 仲間を殺されたくなければ従え、ブラックスライム、ブラックスライムはレアだから高く売れるだろうさ」

 そんな言葉はブラックスライムには伝わっていない。
 
 俺はエンチャント魔法【シールド】で檻を強化していた。
 それをブラックスライムは見ていた。

「あん? じゃあ次も殺すぞ」

 盗賊の頭は檻を叩き潰そうとしたのだが。
 俺は物陰からほくそ笑んでいた。
 檻は破壊されず、中にいたスライムは無事だったのだから。

「あ、れ」

 次の瞬間、ブラックスライムの体がぐにゃりと歪み始める。
 黒い触手のような物を伸ばして、鞭の要領で10名の盗賊を瞬殺してしまった。
 盗賊達の体は無残にもばらばらに切り崩されていた。

「うそだろ」
「お、おかしらああああ」
「に、にげろおおおお」

 だが他の20名も逃げる暇もなく、ブラックスライムに瞬殺されていた。
 本当に災害級のモンスターを遥かに超えていた。

「へへ、やべーな」

 お頭だけになった。狂戦士属性の盗賊は。
 腰袋から瓶を取り出してそれを飲み干した。

 体の血管が浮かび上がる。
 深紅に染まりはじめて、真っ赤に燃えるように熱くなる。
 眼が充血していき、鼻から白い煙が噴き出る。

「バーサーカーでもくらえええええ」

 どうやらスキルのバーサーカーを発動させたようだ。
 超人的な動き、一瞬でブラックスライムの背後に回ると、ハルバートを振り落とした。
 構えてから振り落とすだけで1秒もかからない。
 風のように土埃をまき散らしながら、地面が爆発した。

 空中にブラックスライムが飛んでいた。
 そこから無数の触手の蔓が盗賊の頭に雷撃のように飛来する。

「おらおらおらおらああぁあああ」

 その全てをバーサーカーとなった盗賊の頭はさばき続ける。
 体の筋肉の血管がさらに浮かび上がり、筋が切れては再生されている。
 血管が千切れては血が噴出している。
 口からも吐血して、鼻からも血が流れる。
 眼からも出血し始める。

 どうやらバーサーカーの力を多用すると、体に負担がかかるようだ。

「はぁはぁはぁ」

 だがブラックスライムは涼しい顔でそれを見ていた。

「人間よ、そなたはよくぞ戦ってくれた。だが、ここで終わりぞ」

 まるで最強種に目覚めたかのようなしゃべり方になり。
 ブラックスライムの触手は盗賊の頭の首を跳ねていた。
 首は宙に飛んでいながら、地面に向かって円を描いて転がっていく。

 頭を失った体は、何かに気付いたようにハルバートを落として、膝をがくんと地面にぶつけ、不器用にどさりと倒れた。

 そうして盗賊の村は、綺麗な状態で壊滅したのであった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

クラス転移、異世界に召喚された俺の特典が外れスキル『危険察知』だったけどあらゆる危険を回避して成り上がります

まるせい
ファンタジー
クラスごと集団転移させられた主人公の鈴木は、クラスメイトと違い訓練をしてもスキルが発現しなかった。 そんな中、召喚されたサントブルム王国で【召喚者】と【王候補】が協力をし、王選を戦う儀式が始まる。 選定の儀にて王候補を選ぶ鈴木だったがここで初めてスキルが発動し、数合わせの王族を選んでしまうことになる。 あらゆる危険を『危険察知』で切り抜けツンデレ王女やメイドとイチャイチャ生活。 鈴木のハーレム生活が始まる!

異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話

kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。 ※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。 ※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 異世界帰りのオッサン冒険者。 二見敬三。 彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。 彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。 彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。 そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。 S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。 オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?

パンツを拾わされた男の子の災難?

ミクリ21
恋愛
パンツを拾わされた男の子の話。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

世界最強で始める異世界生活〜最強とは頼んだけど、災害レベルまでとは言ってない!〜

ワキヤク
ファンタジー
 その日、春埼暁人は死んだ。トラックに轢かれかけた子供を庇ったのが原因だった。  そんな彼の自己犠牲精神は世界を創造し、見守る『創造神』の心を動かす。  創造神の力で剣と魔法の世界へと転生を果たした暁人。本人の『願い』と創造神の『粋な計らい』の影響で凄まじい力を手にしたが、彼の力は世界を救うどころか世界を滅ぼしかねないものだった。  普通に歩いても地割れが起き、彼が戦おうものなら瞬く間にその場所は更地と化す。  魔法もスキルも無効化吸収し、自分のものにもできる。  まさしく『最強』としての力を得た暁人だが、等の本人からすれば手に余る力だった。  制御の難しいその力のせいで、文字通り『歩く災害』となった暁人。彼は平穏な異世界生活を送ることができるのか……。  これは、やがてその世界で最強の英雄と呼ばれる男の物語。

貞操逆転世界に無職20歳男で転生したので自由に生きます!

やまいし
ファンタジー
自分が書きたいことを詰めこみました。掲示板あり 目覚めると20歳無職だった主人公。 転生したのは男女の貞操観念が逆転&男女比が1:100の可笑しな世界だった。 ”好きなことをしよう”と思ったは良いものの無一文。 これではまともな生活ができない。 ――そうだ!えちえち自撮りでお金を稼ごう! こうして彼の転生生活が幕を開けた。

処理中です...